第六試合 6.孤児院の記憶
「ほらよ」
譲二は両手に持っていた物を雑に突き出した。
それはスケートボードだった。先端が緩やかにとがった長方形の板に、小さな四輪が付いている。
「これ、おまえのなんだろ」
大輝はわずかに驚いた顔をしてスケートボードを見下ろしてくる。逆向きに被った野球帽からはみ出ている髪の毛がうねっていた。
「あら。よかったわね、大輝くん。スケボーが見つかって」
孤児院の女性職員が大輝の肩越しに覗き込んで、そう言う。
「彼――松浦譲二くんにお礼を言いなさいね」
譲二は早く受け取れと再度、腕を伸ばした。大輝はボードを受け取って脇に抱え、片手をポケットに入れる。
「……サンキュ」
訝りながらも礼を言う大輝。どういうつもりだ、という警戒心が透けて見えていた。
職員が小さな子のいる遊具へ歩いていき、公園の端は譲二と大輝の二人だけになる。砂利に映っている二つの影は、少し傾いていた。
譲二はにやっと表情を崩し、今しがた去っていった職員を顎で指し示した。
「なくしたって言ってたのか」
大輝はついっと明後日の方向を見やる。「だったら何だよ」
「へッ、このかっこつけが。本当はあいつらに奪われたんだろうがよ」
譲二は振り向く。その視線の先には、鉄棒の周りでたむろっている少年が何人かいた。同年代にしては体のでかい男子もいる。譲二と大輝の方をちらちらと見ては、不自然そうに目を逸らしていた。
「その傷と絆創膏でバレバレだっつうの」
「余計なお世話だ」
大輝の口元には絆創膏が貼られていた。よく見れば肘や膝も所々、擦り剥いている。
大方、鉄棒のところにいるグループとやり合ってできたものだろう。そのスケボーちょっと見せろよ、とか気どってんじゃねえぞ、というふうに。
「なぁ、あいつらのこと責めないでやってくれるかな」
譲二は顔の前で手を合わせた。大輝がぱちくりと目を瞬く。
「北から疎開してきたやつらで、何にも持ってこれてないらしいんだ。おもちゃも、親との思い出の物も……」
聞いていた大輝は顔を俯ける。眉間にしわを寄せていて、何かをこらえているようにも、何かに憤っているようにも見えていた。
……もしかして心を痛めてくれているのだろうか、と譲二は意外に思う。
「別に、怒ってないさ」
「そうか」
「……壊さないって約束をしてくれるのならいつでもスケボーを貸す、と言っておいてくれ」
譲二はふっと微笑む。何だ、こいつ良いやつじゃないか、と。
(……そうだ。大輝はクールな印象に反して、いつだって優しかったんだ)
件のスケートボードも結局、孤児院を出ていくことになったときに「後輩の子達にあげてください。順番を守ってみんなで、大事に使うようにと」と言って、職員に譲ったのだ。
このときから、面倒見の良い兄貴分の素質があったわけだ。
「あ、それ……」
譲二は指差す。ボードの車輪の接続部分がガムテープで固定されているのが見えた。
「これか。古い物だからな、一つ取れかけてて。仕方なく、ガムテで応急処置しているんだ」
「……ダチにこの手の修理が得意なやつがいる。直させてやるから、来いよ」
手招きをして、歩き出した。大輝もそれに倣って来る。
「えっと……」
「市原大輝。大輝でいい」
譲二は振り向いて、破顔する。
これが譲二と大輝、二人の始まり。今から三、四年前のこと。それから二人は意気投合して、よく一緒に行動するようになる。
「へへッ、よろしくな。俺の名は――」




