大切な人
目が覚めると私は一人でした。
ですが、怖いとかはありません。
今の私には大切な人がいますから。
「……んんー。……え?」
目が覚めて周囲を見てみると、大きなベッドに私一人だけでした。
「えっと、ここは……」
昨日あったことを思い出してみます。お城を出てから、私とルリお姉ちゃんのお家となるセシリーお姉ちゃんが経営する宿……名前は『ミューズの安らぎ』でしたね。宿に着いた後、ルリお姉ちゃんが部屋の引っ越しを済ませて、その後で三人で話をしていて……。
「途中から覚えてません……」
途中で眠ってしまったようです。ルリお姉ちゃんはベッドにいません。どこで眠っているのでしょう?
「ルリお姉ちゃんはどこに……」
寝室を出て広間に向かいます。ルリお姉ちゃんは直ぐに見つかりました。
「……着替えている最中に寝てしまったのでしょうか?」
ルリお姉ちゃんはソファーで座りながら眠っていました。横には脱いだ服があります。
「あんなにもカッコイイのにだらしないです……」
そうです。ルリお姉ちゃんはカッコイイのです。とても強くて、自分が大怪我しても守ってくれ……。
「う……」
血だまりで倒れている、ルリお姉ちゃんを思い出しました。思わず、口元を押さえてしまいます。
(あれほどの怪我を治してしまう魔法……ルリお姉ちゃんの故郷、『極光の魔島』というのは凄い場所なのでしょう)
自然と右手がルリお姉ちゃんの斬られた場所に触れ、肩、胸、腰へとなぞっていきます。
(普通なら助かりませんよね)
ルリお姉ちゃんの怪我は大怪我というのが優しく聞こえる程でした。それでも……。
(私は本当に助かる価値はあるのでしょうか?ルリお姉ちゃんが大怪我してまで助かるほどの価値が!)
私はまだわかりません。私自身が答えを出していいものとも思えません。ですから、皆が私の価値を見出してくれた時に、自分で改めて考えることにしま………。
「え?」
私を赤い瞳が見つめています。
「おはようございます」
「え?ルリお姉ちゃん?おは……え?いつから……?」
驚き過ぎて、上手く言葉がでません。
「レティアが私の肩に手を触れたぐらいからです。真剣な顔をしていたので声をかけなかったのですよ」
「次からは声を掛けてください……」
「はい」
目が合ったとき、全て見透かされたと思いました。
「レティア」
「は……い?」
声を掛けられたと同時に抱きしめられました。えっと、一体何が?
「色々と悩むのもいいです。大変なことが続けて起きると悩むのは当然ですからね。でも、自分を悪く考えてはいけませんよ?生きていると、嬉しい事もありますから」
「うん」
ルリお姉ちゃんには何が見えているのでしょう?私よりも少し年上の女性ですが、見ているものが違う気がします。とても優しい目をしていますが、どこか遠くを見ているようにも感じます。この人は……ルリお姉ちゃんも私のように何か大変な事を経験しているのでしょうか?
「?」
ルリお姉ちゃんの優しい笑み。「何か聞きたい事があるのですか?」と言っているように見えます。
「なんでもないです」
尋ねるのが怖い。
それが私の素直な意見です。ルリお姉ちゃんは教えてくれると思いますが、気軽に聞いてもいいとは思えません。
「そうですか」
抱きしめていた腕を緩め、ルリお姉ちゃんが立ち上がりました。
「私はお風呂に入ります。レティアはどうします?」
「私も入りたいです」
「一緒に入りましょう」
「はい」
お風呂に入れば、少しはゆっくりできるはずです。お風呂に入った時のルリお姉ちゃんはとても幸せそうでした。思わず、見惚れるほど……。
「ルリ、レティア起きてる?」
お風呂から上がって、お水を飲んでくつろいでいると、ドアの方から声がしました。
「起きていますよ」
「入るわね」
「?」
「カチャン」と鍵の開く音が響き、セシリーお姉ちゃんが入ってきました。鍵?
「二人ともおはよう。よく眠れた?」
「はい。私はベッドでぐっすりでした。でも、ルリお姉ちゃんはソファーで寝ていました」
「ルリもベッドで寝なさいよ……。床よりはマシだけど」
セシリーお姉ちゃんが呆れた顔をしています。
「私も疲れていましたから。眠気に負けたのですよ」
「お姉ちゃんなんだから、しっかりしなさいよ?」
「はい……」
ルリお姉ちゃんが怒られていました。あんなにも強い人が、このような事で怒られているというのも不思議な気がします。
「レティア」
「はい?」
セシリーお姉ちゃんが私を見ています。
「レティア用の部屋の鍵なんだけど、早くても今日のお昼過ぎになると思うの。昨日、部屋に戻ってから急ぎの依頼として出したんだけど、夜も遅かったから作るのがちょっとね」
私専用の部屋の鍵ですか。お家らしいので嬉しいです。
「わかりました。ところで、セシリーお姉ちゃんもこの部屋の鍵を持っているのですか?」
「ええ。ルリと私、完成したらレティアの鍵と受付の奥にある部屋にあと1つ。全部で4つね」
「家なのに不思議な気分です」
「確かにそうね。気を悪くさせたかしら?」
「そんなことはありません」
「セシリーお姉ちゃんも家族です」なんて、恥ずかしいので言えません。
「部屋の掃除とかで鍵がいるからね。あとは……ルリの監視かしら?」
「監視ですか?」
ルリお姉ちゃんを見ます。ルリお姉ちゃんはいつの間にかソファーで丸くなっていました。
「ルリって自分の見た目を気にしない所があるからね。裸で外に出たりしないか心配で」
「ええ!?」
ルリお姉ちゃんが裸で外を出歩く……?ルリお姉ちゃんは綺麗です。スタイルも抜群です。そんな人が裸で外を出歩くとか、色々とダメな気がします!
「しませんよ……」
「でも、裸で宿の中歩いていたじゃない」
宿を裸で……?港でも服を着ていなくても平気そうでしたが。でも、ゼフィア王が言っていました。ルリお姉ちゃんは人助けの時には容姿を気にしないと。でも、宿ですよね……?
「あれはセシリーがお風呂で溺れたからじゃないですか」
「お風呂で溺れて?人命救助?……よかった。ルリお姉ちゃんが露出狂じゃなくて……」
「セシリー……」
ルリお姉ちゃんが低い声を出して唸っています。怖いです。
「ご、ごめん!」
ルリお姉ちゃんとセシリーお姉ちゃんの立ち位置が変わっていました。遠慮なく言い合えるのは羨ましいと思います。
「今日はどうするの?」
「とりあえず、髪を切りたいですね」
そうです。ルリお姉ちゃんは私を庇ってくれた時に、髪が切れたのでした。
「ごめんなさい……」
「何で謝るのです?」
「えっと……」
無意識に声に出ていたようです。
「……気にしないでいいのですよ。髪なんてまた伸びますから」
「はい」
「それじゃ、三人で……って、シエラも誘わないと喧嘩になるわね。四人で行きましょう」
「そういえば、シエラお姉ちゃんも家が近いと聞きましたけど?」
「近いわよ」
「そうですね。行けばわかりますよ」
「そうですか」
シエラお姉ちゃんのお父様、ウェイスおじさまがギルドマスターと言っていましたね。ギルドに住んでいるのかもしれません。ここから近いのでしょうか?少し気になります。
「おはよ」
「え!?」
『ミューズの安らぎ』を三人で出て直ぐ、シエラお姉ちゃんに声を掛けられました。
さすがに驚きを隠せません。驚かないのが無理ですよね?
「普通はこういう反応よね」
「そうですね」
「私は驚き過ぎだと思うかな」
宿の隣にギルドですよ?驚くしかありません。あ、でも……。
「夜はお酒も飲めるから、ギルドの横に宿がある……?」
「正解」
セシリーお姉ちゃんが頭を撫でてくれました。
「レティアは色々知ってるんだね」
シエラお姉ちゃんも続いて撫でてくれます。
「ルリは詳しくないのにね……」
「ルリさん、お姉さんなのに……」
「私は世間知らずですよ!もー!」
ルリお姉ちゃんが拗ねました。なんとなくですが、三人の立ち位置がわかった気もします。
「今日はルリさんの髪を切りにいくんだっけ?」
頭を撫で続けたまま、シエラお姉ちゃんが言いました。
「レティアもね」
「わ、私はやっぱり……」
髪が少し痛んでいるのはわかりますけど……。
「遠慮しなくていいのです」
後ろからルリお姉ちゃんが抱き着いてきました。
「あ、ずるい」
「いいなー」
「姉の特権です」
ルリお姉ちゃんが反撃といわんばかりに私の後ろから言いました。温かいです。
「次は私の番ね」
「私が先よ」
「あうぅ……」
ルリお姉ちゃんが離れた後、私の取り合いが軽く始まるのでした。恥ずかしいです……。
「髪を切るのが目的ですが、レティアの服も買いたいのです。下着も必要ですから」
「ル、ルリが普通の事を言ってる……」
「だね……」
「泣いてもいいですよね!?」
普通の事を言って驚かれています。ルリお姉ちゃん、普段何をしていたのですか?
「私だって可愛い妹のために頑張っているのですよ!もー!」
「ごめんってば」
「ごめん、ルリさん……」
三人は本当にお友達なんだと思いました。羨ましいと思いながら、少し寂しくなります。
「ルリの髪って綺麗だから、下手な人に触らせたくないのよね」
「そうですか?」
「うん、綺麗」
私もセシリーお姉ちゃんとシエラお姉ちゃんの意見に賛成です。ルリお姉ちゃんの髪は本当に綺麗な真っ直ぐの黒髪です。
「レティアも綺麗よね」
「ここまで真っ白って見かけないかな?」
「陽が当たると銀色に光って綺麗ですよね」
「えっと、その……」
顔が赤くなるのがわかります。私の髪の色は珍しい色ですから、褒められることに慣れていません。
「新しい服屋さんで髪切れたよね?」
「宿にも案内がきてたわ。行ってみる?」
「「はい」」
私とルリお姉ちゃんの声が重なります。
「……ほんと、姉妹ね」
「だね」
四人で笑った後、服屋さんに向かうのでした。
「わかってはいたけど、ルリは時間がかかりそうね……」
セシリーお姉ちゃんは髪を整えただけです。青い髪がとても綺麗です。
「だね……」
シエラお姉ちゃんも整えただけです。金色の髪が羨ましい……。
「私はこのままゆっくりしていますから、先に行ってください」
ルリお姉ちゃんの髪はまだまだ時間がかかるとしか言えません。
髪の長さですが、一番長いのはルリお姉ちゃんです。足元まで伸びる黒髪ですから。
次にシエラお姉ちゃん。腰まであります。
その次にセシリーお姉ちゃん。シエラお姉ちゃんより少し短いですが、背はシエラお姉ちゃんより高く、四人の中で一番背が高いです。背が高いのいいな……。
そして、私。肩にかかるぐらいの長さです。
「ルリお姉ちゃんの髪型がどうなるのか気になります」
「待っていても、面白くありませんよ?」
それから1時間以上待ちました。
「退屈だったでしょう」
「「「………」」」
ルリお姉ちゃんが私たちの方を向きます。前髪、切っただけですよね?
「どうかしましたか?」
ルリお姉ちゃんは私達が話さないのを見て首を傾げます。ダメです。その仕草は反則です!
ルリお姉ちゃんは前髪を眉が隠れる長さで切ったようです。薄い赤の瞳もよく見えます。横髪も少し短くしたようですね。とても似合っています。
改めて見ても美人です。可愛らしいのでしょうか?ルリお姉ちゃんは背も小柄なので、幼く見えるのかもしれません。ちなみに長い黒髪ですが、お店の人が緩い三つ編みにしたようです。ルリお姉ちゃんが話すたびにふわふわと揺れています。
「な、何か変ですか?」
ルリお姉ちゃんが慌てだしました。目をうるうるさせながら……。だから、ダメです。反則ですよ!
「ルリ……」
「セ、セシリー……」
「目をうるうるさせない……」
「ええ!?」
「そうだね……」
「シエラさんまで!?」
セシリーお姉ちゃんとシエラお姉ちゃんの気持ちはよくわかります。
「レティアも何か言ってくださいよ!」
「ごめんなさい……」
「なんで!?」
暫くの間、ルリお姉ちゃんは慌てているのでした。
「むー」
そして、ルリお姉ちゃんは慌てた後、膨れていました。
「膨れないの。大体、そこまで可愛いルリが悪いのよ……」
セシリーお姉ちゃんが無茶を言っています。
「少し髪型を変えただけで、ここまで雰囲気が変わるとはね」
「私も驚きました」
「むー」
ルリお姉ちゃんは膨らんだままです。可愛い……。
「……レティアの服を見に行きましょう。膨れるのはここまでです」
「お姉ちゃんですから!」と聞こえました。やっぱり、可愛いです。
「レティアはどんな服がいいの?」
「私ですか?」
ふと、聞かれて困ります。国が滅亡してからは動きやすい服装しか選んでいません。色も地味な感じです。
「とくにないです」
今更という気がしてしまいました。着飾るのも好きではありませんけど。
「シエラ、まずいわね……」
「うん……」
二人が真剣な顔をしています。
「「残念美人が増える……」」
「……なんですかそれ?」
残念美人?そんな言葉、初めて聞きましたよ……。あれ?ルリお姉ちゃんが遠い目をしています。
「レティア、よく聞きなさい」
「は、はい」
セシリーお姉ちゃんが私の両肩を掴みました。……いたっ!地味に痛いです!
「ルリは今だと少しは服を選んだりしてるけど、基本的には真っ黒なの。似合ってるんだけどね……」
「真っ黒……ですか?」
真っ黒?初めて会った時も、黒い服を着ていた気がします。
「真っ黒よ。柄も刺繍も何もない真っ黒な服が好きなの」
「それは女性としてどうなのでしょう……」
私でも引っかかりました。普通なら、セシリーお姉ちゃんやシエラお姉ちゃんみたいに可愛い服を選んだりしますよね?
「黒がいいのです」
「ルリは黙ってなさい」
「はい……」
ルリお姉ちゃんは拗ねてしまいました。
「レティアには可愛いらしい姿をしてもらいます」
「ルリさん美人で可愛いし、レティアも可愛い姿をしていたら、美人姉妹だね」
「美人姉妹ですか?」
ルリお姉ちゃんはわかります。私には似合わない言葉だと思いますけど。
「さぁ、行きましょう!」
「ルリさん、行くよー」
「私はここで少し休んでいます」
「ルリお姉ちゃん?」
胸にズキンと痛みが走りました。どうして、そんなことを言うのですか?
「そんな顔をしないでください」
「で、でも……」
「レティアの可愛らしい姿を見たいのは当然です」
「だったら……」
「私は可愛い服というのがわかりません。セシリーとシエラさんに任せて、可愛らしい姿をしたレティアを見る方が楽しみなのです」
三つ編みをふわふわと揺らしながら、笑顔で言われました。
「言いたいことはわかるけどね」
「うんうん」
セシリーお姉ちゃんとシエラお姉ちゃんがルリお姉ちゃんを挟んだ状態で並びます。
「私だってできるなら、レティアの可愛い姿を後でみたいのよ!諦めてきなさい!」
「行くよ、ルリさん!」
「そんなー」
ルリお姉ちゃんが引きずられて行きました。
「これが残念美人ですか……」
美人で可愛いルリお姉ちゃんですが、少しだけ残念美人というのを理解した気がします。
本当に勿体ないです……。
私の服は思った以上に早く決まりました。赤いリボンのついた紺色のシャツに赤いスカートです。右腕には赤い刺繍が施されたブレスレットがあります。
「うん。可愛い」
「うんうん」
セシリーお姉ちゃんとシエラお姉ちゃんが頷いています。ルリお姉ちゃんは?
「可愛らしいですよ」
優しい笑みを浮かべながら、ルリお姉ちゃんがいいました。
本当に嬉しいです。お姉ちゃん達は温かいです。
その後、数着の服と下着を購入して、お店を後にしました。
「お昼どうするの?」
「私はお腹空いたかな」
「私も少しお腹が空きました」
「宿に戻ってからにしましょう」
「「え!?」」
ルリお姉ちゃんの言葉にセシリーお姉ちゃんとシエラお姉ちゃんが驚いています。驚く事なのでしょうか?
「私だってお腹が空いています。ですが、することがあるのです」
何か用事でもあったのでしょうか?
「ルリもしかして?」
セシリーお姉ちゃんは心当たりがあるようです。
「そうです」
「……わかったわ。宿に戻りましょう。シエラもね」
「いいよ。でも、ルリさんがすることに私も関係あるの?」
「はい。シエラさんにもレティアにも関係ありますよ」
私にもですか?一体何があるのでしょうか?
「簡単に言うと魔法です」
ルリお姉ちゃんは言い終えると、トコトコと歩いて行ったのでした。
「覚悟した方がいいわよ」
「「え?」」
セシリーお姉ちゃんが真剣な顔をして言いました。
「昨日、ルリから理由を聞いたわ。ここだと目立つから理由は言わないけどね。ルリは私達の事を考えてくれてるのよ。することはかなり大変だけどね……」
「そうなんだ」
ルリお姉ちゃんは何を考えているのでしょうか?宿に戻ればわかるのでしょうか?
私達の前をルリお姉ちゃんが三つ編みを揺らして歩いています。
小さく可愛らしい後姿です。見た目よりも子供っぽい行動が目立ちます。でも、それでも……。
「安心できます」
ルリお姉ちゃんの姿は心が温かくなります。
姉になってくれたのは昨日ですが、誇れる姉です。
そんな姉に負けず劣らず、立派な妹として生きていきたい。
私はそう思うのでした。
レティア視点でのお話でした。
レティアは本来、明るい子ですが、国の滅亡、港での騒ぎによって心に傷を負っています。
明るく振舞おうとしても、それは認められないと思い、心に影が現れます。
全てを失った少女にできた、全てを失った妹。
ルリアルカとレティアはどのように成長するのか?
次回の更新は一週間以内を目標にしたいと思います。




