第七試合 4.和室
はっと譲二は目を覚ました。(天上ではなく)天井と、和紙をシェードに使っている正方形の照明器具及び丸形蛍光灯が目に入る。
「気がついたか、譲二くん」
詠美が覗き込んできた。心配そうな表情をしている。
「剣崎さん。ここは……」
「そのままでいい。動くと落ちるぞ」
譲二は施術用の簡易ベッドで仰向けになって寝ていたようだ。それで、自分は首の施術を受けていたのだと思い出す。
障子窓を見やって外の明るさを確認し、そこまで時間は経ってないと見当をつける。
「申し訳ない。手が滑っちゃって……首に痛みや手足の痺れは?」
眉尻を下げた鈴莉がそう尋ねてくる。手元には枕や湿布の箱が見えていた。
肘をついて、譲二は首を動かしてみる。続いて、手を握って開いてを繰り返す。足も指を曲げたりしてみた。
「……痛かったのがまったく無くなっています」
「え?」
と、目を見張る詠美。鈴莉の方は眉根を寄せていた。
「それどころか、以前よりとても調子がいい気さえしています」
「そ、そうか。それならよかった……。言ったろ、こいつは腕利きだって」
詠美が胸を撫で下ろした。次いで、破顔しながら、隣に立つ整体師の肩に手を置く。
鈴莉は口を開かない。どころか、疑わしげな目つきになっている。
でも、事実そうなのだから仕方がない、と譲二は思った。今すぐ試合を組んでほしいぐらいに、気力も充実している。
かいま見た夢の内容は気になるが……、夢は夢だ。体の方に問題がなければ、それでいい。
「驚いたな。あなたは本当に整体師さんだったんですね」
譲二は口端に畏敬の念を込めて、言った。
「……よく言われるよ」
ふ、とやっと微笑む鈴莉。どうやら、軽口をまぶした称賛は伝わったらしい。
実は、譲二は彼女のことを天使かとも思ったのだが、それは黙っておくことにした。現実と夢を混同しているという自覚があったからだ。
鈴莉が詠美に、「様子を見て、もし変調が生じたらすぐに連絡をして」と念押ししている。それを聞きながら、譲二はもう一度ごろりと、ベッドに横になった。
何となしに丸形蛍光灯の光を見つめる。網膜に光の帯が焼きつきそうになって、すぐに目を逸らした。格闘家たるもの、眼は大事にしなければ。




