表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編C-① 『ある人々の役割』 ― 一日だけ、誰かになってみた ―  作者: Taku


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/4

第3話『夕暮れの会議室と、変わらない仲間』

―――中継セクター御前会議室―――


日が、沈みかけていた。


窓の外の空が、オレンジ色に染まり始めている。会議室の中には、一日の終わりを告げるような、穏やかな静けさが広がっていた。


「……さて、そろそろ終わりにしよう」


監査役が、手帳を閉じた。その声は、いつもの冷徹さを保っていたが、どこか安堵が混ざっているようにも聞こえた。


「一日限定の役職交換、これをもって終了とします」


その言葉に、全員が深く息を吐いた。一日中、役職に翻弄されていた疲れが、一気に解放される。


「……やっと終わった」


雇い主が、自分の席に戻りながら言った。彼は、腰を押さえながら、ゆっくりと座る。


「隊長の仕事は、想像以上に体力がいるな……尊敬する」


「雇い主も、なかなかやるじゃないですか」


隊長が、雇い主の席から戻りながら、苦笑した。


「監査役の仕事は、まさに数字との格闘ですね……頭が痛い」


「隊長も、大したものでしたよ」


監査役が、冷静に返す。


「……それは、誉め言葉か?」


「さあ」


そのやり取りに、みんなが笑った。


博士は、自分の研究室に戻り、電源を落とされた装置を確認している。その顔は、まだ少し悲しげだった。


「……科学が、止まった」


「まだ言ってるの?」


カノジョが、後ろから声をかける。


「……私のデータが戻ってこない限り、この悲しみは終わらない」


「じゃあ、もう一度実験すればいいじゃん」


「……それも、そうだな」


博士は、少しだけ笑った。


スターは、自分の席に戻り、ギターのネックを撫でながらハミングする。


「♪ラーラ、ララーラ、ランララン♪」


カレシは、手帳を開いて、今日の記録を確認している。


「……それにしても。今日一日の記録が台無しだ」


「台無しも大切な記録さ!」


スターは、にっこり笑った。



カノジョは長老に近づき尋ねた。


「長老は何になりたかったの?」


長老は照れながら答える。


「若い頃は英雄じゃと思っておった」


少し笑う。


その笑顔は、照れくささと諦めが混ざっていた。


「でも、最後は見送る役でも悪くない」



女将は、カウンターに戻り、コーヒーを淹れ始めていた。その手つきは、一日中、誰かの役割をこなしていた時よりも、ずっと自然で優しかった。


「……やっぱり、自分の席が一番落ち着くわね」


「自分の役が一番難しい」


スターが、その言葉に続けた。


「だからこそ、面白いんだろうな」


その言葉に、みんながうなずいた。


その時、長老が、ゆっくりと口を開いた。


「……人は、誰かの役にはなれても、誰かそのものにはなれん」


全員が、彼の方を見る。


「だから安心せい。お前さんは、お前さんでええ」


その言葉は、説教ではなく、ただの確認のようなものだった。静かな笑いが、会議室に広がる。


長老は、立ち上がろうとした。


「さて、今日はこの辺に――」


一瞬だけ、手すりに手が添えられる。


「……歳じゃよ」


カノジョは黙って袖をつまんだ。長老は何も言わず、一緒に歩いた。


会議室の窓が、少しだけ開いていた。風が吹き込む。


「……あら」


女将が、ふと窓の外を見た。


「海の匂いがするわ」


スターが、ギターを抱え直す。


「……また、旅かな」


長老は、少し目を閉じる。


「……懐かしい風じゃ」


誰も、その言葉の意味を口にしなかった。でも、全員がそれを感じていた。


会議室が、少しだけ静かになる。


全員が、それぞれの席に戻っていた。

役職は、もう元に戻っている。

でも、彼らの間には、何かが変わったような気配があった。


カノジョが、窓辺に立ち、外を見ていた。


「ねえ、明日も――」


彼女は、少しだけ間を置いた。


「――みんなでコーヒー飲もうね」


誰も返事をしなかった。


隊長が、静かにカップを持ち上げる。


博士も。


女将も。


スターも。


やがて、全員が少しだけ笑った。



その時だった。


窓からもう一度、潮の香りが流れ込む。


誰も何も言わない。


ただ、カノジョだけが、小さく呟く。


「……誰かが、呼んでる」


カレシだけがその声を聞いていた。



【観測記録:中継セクター】


日時:本日(終了時)

イベント:全役職交換(終了)


次回議題:

未定(監査役所見「決まっておりません」)


総評:

一日限定の役職交換は、予想以上の成果を上げた。

各メンバーは、互いの役割の本質を再認識し、自らの役割に対する理解を深めた。

カノジョは説明不能。ただ感じている。


観測を継続する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ