出発
私は首を押さえられ、ギロチンの刃が私目掛けて振り落とされる。
そんな未来がフラッシュバックして、 体が小刻みに揺れ、頬に冷たい汗が伝う。
「嫌だ…死にたくない」
ただでさえ、転生して混乱しているのに。処刑される未来が約束されているなんて冗談じゃない。
「な…何か。何か行動を起こさなきゃ」
私は手に持っていた手紙を強く握りしめる。
階段で足を滑らせて死んだと思ったら、二度目の人生でもすぐに死ぬのが確定…? こんなの間違ってる。ローゼンベルク家からこの契約を解除してもらわなきゃ……。じゃないと……私は…。
無理かもしれない。追い返されるかもしれない。けれど私は行動するしかなかった。
◇
家から出た瞬間、私は立ち尽くした。
見渡す限り畑だった。地理の教科書で見たことある。これは紅茶畑…?
「……どこ?」
乙女ゲームの主要な街並みは覚えている。けれど、こんな場所は知らない。
道順が分からず足が止まってしまう。私は辺りを見渡し、畑にいる女性を見つける。
そうだ。あの人に聞こう。
私は畑で作業している女性の元へと近づく。
「あの…すみません」
女性は振り向き、笑顔になる。
「あらマリア。起きるのが遅かったじゃない。珍しいわね。……それにしてもどうしたの…? 随分とよそよそしいじゃない」
マリアって確か手紙に書いてた名前……。ってことは私のことか。
つまりこの人は私の知り合い……? まずい怪しまれないようにしなきゃ。若干頭に白いモヤがかかる。
「ごめんなさい! 寝ぼけちゃって間違えちゃったの」
なるほどと女性は零す。
「マリアもそういう日があるのね。ちょっと安心したわ。貴方いつも気負ってるから」
この喋り方の様子的に家族ではなさそう…? でも、家の広さ的に一人暮らしではなさそうだしどうなんだろ? いずれにせよボロを出さないようにしなくちゃいけない。
「あはは…心配してくれてありがとう」
「いいえ。それより、何か聞こうとしてたんじゃなかった?」
私は本来の目的を思い出す。
「ローゼンベルク家に行きたくて――」
「アンタまだそんなこと考えてたの!!」
女性は涙ながらに睨みつける。しかし、私も引けない。
私は手紙をさらに握りしめる。女性は私の手元を見る。
「マリア…それは……」
「ローゼンベルク家からの通達」
慌てて女性は私の手から手紙を取る。破れた紙を照らし合わせ、女性は内容を確かめた。
「そんな…身代わりに……」
「そう。だから契約を解除してもらいに行くの」
女性は俯いたまま
「そう…しがらみに囚われているわけじゃないのね」
「ええ」
しがらみ。ローゼンベルクとも関係を持ってたってこと…? この体は一体……。
「分かったわ。じゃあ、約束してマリア。結果がどうあれ必ずここに戻ることを」
「その約束お守りします」
小柳奈津としてではなく、マリアになりきって行ってみせる。
「おばさま」
無難な呼び方をする。女性は悲しそうに微笑む。
「こんな時ぐらい、貴方のお母様でありたかったわ」




