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 「みんな大丈夫かなぁ」

 思わず、言葉が漏れる。テンカ達はおそらく怪物大移動の最後の群れとの戦闘をしているところか。ネアはテンカ達のいる場所から遠く離れた地でゆるゆると過ごしている自分の身を歯がゆく感じてもいた。

 「何言ってるの?」

 「!」

 横からにゅっと顔が現れる。恐ろしく整った顔が急に目の前に現れるとどきり、と心臓が跳ねる。さすがに声には出さなかったが、ぼーっとしていたためか少し驚いてしまった。

 「いえ、今日知り合いが怪物大移動の討伐をしているみたいで」

 正直に理由を話すと、彼女―セントーレアさん―はああ、という風に手を叩いた。

 「あれかぁ。出てくるモンスターが結構厄介なのよね。「木魔法」とか「土魔法」が使える人がたくさんいると楽なんだけどね」

 セントーレアさんはそう、懐かしがるように話す。まるで、

 「まるで、参加したみたいですね」

 「ええ、そうね。あのスタンセンチピードには手を焼かされたのはいい思い出よ」

 実際に参加したと聞かされて少しびっくりしてしまうが、少し考えるとそれもありそうだと思えた。何より彼女はエルフ種であり、ゲーム内時間では長く生きているはずなのだ。お姉さん系お助けキャラとしての一面も持っているであろうセントーレアさんがその手の知識を持っていても不思議ではない。

 「その時は如何倒したんですか?」

 「ええとね。とにかく硬かったかな。途中から電気の鎧を纏うからさらに固くなるし、悪あがきみたいに暴れまわるの。大きいから結構危ないのよね。どうやって倒したかなぁ」

 そうやって形のいい顎に指を当てた考え込み始める。しばしの沈黙を挟んでああ、とばかりに手を叩いた。

 「そうそう、「木魔法」とか「土魔法」をありったけ使って地形改変をしたりするのよ」

 「地形改変?」

 聞き慣れないフレーズがセントーレアさんの口から飛び出た。

 「まぁ、簡単にいうと魔法でフィールドの環境を変えるのよ」

 「環境を変える?」

 思わず、聞き返す。ゲームのフィールドはそんな簡単に変えられるのかと思った。

 「そんなに大したことじゃないわ。一時的に戦いやすい状況に環境を変えるだけ。永久的に変えられるわけじゃないわ。スタンセンチピードの時は辺りを壁とか、蔦とかでふさいでそいつが動き回れないようにしたの。そうでもしないとあの突進でみんな吹き飛ばされちゃうからね」

 何のことも無しに彼女はそう言いのけた。ゲームのフィールドを一時的に障害物などでふさいだようだ。ただ攻撃を当てるだけじゃなく、まわりの環境を利用する。そういった戦術をとることも大事なのだろう。力押しだけでは難しいこともあるという事だろう。

 「まぁ、人数さえ足りていればそんなことしなくても数の暴力で倒せるけどね」

 その方法でも問題はないのだろうが、一瞬前まで感心していた私の思いを返してほしい。

 台無しだぁ。そんなどこかむなしい気持ちを感じた。ネアは苦笑いするほかなかった。


 「何もってるのって。あら、それは感応石ね」

 ベルベットフラワーから手に入れた魔力結晶を眺める。雪の様に白い結晶はまるで石のようだ。何ともなしに手に持っているとセントーレアさんがあら懐かしいといった風に声をあげた。

 「これ、知ってるんですか?」

 「知ってるわ。そりゃ、だてにエルフしてないもの」

 当然といった風に胸を張るセントーレアさん。

 「知ってるも何も結構いろいろなことで使うのよ。機械に埋め込んだりモンスターを使役したり、ね」

 「使役、ですか」

 使役というとテイム、という事だろうか。そう言えば、モンスターを操る職業やスキルはなかった気がする。召喚士という職業はあるが、モンスターを使役するスキルは持っていなかったはずである。

 「ええ、使役というより呼びかけによって意思を疎通させるというか……身のふたもない言い方をするならペットという説明の仕方が最も適切かしら?」

 「ペットですか……」

 「ええ、ペットよ」

 そう言ってにこりと笑う。見のふたもない言い方だが、モンスターをペットにできるという点に興味はあった。

 「どうやってペットに?」

 「その感応石を材料に「共鳴の鈴」っていうものを作るのよ。ただし、二個以上持ってても共鳴の鈴は互いに干渉しあうから意味を為さないの。一人に一つって決まってるのよね」

 つまり、一人のプレイヤーが二体も三体もモンスターを使役することはできないような措置がされているという事だろう。良くできたシステムである。

 「共鳴に鈴ですか」

 「ええ、作るのはそれほど難しくないわ。「細工」スキルか。「錬金」スキルか。なんでもいいから金属を鈴の形にしてその中に感応石を埋め込めばいいの」

 「私にも作れますかね?」

 そう聞くとセントーレアさんは何を言っているのだ、というような顔をした。

 「作れないことはないだろうけど、素人が作ったような鈴じゃ使役できるものもできないわ」

 どうやら、鈴の出来が関係してくるらしい。生産系で鳴らしているわけでもない私には難しい話でしょう。すこし、しょげかえるようなそぶりを見せてしまったのか。見かねたようにセントーレアさんが言う。

 「別にネア君が位置から作る必要はないわよ。村の人に頼んで細工してもらうのもいいわ。そうだ、どうせならあそこに行きましょう」

 思いついたという風にセントーレアさんは言う。怪訝に思う私の表情を見ながら、にやりと笑う。

 「そうね、それが良いわ。ねぇ、ネア君。いいところがあるの。今度そこに行きましょう」

 そういってスキップをするように自分の部屋へと戻っていくセントーレアさん。小躍りしているようなその後ろ姿を見た私は何か大変なことが待っているような気がした。

 

 実際、そうだったのであるが。

二章最後のお話です。


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