第九試合 3.人獣
藤間和貫も、人獣の女が出現した直後は固まっていた。生物としての断絶した強さを感じとり、不覚にも身がすくんでいたのだ。
女が次に、こちらへと体を向けた。アメリカンフットボールのセット時に腰を落として地面に手をつけるような、三点ポジションの姿勢になる。
来る、とわかった。
「近郷、瀬々、離れてろ! 俺が行く!」
そばにいた二人を手振りで下がらせて、藤間は前に出た。相手の素性が判然としないが、格闘兵であると想定できる以上、戦時国際法に従って一対一で戦わなければならない。
地を蹴り、一直線に襲いかかってくる大女。まさに暴走機関車の如し。
藤間は右側に踏み込み、すんでのところでショルダータックルをかわした。ほぼ同時に右腕を振りかぶって、女の側頭部に渾身のフックパンチをお見舞いする!
おおっ、と部下の智也が感嘆の声を上げるのが聞こえた。
カウンター気味に入ったはずだった。テンプルに当たれば、仮に相手が“氷の皇帝”だとしても生まれたての小鹿のように小躍りさせてやる、と常日頃から豪語していたゴリラフックが。
だが……。
(……な、んだ……この、硬さは)
大きな岩を叩いたような、鈍い衝撃。藤間は思わず顔をしかめる。拳の骨が折れてしまったかもしれない。
止まらない。迫りくる肉食獣。ゴリラフックが効かないことに絶望し、それでも、差し合いになると理解した藤間は腰を落として踏ん張った。
が、無意味だった。喉の辺りをつかまれ、一瞬で体が宙に投げ出される。
(こ、れは……、人間の……パワーじゃ、ない……!)
押し込まれた藤間は背中から戸建ての塀に激突し、そのコンクリートブロックを粉砕しながら地面に叩きつけられた。




