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短編C-① 『ある人々の役割』 ― 一日だけ、誰かになってみた ―  作者: Taku


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第2話『役割は変われても、仲間は変われない』

―――中継セクター会議室―――


役職交換が始まって、すでに半日が経っていた。


会議室は、混沌としていた。いや、混沌というより、ある種の「秩序なき平和」が支配していると言ったほうが正しいかもしれない。それぞれが新しい役割に戸惑いながらも、それなりに適応し始めている。ただ、カノジョだけは別だった。


「次は何をやろうかな!」


カノジョは、部屋中を駆け回っている。彼女の一日は、すでに「全役職」をこなすことで埋め尽くされていた。彼女は、博士の研究室に飛び込み、監査役の書類を処理し、隊長の盾を抱えて走り回り、スターのギターを爪弾き、カレシの手帳に落書きをし、女将のエプロンを着けてコーヒーを淹れ、雇い主の席に座って何やら考え込んでいる。


「……彼女、本当に全部やってるな」


スターが、遠くからその様子を見つめながら言った。


「ええ。しかも、それぞれの役割を『理解』しているように見えます」


カレシが、自分の手帳を見つめながら答える。彼の手帳には、カノジョが書き足した落書きがいくつか残っている。それは、明らかに意味のない線や丸だった。しかし、その線や丸の一つ一つが、なぜか温かみを感じさせるものだった。


「理解というより、『感じたまま』なんだろうな」


隊長が、雇い主の席から言った。彼は、まだ大量の領収書と格闘している。その手は、疲れで少し震えていた。


「……それにしても、監査役の仕事は、本当に大変だな」


「……今ごろ、その気持ちが分かりましたか?」


監査役が、博士の研究室から戻ってきた。彼の手には、なぜか電源コードが握られている。その顔は、少しだけ満足げだった。


「……研究設備、三台の電源を落としました」


「それは、何のためだ?」


博士が、後ろから絶望的な声で尋ねる。


「安全のためです」


「科学とは危険への挑戦だ!」


博士が、立ち上がって叫ぶ。


「稟議は却下です」


「……科学が、止まったか」


博士は、またしてもその場に崩れ落ちた。


その時、カノジョが博士の前に立った。彼女は、真剣な表情で博士を見つめている。


「博士」


「……なんだ?」


「実験って、何かを『知りたい』って思うことだよね」


博士は、その言葉を聞いて、一瞬だけ固まった。


「……そうだ。私は、知りたいだけなんだ」


彼は、少しだけ笑った。


「……ただ、知った先で怒られるんだがね」


「でも、また知りたくなるんでしょ?」


「……そうなんだ」


博士の声が、いつもより少しだけ柔らかくなった。


「すごいなあ」


カノジョは、それだけ言って、走り去った。


カノジョは、次に隊長の前に立った。彼女は、隊長が持っている盾を見つめて、優しく微笑んだ。


「隊長っ」


「……なんだ?」


「守るって、抱きしめることと一緒だよね」


「……そういう訓練は受けていないが」


隊長は、真面目な顔で答えた。


「……ん?」


「守ることと抱きしめることは、別の話だ」


カノジョは、首をかしげた。


「でも、どっちも『大丈夫だよ』って言ってるんじゃない?」


隊長は、その言葉を聞いて、自分の盾を見つめた。そして、しばらく考え込むようにうつむいた。


「……確かに、そうかもしれない。安心を与えたいのは変わらんか」


「うん。それが隊長だよ」


カノジョは、それだけ言って、走り去った。


カノジョは、次に監査役の前に立った。彼女は、監査役が手にしている書類を見つめて、言った。


「監査役さん」


「……なんだ?」


「全部経費でいいよ!」


「……は?」


「だって、みんな頑張ってる証拠だもん」


監査役は、何も言えなかった。彼は、自分の手元にある書類を見つめて、少しだけ眉をひそめた。


「……経費は、証拠じゃない」


「でも、それで頑張れるじゃん」


「……」


監査役は、しばらく沈黙した。そして、小さな声で言った。


「……うむ。ただ、みんなが旅から戻ってきてほしいだけなんだ。それが、私の役割だ」


「うん。それでいいよ」


カノジョは、それだけ言って、走り去った。


カノジョは、次にスターの前に立った。彼女は、スターのギターを指で撫でながら、言った。


「スター。歌は泡みたいだね」


「……泡?」


スターは、その言葉を聞いて、ギターのネックを見つめた。


ジャラン……!「こうか」


「うん。さすがスターだね」


カノジョは、それだけ言って、走り去った。


カノジョは、次にカレシの前に立った。彼女は、カレシの手帳に書かれた落書きを見つめて、言った。


「カレシ。記録って、誰かのことを覚えておくってことだよね」


「……それは、そうだ」


カレシは、その言葉を聞いて、自分の手帳を閉じた。そして、静かに言った。


「……君は、なぜ、人に入れるんだ」


「分からない。でも、感じるの」


カレシは、それ以上何も言わなかった。ただ、手帳を胸に抱えて、小さくうなずいた。


カノジョは雇い主を見上げて言った。

「雇い主。役割は変われても、仲間は変われないね」


「……ああ。その通りだ。だから、この会議室は続いてきたんだ」


誰も返事をしなかった。でも、全員が少しだけ笑った。


「……やっぱり、俺は歌だな」


スターが、ギターを見つめながら呟く。


「自分は、隊長がいい。守るという役割が、自分の居場所だ」


隊長が、腕を組んで言う。


「もう研究室には入りません」


監査役が、冷たい声で言った。


みんなが笑う。


風が、窓の外を通り過ぎた。


長老が、ふと外を見る。


カノジョも、それに続いた。


「……海の匂いか」


誰も気にしない。ただ、長老だけが、静かに呟いた。


「……ほう」


その声は、誰にも届かなかった。


【観測記録:中継セクター】


日時:本日(交換開始から約半日)

イベント:全役職交換(進行中)


特記事項:

カノジョ、各役割の本質を言語化する現象が継続中。

各メンバー、自分たちの役割の本質を再認識し始めている。

「役職は変われても、仲間は変われない」は、この会議の本質を表現している。


観測を継続する。


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