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守る者、英雄を嫌う

 ルリの無事は確認できた。

 本当に怖かった……。

 これ以上、俺から奪うようなことはしないでくれ。

「話を聞かせて貰おう」


 場所はルリが世話になった、ファニエスタ王国郊外にある家だ。

 今、その家のソファーに座りながら、話をし始めたところだと言っておこう。

 ルリは眠ったままだ。俺にもたれるようにして眠っている。


「えっと、その……」

「どうした?」


 ミーナという少女が聞きにくそうに声を掛けてきたな。別になにもしてないぞ?

 殺そうとしたのは事実ではあるから、何もしてないとは言い切れないか。


「その……フェイマス王は」

「ゼフィアだ。俺は今、個人で動いてる。だから、ただのゼフィアだ」


 ザインは帰らせた。先に連絡を取ってやらないと、大暴れをする娘が三人いるからな。……ファリスも入れると四人か。


「では、ゼフィア様、お聞きしずらいのですが……」

「ルリとの関係か?」

「それも気になりますけど、その左手は……」


 ミーナが俺の左手を指さした。そういや、折れてたな。


「折れてるな」

「い、痛くないのですか……?」

「痛くないことはないが、こいつの事もあるからな。そんなのは後回しだ」

「後回し……」


 首を傾げられても困る。


「あの、ゼフィア様」


 もう一人の少女、エスタから声を掛けられる。


「なんだ?」

「ミーナは魔法で治療ができます。宜しければ、その左手を……」

「俺がまだ疑っているとは思わないのか?」

「っ!」


 エスタという少女からの申し出を威圧しながら返答する。いや、悪い事してねーよ?

 それに彼女は普通の少女ではない。


「ま、何もするつもりはない。治療を頼めるか?」

「は、はい!」


 ミーナが慌てて駆け寄ってくる。別に走るほどの事はないだろう。


「あ……」

「ん?」


 ふと、抜けた声が聞こえたので、そちらを見てみると。


「あー!」


 足を床に敷かれている布でひっかけ、宙を舞うミーナがいた。


「怪我を治療する側が怪我をしそうになってどうする」


 ルリには影響がないように身体をずらし、ミーナを抱きとめた。


「ご、ごめんなさい……」

「気にするな」


 わざとじゃないしな。そこまで、落ちこまなくてもいいんだが。


「治療を頼む」

「はい!」


 ミーナはルリと反対側に座り、治療を始めた。落ち込んだままよりはいいな。


「従者がご無礼を……」

「気にしなくていい。治療もしてもらってる」

「ですが……」

「エスタ王女、気にしなくていいと言っている」

「なっ!?」


 エスタは驚き、治療をしていたミーナはビクッと反応したな。


「そんなに驚かなくてもいいだろ?」

「ですが、どうして私の事を!?」

「個人で動いていても、俺は王だぞ?自分の隣国ぐらい把握はしてる」

「そうですか……」


 そんな顔を青くすることはないだろ……。


「外交問題なんて持ち出さないから気楽にしろ」

「ありがとうございます……」


 持ち出す気はないんだが、信じて貰えてない感じか。

 王族としてはそれぐらい、警戒してる方が成り立つからいいが。


「で、ルリの事をききたいんだよな?」

「「それはぜひ!」」


 ……女ってのは、この手の話が本当に好きだな。


「何から話せばいいんだろうな」

「えっと、ゼフィア様の側室がルリアルカさんなの?」

「自国で聞いた内容を他国で聞くと複雑だな……」


 誰だよ、隣国にまで変な噂を流した奴は!ザインとウェイスに調べさせて、叩き潰すしかないか……。この手の噂は尾ひれの付き方が酷くなるしな。


「ミーナ、言葉遣い!」

「あ……、ごめんなさい……」

「構わん。ここは謁見の場じゃない」

「ありがとう!」

「……あとでお説教ですからね」

「そんな!?」


 楽しいやつらだな。ルリの周りもこれぐらい楽しいはずだ。

 横で眠っている、ルリの頭を撫でる。髪もすべすべだな。


「ルリは側室じゃない。ただの家族だよ」

「家族ですか?王位継承権は破棄したと、ルリアルカさんから聞いてはいますが」

「そんなことまで話したのか。継承権を付けようとしたのは俺が守りやすいから付けようとしただけだ」

「「守りやすい?」」


 首を傾げながら声を揃えるとは器用なことをするな。この二人はルリの友達になる可能性も高い。話してやってもいいか。男の方は気を失ったままだが。


「こいつはな、戦っちゃいけないんだ」


 ルリは幸せそうに寝てる。お前はそうやって、幸せにしているのがいいんだよ。


「戦いとは無縁な生い立ちではないが、こいつは戦っちゃいけない。本当は誰も傷つけたくもない、静かな女の子なんだよ」

「静かなですか?」

「ルリアルカさん、クーちゃんを助けるために服も着ずに窓から飛び出したって聞いたの……」

「助けるためなら、そういうのは気にしないんだよ」


 ほんと、無茶するよな。お前は今は魔法も使えないんだぞ?


「凄い方ですね」

「真似なんてできないの……」

「人の命を助けるなんて簡単なことじゃないからな。相手の方が強ければ、返り討ちにあって、そのまま死ぬかもしれない。それに、ルリは女だ。言わなくても意味は分かるな?」


 二人が顔を青くしながら、頷いている。それが普通だよな。


「でも、こいつは助けるために命すら懸ける。静かに暮らして欲しいんだがな」

「……そこまで人助けに動ける方が戦ってはいけない?ゼフィア様、何か矛盾してませんか?ルリアルカさんはゼフィア様と同じで英雄と呼ばれるに相応しい方になれるはずです」

「英雄な……」


 この場にいる者はその『英雄』がどれほど言葉とかけ離れた場所にいるのか知らないんだろうな。


「私もエーちゃんの意見に賛成!ルリアルカさんは立派な人になれると思うの!」

「二人は英雄というのはどう考える?」

「私は英雄とは人々を争いから守り、皆に優しくできる方だと思います」


 エスタの意見は王族らしい意見だな。


「私は国を助けてくれる人だと思うの」


 ミーナは自国を救ってくれる人のことを指すか。

 二人の意見は結局は『人を助けてくれる』と同義だ。

 だがな、『英雄』っていうのはそんなに綺麗なものじゃないんだよ。


「二人とも、これは覚えておけ。『英雄』は正しい存在じゃない」

「どういうことですか?」

「意味がわからないの……」


 二人は揃って首を傾げている。見解の相違もあるから仕方がないがな。


「『英雄』って言われるのは後付けだ」

「後付けですか?」

「オマケなの?」

「ミーナの言葉が似合うな。英雄なんて言葉はオマケだよ」

「そんなことはありません!」


 俺が簡単に言うと、エスタが大声を上げて否定した。否定したい気持ちはわからんでもない。

 俺も昔はそうだったからな。


「『英雄』とはそれに相応しい人が呼ばれる敬称です!何も成し遂げていない者に贈られる言葉ではありません!ゼフィア様も英雄と呼ばれる方ではありませんか?それを簡単にオマケだなんて……。そんな言葉でまとめては、敬ってくれる民も悲しみます!」

「言いたいことはそれだけか?」

「何故そこまで簡単に言えるのですか……」

「俺は英雄と呼ばれることが嫌いだからだ」

「なっ!?」

「え!?」


 この発言にはエスタもミーナも驚いたようだった。


「これはお前たちより長く生きている王族からの授業みたいなもんだ」


 二人が俺の言葉に戸惑いながらも真っ直ぐとこちらを向いた。


「英雄とは優れた功績を残した人物がなると二人は思っているな?」

「はい」

「違うの?」

「違うな。英雄と呼ばれるのは、それは英雄と呼びたがる奴に利益があった場合に限る」


 英雄なんてそんなもんだ。戦いで優れた功績を残し、栄誉を賜った者とかな。


「利益ですか?」

「いいことじゃないの?」

「少し昔話をしよう。俺はフェイマス内にある腐った部分をすべて叩き潰した」


 家族を守るためにな。自分勝手な話だろ?


「存じ上げています。フェイマスの王、ゼフィア様が国内の不穏に動くものをすべて排除して、国を平和にしたと」

「私も知ってる!ゼフィア様はその時、剣で戦ったから剣王って言われるようになったって」

「二人の言う通りだ。俺は戦って、排除したんだよ。簡単に言えば人殺しだ」

「「え……?」」


 エスタとミーナの表情が凍り付いたな。でも、そうだろ?俺は文字通り『排除』したんだからな。


「考えたことはないか?不穏な奴らを追い詰めたんだ。血が流れることになると」

「そ、それは……」


 エスタは返事をするのに詰まったな。まだ、国の裏を見ていないのだろう。

 ん?別に悪いことじゃないぞ?見なくて済むのなら、それはそれでいいことだ。それだけ、周りが優れている可能性もあるからな。


「ミーナはどう思った?」

「私は………」


 ミーナは真剣な目をしている。何か思うことがあるのか。


「それは必要なことだと思ったの」

「必要なことか」

「だって、国の中に諍いの種があるのに、血が流れずに終わるとは思えないの。……これは私の考えすぎかもしれないけど、そうしないと解決できないこともあると思ったから。……あ、わわっ!?私はなんてことを……」

「続けて話してくれ」


 こういった意見は俺も聞きたい。どれが正解というものでもない。

 簡単に言えば、時と場合で全てが逆転する。聖者が愚者になるように。


「私は……」


 ミーナは一度目を瞑り、深呼吸してから話し始めた。


「争いごとが嫌い。エーちゃんとクーちゃんと三人で静かに平穏に暮らしたいだけなの。……叶わない願いだけど。もしも、それが叶うのなら……私はこの手を汚しても構わないと思うの」

「ミーナ!?」

「私にはそれしか願いが無いの。周りに何を言われたとしても、私は大好きな、エーちゃんとクーちゃんと一緒に過ごせればそれだけでいいの!……自分勝手な酷い内容だよ。私もそれはわかってるの。でも、それでも!私には大事なことなの……大事な二人なの!二人を傷つける人がいたら、私が許さないの!」


 大人しそうな感じなのに、はっきりという娘だ。


「私たち三人の関係を壊そうとする人は敵なの!もう引き裂かれるのは嫌なの!……だから、私は争いが起きた場合は血が流れてもしかたないと思うの。……エーちゃんに嫌われるようなこと言ってるよね?お姉ちゃん失格かな……」


 訂正しよう。ミーナは覚悟はできていると断言していい。

 それぐらい、家族を大事にしているってことだ。

 ルリと一緒じゃねーか。

 そんな娘が間違えてるとか思われる世の中にはしたくねぇな。


「ミーナは立派な意見を持っているんだな」

「……こんな考えを持っている私は悪い娘なの」


 ミーナがしゅんとしながら俯く。


「別に悪いとは思わないな」


 治療中の左腕を使って、ミーナの頭を撫でる。


「そういう汚れ仕事みたいなものは、国のことを考えているやつに任せればいいんだよ。お前は家族を守るってことだけ考えていたらいい。本当に命を奪わなければならない状況になったとしても、動ける保証はどこにもない。これは覚悟があるからできるというわけじゃないからな」


 思わずため息が出る。

 俺が知っている奴らはどいつもこいつも、人を助けるために全てを賭けれるんだなと。

 お人よしのバカばっかりだ。

 なんだ?自分に言葉が跳ね返ってる?ほっとけ。


「お前はバカだな」

「はぅ……バカって言われたの……。頭撫でてるのにバカって……」

「いい意味のバカだよ。で、エスタは意見はないのか?」


 沈黙を続けている、エスタに声をかける。戸惑っているのもあるのだろう。気まずそうに、話しにくそうにしている。


「わ、私は……」

「エーちゃんは無理しないで、お姉ちゃんに任せればいいの。……撫でられているのがちょっと癖になりそうなの……」


 ……ミーナが少し残念になってきた気がする。

 そういうのが好きな奴もいるだろうから、別にいいか……ってダメだな。


「……私は……私はいつも守られてばかりですね。守らないといけない立場なのに……本当、いつも守られてばかり。酷いことも言ったりするけど、それでも最後は守られて……」

「なら、それがお前の立ち位置ってことだ」

「……立ち位置ですか?」

「そうだ。お前がずっといる場所だ。これも悪いことではない。ただ、守られていればいい。それだけのことだ」


 酷な言い方かもしれんが、仕方あるまい。これは変われる者と変われない者がいる。

 別に王族だから守られていても問題はない。

 俺は守る立場を選んだけどな。

 ……たまに、本当に良かったのか?と疑問に思う時もあるが。


「私はずっと守られたまま……」

「エーちゃんは私が守ってあげるの。だから、今のままでいいの」

「私は……嫌です」

「エーちゃん!?」

「私は嫌です!守られてばかりの立場なんて……。お姉ちゃんにばかり辛い思いをさせたくない!二人とも私を守り過ぎなのよ!」


 逆切れ入ってないか?と突っ込みたくなるが、聞いておくか。


「私だってもう大人なのよ?いつまでも守られてばかりじゃないわ!私だって頑張れるんだから!」

「でも、エーちゃんは身体が弱いし……」

「うぐ……」

「今回だって、エーちゃんのお薬を買いに出たのがきっかけだったの」

「うぅ……」

「ルリアルカさんと知り合えた、きっかけでもあるけど……。やっぱり、エーちゃんは守られてる方がいいの」

「ぐす……」


 姉妹の言い合いは姉の完全勝利に終わった。容赦なかった気もするが。

 まぁ、なんとなくだが、ルリがここにいる理由もわかった。

 薬を買いに行く過程で問題が起きて、そこにルリが介入したってことだろう。

 無茶するのは俺の目の届く範囲にして欲しいが……無理だよな。


「んぅ……」


 ルリから声がする。

 ルリからも話を聞いておかないと。状況はわかったが、示しがつかん。


「起きた……」

「いや……」


 声をかけたと同時に否定的な声が聞こえる。

 何もしてないぞ?疑った目で見るなよ!?


「やめ……やめて………そんなに激しくしちゃダメです……」


 ……お前は何を夢見てるんだ?


「ダメです……やめて、やめてください……」


 俺が原因ではないことを知らせないとダメだ……。エスタとミーナの視線が痛い。


「……ゼフィア、酷いこと……しないで……お願いですから……」


 俺が悪いのか!?


「ゼフィア様、あなたはルリアルカさんに何を……」

「俺は何もしてない!」

「撫でるのをやめてください!破廉恥です!」

「ちょっとまて!」


 ……完全に逃げ場ねーよな。

 止めと言わんばかりに、ルリは泣いてるし。

 どれだけ俺が悪者なんだよ……。


「起きろ!起きろ、ルリ!頼むから起きろ!」


 ルリを強引に揺さぶって起こすことにした。

 俺が耐えれん……。


「やめ………ゼフィア?」


 起きてくれたか。これで俺の無実が……。


「……やってくれましたね」

「何をだよ!?」

「私のおやつをよくも!」

「「「おやつ!?」」」


 ルリを除く三人の声がはもった。

 冤罪以前じゃねーかよ!なんだよ、おやつって……。


「私が楽しみに置いていたおやつを強引に奪って、私の前であんなにも乱暴に扱って!私のおやつをよくも……あれ?私のおやつは……どこですか?」

「どれだけお腹が空いてるんだよ」

「ゼフィア、私のおやつはどこですか?」

「それは全部夢だ……」

「夢?でも、ゼフィアが私のおやつを……あれ?」


 ルリはしばらく寝ぼけたままだった。

 次からはちゃんと起きてくれよ……。




「なら、私がここにいる理由はわかったのですね?」


 私が眠っている間に、事情の説明は終わったようです。


「ああ。どちらかと言えば、俺が感づいたようなもんだけどな。あとはちょっと王族として教えることを少しか」

「そうですか。エスタさん、ミーナさん、家族がご迷惑をかけました」

「ルリアルカさん、顔を上げてください!あなたが謝ることなんて何一つありません!」

「そうなの!ルリアルカさんは私達を守ってくれたの!」

「魔法が使えるなら、ゼフィア相手に遅れはとらないのですけど」


 三人でゼフィアを見る。一斉にみられて、少し驚いたようですね。


「な、なんだよ?」

「……セシリーたちになんて報告をしようか悩んでます」


 今、この場にいるのは、私、ゼフィア、エスタさん、ミーナさんの四人です。

 クルトさんは私が起きてから少しして、気が付きましたが「鍛錬が足らない」といい、外に出て行きました。


「いや、悩む必要ねぇだろ……」

「いいえ、これは大事なことです。そうですね……」


 間違いとわかっているのに、私を守るために行動した、ゼフィアに少し意地悪をしましょう。


「衣服を着ていない私を激しく乱暴に襲ってきたのです………と、皆に報告したらいいですね」

「やめろ!俺が殺される!」

「でも、事実ですよ?服を着ていない私を剣で斬りつけ、弾き飛ばして樹に叩きつけたり、素手で私を殴って気絶させたり。そうです、私は家族に襲われたのです!ああ、なんて酷い家族なんでしょう……。エスタさんとミーナさんがいなければ、もっと酷いことになっていたのかもしれません……」


 そういうと、左右からエスタさんとミーナさんが飛びついてきました。

 きつく抱きしめられているので、身動きが取れません。


「やっぱり、ゼフィア様はそういう趣味をお持ちのようですね……」

「剣王なんて間違いなの!破廉恥な王なの!」

「いや、だから!ルリ、冗談もほどほどにしろ!俺が本当に逃げ場がなくなるじゃねーか!」


 ゼフィアが本気で焦りだしました。少し気分が晴れた気がします。

 個人的な問題は山積みですけど。


「そうですね。冗談です」

「「えぇ!?」」

「ほどほどにしてくれ……」


 ゼフィアががっくりと、うなだれていると。


「ルリさんって凄いわね……」

「剣王様が子ども扱いなの」


 二人は驚き続けていました。


「家族ですからね」


 家族なので冗談がいえますから。そして、本当にぶつかることも。

 互いに守るために動いているのですから、そういうこともあるのです。


「今回の事で私は色々と得る事が多かったです。まだ守れる。これは本当にいいことでした」

「確かにそうだが。ルリ、改めて言うが、今のお前は魔法が使えない。以前とまでは守り切れないんだ。それは覚えておいてくれ」

「……確かに、以前のようにまで無茶はできません。それが問題なのですよ」


 魔法が使えないままでは、確かに守ることにも限度があります。

 簡単に言うと、今は治療する魔法も使えません。

 つまり、目の前で大怪我した人を見ても助けられないし、自分が大怪我をしたときも助からなのです。

 本当に問題です。時間が経たないと解決しない問題でもありますけど……。

 魔力が戻るか、失って死ぬか。

 簡単に言えば、この二択です。前者なら、以前のように人を助けるのも可能です。後者なら……その場で終わりですから、考えることもないのでしょう。

 本当にどうしましょう?


「頼むから静かに暮らしてくれ」

「ですが……」

「お前は静かに暮らしたらいいんだよ。別にギルドの受付も宿の受付もしなくてもいいんだぞ?」

「それは嫌です」


 旅を休憩している私にとって、この受付のお仕事は今では日課みたいなものです。二つともしなくなると、毎日暇で暇で仕方がないのです。


「無茶だけはするなよ」

「はい…………たぶん」

「横を向くな横を……」


 私とゼフィアのやり取りを見ていた二人から。


「ルリアルカさんとゼフィア様は仲がいいのね」

「ルリが小さいころから知ってるからな。ああ、そうだ、二人に頼みがある。ルリがまたこっちに来た時は街を案内してやってくれないか?この国にしかない美味しいものもあるだろ?」

「喜んで引き受けさせて頂きます」

「ルリアルカさん、今日から友達なの」

「お友達?えっと……」


 周囲を見渡します。皆、笑顔でした。


「いいのですか?」

「ええ。これからも、よろしくね」

「よろしくなの!」

「はい!」


 お友達が増えるとは思っていませんでした。これは嬉しい出来事です。


「クルトさんはどうなのでしょう?」

「クルトはダメよ」

「クーちゃんはダメなの」


 エスタさんとミーナさんから、まさかのダメという声がでました。


「もう少し女性になれてからじゃないと心配だから」

「そうなの」

「……何か大変そうですね」


 それでも、お友達が二人増えました。本当にうれし……あれ?


「私は自由にこの国に来てよいのですか?」

「「あ……」」

「皆で行けばいいだろ?頻繁にとまではいかんが、行く前に連絡はしてくれ。……またお前が居なくなると想像しただけでも血の気が引く」

「はい」


 旅ではありませんが、他の国に移動することも増えるかもしれませんね。

 楽しみなことがさらに増えたという感じでしょうか?

 今日は嬉しい事だらけな気がします。

 ですが……。


(私は本当にこのままで良いのでしょうか?守ることができるとわかりましたが、それは簡単なことだけです。以前の様には動けません。強引にでも魔力を戻した方がいいのでしょうか?でも、失敗した場合は……)


 失敗の末路は死です。

 時間が経っても戻らずに失えばそれも同じ事ですが、時間が違います。

 即座か、長いか。


(私には妹と親友、家族、そして新しくできたお友達がいます。やっぱり、安易な行動はできないようです。魔力は時間経過を選択しましょう)


 私は知っています。

 大切な物をいきなり失うことの恐怖を。


 皆にはできる限り経験してもらいたくないですからね。

 だから、無様でもゆっくり生きていきましょう。


「何考えてるんだよ?」

「帰って、皆に私がゼフィアからどれだけ酷い事をされたのかを、説明する内容を考えていたのです」

「だから、止めろって!」

「あはは」



 この幸せな時間を自ら壊すのはダメですよね。

 だから、私は今の私のまま生きるのです。


(でも、この空腹には勝てません……)


 そこ、残念とか言わないでください!

 ゼフィアは英雄と呼ばれることを嫌っているものの、民の為にその言葉を受け続けています。

 王の心、民しず といったところでしょうか?


 ルリに新しいお友達ができました。

 少し謎は残したままとなっております。

 エスタ・エンテライア、ミーナ・ハインツ(フルネーム)の二人です。



 次回の更新は書き終わり次第となります。

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