表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/114

第六試合 6.孤児院の記憶

「ほらよ」


 譲二は両手に持っていた物を雑に突き出した。


 それはスケートボードだった。先端が緩やかにとがった長方形の板に、小さな四輪が付いている。


「これ、おまえのなんだろ」


 大輝はわずかに驚いた顔をしてスケートボードを見下ろしてくる。逆向きに被った野球帽からはみ出ている髪の毛がうねっていた。


「あら。よかったわね、大輝くん。スケボーが見つかって」


 孤児院の女性職員が大輝の肩越しに覗き込んで、そう言う。


「彼――松浦譲二くんにお礼を言いなさいね」


 譲二は早く受け取れと再度、腕を伸ばした。大輝はボードを受け取って脇に抱え、片手をポケットに入れる。


「……サンキュ」


 いぶかりながらも礼を言う大輝。どういうつもりだ、という警戒心が透けて見えていた。


 職員が小さな子のいる遊具へ歩いていき、公園の端は譲二と大輝の二人だけになる。砂利に映っている二つの影は、少し傾いていた。


 譲二はにやっと表情を崩し、今しがた去っていった職員を顎で指し示した。


「なくしたって言ってたのか」


 大輝はついっと明後日の方向を見やる。「だったら何だよ」


「へッ、このかっこつけが。本当はあいつらに奪われたんだろうがよ」


 譲二は振り向く。その視線の先には、鉄棒の周りでたむろっている少年が何人かいた。同年代にしては体のでかい男子もいる。譲二と大輝の方をちらちらと見ては、不自然そうに目を逸らしていた。


「その傷と絆創膏ばんそうこうでバレバレだっつうの」


「余計なお世話だ」


 大輝の口元には絆創膏が貼られていた。よく見れば肘や膝も所々、り剥いている。


 大方、鉄棒のところにいるグループとやり合ってできたものだろう。そのスケボーちょっと見せろよ、とか気どってんじゃねえぞ、というふうに。


「なぁ、あいつらのこと責めないでやってくれるかな」


 譲二は顔の前で手を合わせた。大輝がぱちくりと目をしばたく。


「北から疎開してきたやつらで、何にも持ってこれてないらしいんだ。おもちゃも、親との思い出の物も……」


 聞いていた大輝は顔をうつむける。眉間にしわを寄せていて、何かをこらえているようにも、何かにいきどおっているようにも見えていた。


 ……もしかして心を痛めてくれているのだろうか、と譲二は意外に思う。


「別に、怒ってないさ」


「そうか」


「……壊さないって約束をしてくれるのならいつでもスケボーを貸す、と言っておいてくれ」


 譲二はふっと微笑む。何だ、こいつ良いやつじゃないか、と。


(……そうだ。大輝はクールな印象に反して、いつだって優しかったんだ)


 くだんのスケートボードも結局、孤児院を出ていくことになったときに「後輩の子達にあげてください。順番を守ってみんなで、大事に使うようにと」と言って、職員に譲ったのだ。


 このときから、面倒見の良い兄貴分の素質があったわけだ。


「あ、それ……」


 譲二は指差す。ボードの車輪の接続部分がガムテープで固定されているのが見えた。


「これか。古い物だからな、一つ取れかけてて。仕方なく、ガムテで応急処置しているんだ」


「……ダチにこの手の修理が得意なやつがいる。直させてやるから、来いよ」


 手招きをして、歩き出した。大輝もそれに倣って来る。


「えっと……」


「市原大輝。大輝でいい」


 譲二は振り向いて、破顔する。


 これが譲二と大輝、二人の始まり。今から三、四年前のこと。それから二人は意気投合して、よく一緒に行動するようになる。


「へへッ、よろしくな。俺の名は――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ