災難は続く
ルリお姉ちゃんの暗いというのか、おどおどしているのは1週間続いています。
治るはずですが……治ってくれません。
早く、私に平穏を下さい。
「………」
おかしいです。ベッドから、私以外の気配がします。
時間はいつもの起きる時間。ベッドは私しか眠りません。
ルリお姉ちゃんでしょうか?
「……可愛いわね」
「!?」
声はルリお姉ちゃんです。
ですが……口調が別人です。
「あら?起こしちゃった?」
とても嫌な予感がします。
僅かな時間で分かったことは、ルリお姉ちゃんがまた変わっているということです。
この一週間、とても大変でしたのに……。
「ルリお姉ちゃん、おはよ……」
ルリお姉ちゃんは、じーっとこちらを見ていました。
いつもと同じ優しい目ですが、普段と違います。
なんというのでしょうか?妖しい感じがします。
「朝から可愛いわねぇ……」
雰囲気も妖しいです。
これは何とかして逃げ出さないとダメです。
「ありがとうです。さぁ、ルリお姉ちゃんも起きて下さい」
そう言って、起き上がろうとした瞬間。
「ダーメ」
ルリお姉ちゃんがそのまま抱き付いてきました。
抱き着くのは私の特技です!それを奪わないでくだ……。
って、違います!
「ルリお姉ちゃん、ふざけてないで起きましょう」
「いやよ」
ルリお姉ちゃんが胸元に私を引き寄せます。
「こら、暴れないの」
「むーむー」
力いっぱい抱きしめられてます。
逃げるために動いてみますが、逃げられません。
それより問題なのは、ルリお姉ちゃんは肌がすべすべして柔らか……?
「むー?」
抱きしめられて塞がれた、視界を回復すると。
「むーっ!?」
飛び込んできたのは、下着を着けていない姉の胸でした。
確率的に、ルリお姉ちゃんは衣服を身に纏っていないと思います。
また怠けた癖が出てきているようです。
……今の状況で、ルリお姉ちゃんが服を着ていないのは色々まずいですよね?
「むー!むーむー!」
急いで離れないとダメです!
色々とダメなことが起きそうです!
私が必死にもがいて逃げようとしていると。
「息がくすぐったいわ。大人しくしなさい」
「むー………」
声はとても優しいです。
ですが……。
(ルリお姉ちゃんの顔を見るのが怖すぎます。絶対に見てはいけない笑顔をしているはずです!)
仕方がありません。
暫く大人しくしていましょう……。
「なぁに?お姉ちゃんの胸で安らいでるの?」
「むーっ!」
盛大に勘違いをされました。
落ち着くのは認めますけど、状況が違うのです!
いつもの、ルリお姉ちゃんの胸元ならとても安心できますが、今のルリお姉ちゃんでは安心できません!
「なによ?そんなに私が嫌なの?」
「………」
今のルリお姉ちゃんには何を言っても無駄なようです……。
動くと勘違いされ、何もしなくても勘違いされる。
理不尽です……。
「仕方ないわね」
ルリお姉ちゃんが私を離してくれました。
……案の定、ルリお姉ちゃんは裸でした。
魅力的なのは危険すぎます。
「やっと解放されました……」
「やっぱり、嫌だった?」
「うっ……」
嫌ではありません。
その姿がいけないのです。
(今のルリお姉ちゃんは危険……。セシリーお姉ちゃんかシエラお姉ちゃんに助けてもらわないと……)
「レティア」
「何ですか?」
ルリお姉ちゃんがじりじりと近づいてきます。
反射的に私もその速度に合わせて下がっていきます。
「お姉ちゃんは大切にしないとダメよ」
「ルリお姉ちゃんは大切ですよ?」
近寄っては離れを繰り返しています。
……少し、ルリお姉ちゃんの方が早いですね。
「大人しく捕まりなさい!」
「捕まるわけ……あっ!」
いつの間にか、ベッドの隅だったようです。
片手が滑り落ちて、落ちると思った直後。
「危ないわね」
一瞬の事ですが、私の身体はベッド上へ。ルリお姉ちゃんが私を押し倒すような状態になっています。
投げるように、引き上げられたようです。
「ありが……」
お礼を言い終える前に、言葉が止まりました。
(なんですかこれは!?)
私を助けてくれたのはいいのです。
ですが、寝そべった状態から見上げる姉の姿は危険を通り越していると思います。
ダメです。致命的です。破廉恥すぎます。
ただでさえ魅力的なのに、今の姿は煽情的というもの。異性の方では殺傷物です。
(妹の私ですら……ダメです!流されてはダメです!)
この姉はどこに向かっているのでしょう?
出会いは勇敢で強い人でした。また、大人しくて可愛らしい人です。内面を知ると、残念な所が多々ありましたけど。
それでも、今は全てを含めて大切な姉です。大好きな、ルリお姉ちゃんです。
……拗ねていると苛めたくなりますけど。
(このままでは私もダメになってしまします……)
セシリーお姉ちゃんもシエラお姉ちゃんも、ある意味ではダメになっています。
酷いことを言っている?これは事実なのです。
……私も人の事を言っていられません。
私はルリお姉ちゃんの『妹』なのです。『姉』に対して本気の好意を抱いてはダメなのです。
(衝撃的な出会いでしたけど……)
あの忘れられない光景だけで、きっと恋というものは始まると思います。
恋愛感情を抱かない方が無理と言っても過言ではありません。
「何を考えているの?」
「ふぇ!?」
ふと、意識を戻すと、ルリお姉ちゃんの顔が目の前。
……噛んでしまいました。
「ふふ……珍しいこともあるのね」
ルリお姉ちゃんが目の前で笑っています。
「うぅぅ………」
打開策が欲しいです。この現状を突破できる方法を。
考えを巡らせます。どんな手段でもいいです。この場さえ抜け出せるのなら。
(そうです!私が高圧的になれば、ルリお姉ちゃんはきっと拗ねるのです!)
何故かわかりませんが、度々、湧き上がる黒い衝動を再現すればいいのです。
(……答えは呆気ないものです)
実行しましょう。いつもの日常を取り戻すのです。
日常の為に、私は鬼になるのです。
「……なんですか、この無駄に大きな胸は?胸の小さい私に対しての嫌がらせですか?」
(ルリお姉ちゃん、ごめんなさい。こうしないと抜け出せれないのです)
言葉と思いは違います。
「目の毒です。邪魔なのです。早くどいてください」
酷いことを言っているのはわかっています。
ですが、これで平穏を……。
「可愛いこというわね」
……取り戻せなさそうです。
「お姉ちゃんの胸に憧れてるの?」
「い、いえ!そういうわけでは……わわ!?」
ルリお姉ちゃんの手が頬に触れてます。
「レティアも大きくなるわ。急がなくてもいいから」
「……はい」
逆に言いくるめられた気がします。
「でも、お姉ちゃんのことを悪くいったのはダメね」
ルリお姉ちゃんの目が細く、妖しく輝いた気がしました。
大失敗?……手遅れかもしれません。
「な、なにをするのですか?」
「そうね……」
ルリお姉ちゃんの顔が迫り。
「お姉ちゃんのことだけ考えるようにしてあげる」
「…………きゅぅ」
私は意識を手放すことにしました。
調子に乗った私が悪かったのです。
どんな時でも、姉は偉大でした………きゅぅ。
「どういう状況なのかな?」
ルリさんの部屋に遊びにいくと、寝室から叫び声が聞こえる。
覗いてみると、思った以上に凄い光景だった。
「シエラ?後で答えるから、先にレティア剥がすの手伝って!」
「レティアはルリさんが抱きしめてるね」
姉が妹を抱きしめているようにしか見えないけど?
「セシリーもしつこいわね。姉が妹を抱きしめて何が悪いのよ?」
「ダメです!普段のルリならいいけど、今はダメ!」
「……今?」
ああ、そういうことか。
ルリさん、レティアを抱きしめてるからわかりにくいけど、服着てない。
ということは、レティアがまるっきり動かないのは……。
「ねぇ、セシリー」
「なによ!早く手伝いなさいよ!」
「レティアって、気を失ってる?」
「きゅぅぅぅ……」
セシリーが答えるよりも先に、レティアの小動物みたいな声が聞こえた。
間違いなく、気を失っている。
「手伝う」
皆のもとに向かおうとすると。
「なによ?シエラまで邪魔するの?」
「え……」
ルリさんが私を呼び捨てに……?
「……シエラまで私の邪魔をするのね」
聞き間違いじゃない。
『さん』が付いていても、私は別にいいんだけど、呼び捨てにされたことが嬉しかった。
「こら!レティアを離しなさい!」
「いやよ」
「レティアがルリに近寄らなくなるわよ!」
「……それは困るわね」
ルリさんがレティアをベッドに転がした。
これで大丈夫かな?
「さぁ、ルリも服をき……きゃぁ!?」
……セシリーが捕まったね。
「あら?これでは私が抱きしめたというより、抱きしめられている感じね」
「ルリ、悪ふざけもやめな……って!」
ルリさん、自分からセシリーの胸元に顔を埋めちゃった。
どうしよう?状況からすると、私にまで被害がくると思う。
でも、少し遊んだあとは、ギルドで受付があるんだよね。
……今のルリさんが!?
「離しなさい!離し……やぁ」
「……抱きしめられる感じは久々ね。温かくて落ち着くわ」
「だから……はなし……」
「セシリーは温かくて気持ちいいわね。……私のものにしようかしら」
「何をいって……?ルリ、少し落ち着きな……あ!」
ルリさんがセシリーを押し倒したね。
この場から逃げると、セシリーに恨まれる。
ルリさんに嫌われるのは嫌だし、どうしたらいいのかな?
「シエラ、助けて!」
「セシリー、言葉と違って嬉しそうだよ……」
「え……?ええええぇ!?」
自分では気が付かなかったみたい。
真実を知ったセシリーは吼えてた。
「今はそんなのいいのよ!助けなさい!」
「見学してる。……次に巻き込まれるの私だし」
大人しく見学しよう。
何されるのか、見ている方がまだ覚悟が決まる。
「シエラのお許しもでたから……」
「私は許してません!だから、離し……」
「優しくしてあげるわ」
ルリさんがセシリーの頬に口付けをした。
……逃げた方がいいかもしれない。
「………」
「あら?」
セシリーは顔を真っ赤にしたまま、へにゃりと動きが止まった。
「仕方ないわねぇ」
ルリさんが気を失った、セシリーを抱きしめ、優しく頭を撫でている。
「……髪痛んでるわね。可愛い娘がこういうことを疎かにしてはダメね」
延々と優しく頭を撫でている。
思った以上に平和だ。
逃げる必要はなさそう。
「さてと、意識がない間に私の物という証でもつけないと」
「それはダメだよ……」
「どうして?セシリーも喜ぶと思うけど?」
「それはそうかもだけど……」
今のルリさんだと『自分のもの』という言葉の意味が私にはわからない。
もしも、悪い方なら隷属ということもありえる。
親友の為に、それだけは防がなければならないよね。
「それに、あなたたちは私が守ってあげる。何があっても、私が命を懸けて……」
どんなルリさんでも、そこは変わらないみたい。
それ故に、寂しい。
「あら?積極的ね」
気が付けば、ルリさんを後ろから抱きしめていた。
「ルリさん、根底だけは変わらないんだね……」
「……そうよ。私が私であるために。それだけは揺るがないわ」
ルリさんがセシリーをレティアの横に並べて寝転がせる。
……次は私!?
「ねぇ、シエラ」
「……なに?」
少し警戒しながらも抱き付いたままで答える。
離れた瞬間が危険な可能性が高い。
「……私はあなた達を守れているかしら?」
ふと、ルリさんの表情が曇った。
「なんでそう思うの?」
「やっぱり、魔法ね」
ルリさんは深紅の翼を広げて言った。
いつみても、きれいな翼。
抱きしめてる間から急に出てきたから、驚いたのは秘密。
「今の私は魔法が使えない。それに時間も結構経った。でも未だに……戻る気配はないわ」
肩落とし一言。
「はっきり言って、今の私は足手まといだわ……」
と言った。
「ルリさんが足手まとい?」
そんなわけがない。
私達はいつだって守られている。
それは魔法が使えないからじゃない。
だってルリさんは……。
「足手まといはないよ。そんなこと言ったら、皆怒るよ?」
「でも……」
「でも、もないよ。ルリさんはちゃんと私達を守ってくれてる。魔法が使えなくても、皆の拠り所になって守ってくれてるんだよ?」
ルリさんは守るということの本当の意味を知っている。
だからこそ、今の状況に疑問を持つんだろう。
ルリさんの『守る』というのは本当に難しい事だから。
「ありがとう、シエラ」
優しい笑顔。いつもと変わらな………。
あれ?なんで、私の首に腕をまわすの!?
「シエラも沢山可愛がってあげるわ」
「え、そんなつもりは全然……」
「それとも、夜の方がいい?」
「嬉しいけど、ちょっとちがーう!」
私も頭を撫でられ続けた。
気持ちいいけど、今のルリさんは隙を見せると怖いことになりそうだよ……。
「そろそろギルドへ行かないとダメね」
ルリさんは下着を身に着け、受付に行く準備をしている。
今のルリさんを受付に立たせるのは危ないと思う……。
「……ろくな服がないわね」
ルリさんは服を探し続けている。
普段のルリさんの趣味だし、今のルリさんの趣味が違うなら合わない気もする。
「これでいいわ」
ルリさんが取り出した服は、いつもと同じ黒のワンピースだった。
「あとは髪を三つ編みにして……」
あっという間に普段のルリさんになった。
ルリさんはやっぱり、ルリさんだね。
「でも、この服がちょっとねぇ……」
ルリさんはそう言いながら、首元から一気に。
「うん、これでよし」
……胸元まで服を引き裂き、露出が増えた。
大人しい服装になって可愛らしい姿が、一気に妖艶な姿に大変身。
……外に出て大丈夫なのかな?
「その姿で受付に立つの?」
私としてはもう少し普段通りの、ルリさんの姿がいい。
「そうよ。たまにはこういう姿もいいでしょ?」
「ルリさんがそういうのなら……」
ギルドには色々な人がくる。
当然、今のルリさんよりも露出が多い人もいる。
「色香でどうこうなる冒険者はどのみち、先なんてないわよ」
「酷い言い方……」
「事実よ。時に非情になれない者は先に死ぬわ」
そういい残し、ルリさんは部屋を出て行った。
「言いたい事はわかるんだけど、今のルリさんだとどうなるのかな……」
私もギルドに向かうことにした。
セシリーとレティアはまだ気を失ったままだけど、ベッドの上だから大丈夫だと思う。
今は目の前の問題の方が大きいからね。
「ギルドへいらっしゃい。今日は何の要件かしら?」
ルリさんを横目で見る。
ちょっと、頭が痛い……。
「え、えっと今日は素材を買い取って欲しい」
「物はどれかしら?」
「こ、これです」
相手はレティアぐらいの年齢の男の子。
今のルリさんだと毒だよね。ちょっと同情する。
「赤狼の肉ね。毛皮はどうしたの?」
「他の人に譲りました」
「そう……。騙し取られたとかはないのね?」
ルリさんの声が一気に低くなった。
男の子、怯えてるよ……。
「騙されたとかは無いと思います。冒険者になって間もないのはそれが取り分だと聞きましたから」
「え?横から、ごめん。それ、本当?」
今の内容は聞き逃せない。
割り込んででも聞かないと。
「う、うん。赤狼と僕が戦っていた時に横から助けてくれた人がそう言って……」
「…………そう」
ルリさんの声が怖すぎるんだけど……。
「シエラ」
「ルリさん、これかなり大きな問題」
「でしょうね」
二人で話し込んでいると。
「あ、あの買い取ってはもらえないの?買い取ってもらえると、家族の薬が買えるんだけど……」
「薬?」
「うん。お母さんが熱を出して……。病院に行くにもお金が足りないから、薬だけでも買ってなんとかしようと」
「……ほんと、いい子ね。でも、無茶しちゃダメよ?」
ルリさんが男の子の頭を撫でている。
微笑ましい光景。
「………やっぱり。この場で回復魔法使える人いない?いたらこっちにきて!」
ルリさんの叫び声が響いた。
回復魔法で治してもらうのかな?病院に行くよりもお金はかからない。
冒険者同士の取引になるからね。
「ルリちゃん、大声だしてどうしたの?」
目の前に来たのは、この前、上級冒険者となった一人の女性だ。
「あなたなら大丈夫ね。この子、診てくれないかしら?」
「それはいいんだけど……、ルリちゃん、その話し方どうしたの?」
「私の事はいいから、この子を診て」
「わかった」
女性が男の子を観察していると。
「……大怪我」
「大怪我?」
少し青い顔をしながら言う女性に対して、男の子は首を傾げていた。
大怪我しているようには見えないよ?
「治せる?」
「私の魔力全部使えば治せる……はず。ごめん、少し自信ない……」
「じゃぁ、できるだけでお願い。シエラ、レティア起こしてきて」
「え……うん」
私はルリさんに言われて、レティアを呼びに『ミューズの安らぎ』へと向かった。
「……これで大丈夫です。いきなり、呼ばれたと思ったら大事です」
「ありがとう、レティア」
「当然のことです」
教えて貰った内容は、身体自体に外傷はないが、内部の方で傷があったらしい。
出血は急に増えたりはしない変わりに、死ぬまでそれが続くとか。
つまり、気が付かなければ、そのまま死んでいたということ。
……私は気が付かなかった。
こういうことも、わかるようにならないとダメだと、改めて思った。
「お姉さん達、ありがとう」
「気にしないでいいのよ。ね?」
「……当然よ。……冒険者の先輩として……これぐらいは……」
さすがに魔力を使い切ったらしく、上級冒険者の人は気を失った。
レティアの魔力量はやっぱり、凄い。
「お姉さん!?」
「慌てなくていいの。魔力が尽きて気を失っただけ。君は身体、大丈夫?」
「うん。さっきまでより身体が軽い感じがする!あ……」
喜んでいた直後、男の子は暗い表情になった。
身体は治ったんだよね?
「どうしたの?」
そこまで暗くなる必要があるの?
思わず、訊ねていた。
「治療費なんてない……」
そうだった。男の子は家族に薬を買うためにギルドにきたんだ。
「そんなの気にしなくていいわ」
ルリさんが微笑みながらいった。
「でも、これは冒険者同士の取引になるんだよね?」
「違うわ」
「ルリさん!?」
ルリさんには悪いけど、これも見逃すことはできない。
冒険者同士の取引は大切なことだから。例外を作るわけにはいかない。
「怪我を見つけたのは私。君の怪我を治してくれるように、冒険者の人にお願いをしたのも私。そして、後から来たのは私の妹。冒険者同士のやり取りじゃないわ」
「で、でも……」
「もし、君が今の事に納得できないなら、強くなりなさい。自分も家族も皆も守れるように強く、皆に優しくなれるように。それを支払う代金と思いなさい」
「えっと……」
男の子が私を見ている。
「はぁ……。受付と冒険者のやり取りとするよ」
「ありがとう、シエラ」
普段のルリさんもこれぐらい機転が利くのかもしれない。
……考えたら、これって人助けかな?
「さて、買い取りの金額は銀貨70枚よ。落とさないようにね」
「え、そんなに多いの?」
「これは肉と毛皮を合わせた分。本当ならもう少し多いかもしれないけど、現物がないからこれで我慢してね」
「でも、持ってきたの肉だけ……」
「いいのよ。君にはそれを貰う権利があるわ。素直に受け取りなさい」
「……わかった」
男の子は戸惑いながらも受け取っていた。
確かに、受け取る権利はある。
「レティア、この子の家族に回復魔法をかけて上げて。魔法で治せないなら、薬を」
「わかりました。道案内、お願いします」
「え、え!?」
男の子は混乱してる。
いい話だけど、理解が追い付いてないと思う。
普通はあり得ない話だしね。
「ほら、家族を助けるんでしょ?」
「……うん!ありがとう、お姉さん!」
「いってきます」
レティアと男の子はギルドを出て行った。
「………さてと」
笑顔で見送った、ルリさんが急に低い声を出した。
「犯人捜しをするわ。立会人はこの場にいる全員よ!」
さすがに大事には関わりたくない。
そういう雰囲気がギルド内に流れ、ざわついている。
「今の子は明らかに、自分の獲物を奪われている。知識が足りないと言えばそれで終わりだけど、ここにいる皆はそれが普通と言えるぐらい薄情な人間なのかしら?もし、それが普通というなら、名乗り出なさい!……そういう考えの冒険者をしていることを後悔させてあげる」
室内は一気に静かになった。
「あなた達は薄情な冒険者の先輩としてダメな見本?それとも、誇りをもって自分は冒険者で後輩のお手本となる者か!」
ルリさんの先導凄いね。
……本当は王家の人間とかないよね?
「誇りあると思う者は立ち上がり、無いと思う者は座りなさい」
ルリさんの言葉にガタガタと音を立て椅子から皆が立ち上がっていた。
「皆は誇りを持っている。嬉しいわ」
ルリさんが妖しい笑顔を浮かべる。
「はじめましょう」
犯人はルリさんの逆鱗に触れたみたい。
無事でいられないだろう。
「犯人捜しで大事になったね」
「仕方がないわよ。……今は誰にも話しちゃダメよ?」
「いきなり小声でどうしたの?」
「あの子の怪我、犯人がやった可能性あるから」
「え!?」
それって、人殺しに近いことをしているってことだよね?
気が付かずに死んだとしても病死扱い?
……レティアぐらいの歳の子供が?
「……犯人の仕業なら、容赦はしない」
「シエラがそこまで気にする必要はないわ」
「無理。……私もそこまで優しくないから」
いつもの事だけど、大きなことに巻き込まれた。
でも、今回はそうも言ってられない。
「見つけないとね」
「……ええ。ありがとう、シエラ」
この時のルリさんは優しい笑みを浮かべていた。
ルリは変化があったとしても、根底は変わりません。
人助けには全力で動きます。
今回は妖しさが増しているので、波乱がありそうでしたが、周りが迫力負けしているというのもあるので、平和です。
次回の更新は書き終わり次第となります。




