忘れていたこと
レティアを迎えに行かないと。
服で盛大に時間取られたからね。
急がないとって、あぁ……
「それじゃ、レティアのお迎えね」
「……少し遅くなりました」
セシリーは疲れ気味、ルリさんは遅くなったと言ってるけど、やっぱり嬉しそう。
ミュラのおかげで散々だったけど……。
「レティアを迎えに行くのも大事なんだけど、一つ重要なこと忘れてた……」
買い物が楽しみだったのは本当。
買い物で忘れたんじゃないからね?
「……何かあるのですか?」
「ルリさんも関係あるかな。……頼まれていたこともあるし」
「私は?」
セシリーが少し不満そうにしている。
知らない仲ではないけど、雑談ぐらいしかしてないはずだからね。
「今日、ギルドの受付の一人が結婚するんだよね」
「……結婚ですか?」
「それ、重要な話よね……」
セシリーが顔に手を当てていた。
その気持ちは私もわかる。
「重要なんだけど、ミュラのおかげで綺麗に忘れてたんだよ……」
「納得したくないけど、納得できるわね……」
セシリーと同時にため息がでる。
「……レティアのお迎えが遅れるのは仕方がないです。それで、私に関係あるというのはなんですか?」
「えっと、お父さんにちょっと頼まれてね。ルリさんって冒険者の人に色々と助言とかもしてくれるから、何かお祝いの言葉とか知ってるのなら、お願いしたいって」
「……それは凄い役目だと思うのですけど?」
結婚する人に言葉を贈るというのは、本当に凄い役目。
結婚に関しては、フェイマスではそこまで重要な式はないからね。
盛大にしたりする場合は教会で行ったりするけど。
あと思いつくのは、親族に偉い人がいればその人から祝いの言葉が贈られる。
「お祝いの言葉ね。それはわかったけど、ルリってそういうの知っているの?……正直、結婚の意味も知らない気がするんだけど」
「確かに、ルリさんが知ってるのか気になる。そこは盲点だったかも……」
恋愛感情はわからないというのは、先日知らされたばかり。
結婚がわかるのか、疑問に思わなかったのが変な気もする。
「……それぐらいわかります」
そう言って、ルリさんが考え込みだした。
「何を考えてるの?」
セシリーも気になったらしい。
言葉を考えているのかな?
「……こればかりは結婚する人に確認を取らないとダメですから」
「そんなに重要なことがあるの?」
「ルリさんがそこまで真剣に考える内容って結婚にあるのかな……?」
セシリーもわからないといった表情を浮かべている。
私も思いつかない。
ただ、祝いの言葉を贈るというのは、思った以上に重要な役目だと思った。
「……場所はどうするのです?」
「ギルドでするって聞いてる。だから、一度戻らないとダメなんだけどね」
「……わかりました。レティアには悪いですが、こちらを優先させてもらいます」
「ごめん、二人とも」
「気にしなくていいわよ。おめでたいことなんだし」
「……そうですよ」
ルリさんもセシリーも嬉しそうに言っている。
めでたい事なんだし、謝ってるのも変なのかもしれない。
「……こちらのことを優先しないと、私がレティアに怒られてしまいます」
「そうね。レティアもこっちを優先しないと怒るわよね」
「だよね。まさか、その場で祝えなかったからって、後で怒ったりしない……よね?」
「「………」」
ルリさんとセシリーが固まった。
あれ?私も怖くなってきた。
「……その時はその時です。諦めます」
「大丈夫よ。忘れてた、シエラに全責任取らせたらいいんだから」
「ちょっと!?本当に怖くなってきたよ!?」
そう言いながらも、三人でギルドへ向かって行く。
大丈夫だよね……?
「……ところで、受付のどなたが結婚するのです?」
ギルドの受付はそれなりに人が多いのです。
さすがに誰かわからないと困ります。
「初心者の受付とかをしている、サラだよ」
「……サラさんですか」
私のギルドカードを作ったときはシエラさんがしてくれましたが、基本的にはサラさんが行います。
私たちよりも少し年上のお姉さんです。
「……そういうことですか」
「何かあったの?」
「……最近、サラさんがにこにこと嬉しそうな顔をしたり、おろおろとしていることが増えたのです。結婚が嬉しい反面、その先に不安でもあったのでしょう」
「ルリでもそういうのに気が付くのね」
「……事情が分かれば納得できます」
シエラさんが黙ってますね。
「……気が付かなかったの、私だけなのかな?」
「それでいいと思うけどね。人の幸せなんてわからないもの」
「確かにそうだね」
雑談をしながら歩いていると、ギルドの前に着きました。
「……本当に私が贈るのかも謎なのですけどね」
そう言って、ギルド内に入ると。
「やっと来てくれた!」
と、嬉しそうに、サラさんが声を上げました。
サラさんは赤い髪なので、目立つのですよ。
「ギルドマスター!これで私たちの結婚式が始められます!」
「言葉を選べ!私との結婚みたいに聞こえるだろう……」
「さすがに初婚で自分と変わらない歳の娘を持つ勇気はありませんよ……」
「一番驚いたのは私だよ!……お父さんがお母さん以外を好きになるってびっくりしたんだから」
シエラさんが涙目でした。
ふと、ここで疑問に思ったことがあります。
シエラさんのお母さんはどなたでしょう?
「シエラ、ルリさんが困っている」
「あ、ごめん……」
「……いえ、大丈夫です。シエラさんのお母さんを見たことがないのが疑問であっただけで」
私の言葉にギルド内が一気に静かになりました。
これって、聞いてはいけないことだったのでしょうか?
「私のお母さんはね」
シエラさんが真剣な目をしています。
「実は、私も会ったことがないんだよ」
「……え?」
シエラさんがお母さんにあったことがない?
何回かお母さんの話を聞いたことがある気がしますよ?
「ちなみに、セシリーも私のお母さん見たことないんだよね?」
「見たことないわね」
「……えっと、ウェイスさん、シエラさんのお母さんはもしかして、亡くなっているとかですか?」
恐る恐る聞きます。
だって、本当に聞いたことがないんですよ!?
「ルリアルカさん、生きているから気にしないでいい。ただ、どこにいるかというのはわからない」
「……旅に出ているのですか?」
「まぁ、そのようなものだと思ってくれたら助かる。私も受け取る手紙以外、内容は知らないからな。そうだな、シエラを少し小さくした感じと言えばわかりやすいかもしれん」
「……小さいシエラさんですか」
背の高さは順番に言えば、セシリー、シエラさん、私となります。
「シエラとルリさんの間ぐらいの伸長だな。最後に見たときの姿なら」
「……私より少し背が高くて、シエラさんを小さくしたような人ですか」
見たことがある気がします。
「ルリさん、そんなに考え込まなくていいから」
「今日は結婚式だからな。ルリアルカさんは頼まれた内容を引き受け……」
「……マリア」
ぽつりと名前が出ました。
小さい頃なのではっきりとは思い出せませんが、その名前が出ました。
ウェイスさんは驚いたみたいですね。
「ルリアルカさんは知っているのかね?」
「……小さい頃なのではっきりとは言えません。よくしてもらった人の名前が出ただけです」
「そうか。名前も似ているだけの可能性もあるし、判断できないか……」
「……マリアではないのですか?」
「妻の名前はマリアンという。色々と愛称があったので、人によってはマリアと呼ばれていてな。少し驚いたのだよ。……一応、王様にも確かめる必要があるな」
ゼフィアも知っている人なのですね。
私が思っている人とは違う可能性が高いです。
「ちょっと複雑……」
シエラさんは自分のお母さんに会ったことがないと言っていましたし、可能性がある人と出会ったことがある私のことは複雑なのでしょう。
「……ごめんなさい」
「ち、違うよ!ルリさんを責めてるんじゃなくて!えっと……私のお母さんかもしれない人と出会ったことがあるのが羨ましくて……」
「……名前が似ているだけの可能性もありますから」
「でも、羨ましいの!」
「ほんとに、シエラは困った娘ね……」
セシリーが優しい目をしながら、シエラさんの頭の上に手を置いていました。
「確かに、シエラさんのお母さんでギルドマスターの奥さんである人の話は大切です。でも、今日は私の結婚式ですよね!?」
和やかな雰囲気になっていた中、サラさんが大声で叫び、周囲ともども焦りだしたのでした。
「……本当に私でいいのですか?」
私はサラさんに祝いの言葉を私が言っていいのか?と再度確認しています。
「はい。ルリアルカさんなら良い言葉をくれるはずですから!」
サラさんは乗り気ですね。
ちなみに、今はギルドマスターの部屋にいます。
受付がある1階は今、式の準備などが行われていますから。
「私からもお願いします。ルリアルカさんの話は有名ですから」
サラさんの夫となる、グエンさんからも頼まれました。
グエンさんは中級冒険者であり、サラさんとは幼馴染でした。
また、結婚を気に冒険者を引退するかも悩んでいるそうです。
「……本当にいいのでしょうか?」
部屋に他にいるのは、ギルドマスターであるウェイスさん。
にこにこと話を聞いている、セシリーとシエラさんもいます。
「ルリアルカさんは色々と知っているから私もいいと思ったのだが、結婚などの儀式に関しては知らなかったかね?」
「……知っていますよ。ただ、大役なので、私で良いのか悩んでいるのです」
「それなら、大丈夫だろう。正直、私が言うよりも遥に恩恵があると思う」
「お父さんに言われてもなんか変だよね……」
ウェイスさんの言葉に頷いている、シエラさん。
「これでも何度も送っている……」
それに対して、ウェイスさんは少し肩を落としていますね。
「それに、王様から言葉を貰うよりもいいと思うしな……」
「納得」
「答えにくい返答だけど、私も納得ね……」
ゼフィアよりもいいと言われると困ります。
だって、私はただの人ですからね。
なんですか?ただの人じゃない?酷いこと言わないでください!
「……わかりました。引き受けます」
引き受ける以外、道がありません。
「ルリアルカさん、ありがとう!」
「感謝します」
サラさんとグエンさんが嬉しそうに言いました。
問題はここからですけど。
「……祝いの言葉より、もっと由緒あるものにしますね」
「「「「「え?」」」」」
私の言葉に全員の言葉がはもりました。
当然といえば当然かもしれませんけど。
「ルリ、祝いの言葉っていうのはあるのよね?」
「……あります」
「ごめん、ルリさん。祝いの言葉より由緒あるものって存在するの……?」
「……存在します」
「聞いたことがないな……」
「……失われた風習と言えばいいのでしょう」
セシリー、シエラさん、ウェイスさんから立て続けに質問が飛んできます。
あるんですよ、もー!
「えっと、そんな盛大なことをされても困るかも……」
「サラの意見に同意します……」
新婚となる二人が委縮していますね。
「……私が家族というものに対して、手加減すると思いますか?」
「シエラ、完全に人選ミスよ……」
「私も思った……」
酷い言われようです。
「……珍しいものが見れたと思えばいいのですよ」
面倒なので押し切りましょう。
「……サラさんはどのような家庭を望むのですか?」
「家庭ですか?」
「……例えば、子供は何人欲しいとかです」
「こ、子供!?」
サラさんが顔を真っ赤にしていますね。
……セシリーとシエラさんもですが。
「……幸せな家庭には子供はいますよね?」
「それはそうですけど……」
「……恥ずかしがることはありません。普通のことなのです」
「そう言われても困りますよ!?」
「……子供が欲しくないのですか?」
「そ、それは欲しいですよ……」
「……何人ぐらいです?」
「………できれば、三人ぐらいって何言わせるんですか!?」
サラさんが先ほどよりも顔を赤くしながら叫んでました。
子供が三人、賑やかな家庭になりそうですね。
「なかなか凄い会話ね……」
「ルリさん、恥ずかしがることなく聞いてるね……」
「最近の若者はこうなのかね?」
「いえ、私に聞かれても困るのですが……」
私とサラさん以外ではこのような会話が繰り広げられています。
子供って大切ですよね?
「……次に決めることは」
「子供の話はどうなったんですか!?」
「……大丈夫です。遅くとも来年までには生まれますから」
「……へ?」
サラさんが唖然とした表情をしています。
「……どうしたのですか?」
「えっと、ルリアルカさん、来年までに生まれるのが決まっているような言い方なんですけど?」
「……生まれますよ?」
「生まれるって保証はないですよね?」
「……そういわれるとそうですね。今日、子が宿るのは確実ですけど」
「え?」
心底不思議という表現が似合う表情ですね。
あれ?皆さんがそのような表情をしていますね。
「……何かおかしなこと言いました?」
「ルリ、子供がどうやってできるか知ってるのよね?」
セシリーが少し顔を赤らめながら言っています。
それぐらい知ってますよ、もー!
「……当然です」
「ルリさん、子供が宿るって言ってたけど、絶対じゃないよね?」
シエラさんが不思議そうに訊ねてきます。
「……絶対ですよ?」
「いやいや、ルリアルカさん、それはさすがにありえないだろう!?」
ウェイスさんは焦り気味でした。
「……ありえますけど?」
私の方がおかしいのでしょうか?
だって、由緒ある儀式を行うのですから。
「……結婚するということは、今夜は初夜ですよね?」
「そうです……けど……」
サラさんは真っ赤というのが似合う顔色になっています。
グエンさんは目を伏せたままですね。居心地が悪そうな状態といえばいいのしょうか?
「……なら大丈夫です。今夜、子は宿りますから。では、儀式の方ですけど……」
「ねぇ、ルリ……」
私の言葉を遮って、セシリーが声を上げました。
「……なんですか?」
「今、儀式って聞こえたんだけど……?」
「……儀式ですけど?」
「しれっと、飛んでもないことを言うわね……」
セシリーがうなだれました。
「ルリさん、儀式ってその……いやらしいことなの?」
「……それはないです。神聖なものですし。ああ、邪な考えを持つ人がいればそう見えるものもありますね」
「大丈夫なのかな……」
シエラさんもうなだれました。
「……祝いの言葉というものに置き換わる前は普通に行われていたものなのですけど?」
「ルリアルカさん、それはどれぐらい昔の儀式かわかっているのかね?」
「……そうですね、三百年ぐらい昔でしょうか?」
「…………それは儀式ではあるが、儀式魔法と言われた、古の魔法だ」
ウェイスさんまでうなだれました。
文献を調べれば載っているはずですけど。
私は調べたのか?ですか?島の家族から教えられましたよ?
「……神聖なものだから大丈夫です」
「あの、ルリアルカさん」
「?」
「頼んでおいてなんですが、お断りしても……」
「……却下です」
「ど、どうしたら!?」
サラさんが慌てだしました。
変な儀式ではないのですけど、信じてもらえてない気がします。
「……改めて問います」
私の声が部屋に響きました。
声に反応して、皆さんがこちらを見ています。
「……結婚をするのですよね?」
「はい」
サラさんは小さく答え、グエンさんは頷きました。
「……お互いを大事に思うのですよね?」
二人が頷いたのを確認し、続けます。
「……共に暮らし、お互いを助け、幸せを望み、新たな命を賜れば更なる幸せと感じ、死が存在を分かつまで家族との安寧を望むと」
「「………」」
私の言葉に二人が息をのみながらも頷きました。
「……儀式を受けるということでいいですね?」
「「はい」」
二人の静かな返事が聞こえました。
「選択肢、無いわよね?」
「私も無いように聞こえたよ……」
「選択肢はあったな」
「「え!?」」
ウェイスさんの言葉にセシリーとシエラさんが声を上げました。
「ルリアルカさん、推測ではあるが儀式の一部は終わったのでは?」
「……そうですね。今のは簡易的なものですが、誓約の言葉ですから」
「やはりそうか。昔、似たような言葉を聞いたことがあった。ルリアルカさんの知識は底がしれないな……」
「儀式の一部が終わったということは、続きがあるのでしょうか……?」
サラさんが少し怯えながら訊ねてきました。
「……次はお二人に選んでもらうことになります」
「私とグエンにですか?」
「……はい。人、魔、神、精霊、竜、どれがお好みです?」
「ルリ、説明飛ばしてるわよね?それだとわからないわよ?」
セシリーがため息をつきながら言いました。
説明ですか。確かに必要ですね。
「……人とは人族が行っていた儀式です。選んでもらうものは種族で行われていたものですね」
「も、物凄いことを経験するみたいなんですけど!?」
「……儀式なんて昔は普通だったのですから、気にする必要はありませんよ?」
「今だと普通ではないと思うんですけど……」
「……貴重な体験ですね」
「あぁ、本当に逃げ場がない!?」
サラさんが頭を抱えました。
「……サラさんはグエンさんと添い遂げるのは嫌なのですか?」
「真剣に愛してます!グエンとしか添い遂げるつもりはありませんよ!」
私の言葉に反射的に答えたのでしょう。
少し間をおいてから、耳まで赤くなって固まりましたね。
「……その気持ちがあるのに、なぜ儀式というものに戸惑うのです?」
「儀式という言葉に戸惑っているのだと思います」
グエンさんが答えてくれました。
「儀式という言葉は重いといいますか、その……無理やり使われるような印象もあると思うので。だから、サラは戸惑っているのだと思います」
「……そうですか」
言葉の難しさと言えばいいのでしょうか?
昔の風習のようなものとも伝えたはずですけど。
古と言われているので、抵抗があるのかもしれませんね。
「……種族によっては子がなかなか宿りません。ですから、心から愛し合う二人を祝福し、神聖な儀式を行った、というのが起源です。儀式魔法と定着するようになったのはそこから数百年先の話です」
「やっぱり、凄い内容ですね。でも、ルリアルカさんが私たちを祝福してくれるというのがわかりました。よろしくお願いします」
覚悟は決まったという顔をされても困ります。
強制したみたいな感じになりますからね。
神聖な儀式のはずなのに変ですね。
「……では、この身に懸けまして行わせていただきますね」
私の言葉で周囲がまた固まったのでした。
どうしてでしょう?
レティアのお迎えはまたもや延期です。
ずれればずれるほど、お城が制圧されていく可能性が増えます(笑)。
ルリが結婚式で言葉を与える立場になりましたが、家族をとても大切にするので、全力で凄い方向にもっていかれます。悪気はかけらもありません。
レティアは式を見れなくて怒るのか?
式は無事に終わるのか?
次回の更新は書き終わり次第となります。
こんなに間が空くとは思わなかったです……。




