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 ふと見つけた小島に上がってみようと思ったのは思い付きである。普段、海の中でしか戦闘を行っていない事に対する息抜きと言う奴です。もしくは今現在進行形で始まっているであろうイベントに参加できないわわしの憂さ晴らしのようなものです。

 ふと思えば深海と研究所を行ったり来たりする日々。それ以外はフリージアちゃんとお買い物に行ったり、サウロさんと近接戦闘の訓練として模擬試合をしたり、はたまたセントーレアさんの怪しげな研究に付き合ってお使いを行ったり来たりと忙しい日々を過ごしているのですがふと「最後に陸で狩りをしたのはいつでしょう?」と思い立ち、この小島に上陸してみようと思い立ったのです。ま、この島にどんなモンスターが出るのか全く知りませんけどね。


 使い込まれた革鎧をかちゃかちゃと鳴らしながら海の中から這い出すように島に上がれば、白く何物にも侵された跡のない砂が左右に広がっている。目の前には鬱蒼と生い茂った森がある。どう見ても無人島ですね。外からパッと見た感じではそれなりの大きさの島でしたが、立派な木や大きく隆起した岩山がある起伏に富んだ地形をしていることがわかります。生息しているモンスターはおそらくネットでもまだ確認されてないものが多いかもしれません。なるたけ、周囲を警戒して進みます。

 「索敵」を全開にして森の中を進む。どこのジャングルなのかと思いたくなるようなほど蔦植物たちが茂っているところを剥ぎ取りナイフで適当に切り開きます。背の高い草や、所構わず伸びている木の根っこたちが私の足を引っ掛けようと張り切っていますが、それもついでに避けて歩きます。

 「索敵」には多くの生物がいることが反応からわかるのですが、どうも敵対してくる様子が無くそのほとんどが遠巻きにこちらを窺っているような状態です。正直襲い掛かってこられるよりも厄介な気がしますが、こちらから手を出す気にもなれないので保留にします。

 ここにいるモンスター達は比較的おとなしいのかこちらが何かしようとしない限り、向こうも何かしようとは思わないようで実際に姿を表したモンスターはこちらを無視するかのような態度をとってきました。


 銛を片手に視界を遮る葉を押しのける。時々、ぴーっと甲高い鳴き声をたてる二足の恐竜のようなモンスターがいたりしますが、こちらをちらと見るだけですぐにどこかへ去ってしまいます。「索敵」の範囲からも遠ざかってしまって反応が無くなってしまいます。さすがにそろそろ何か来てくれると嬉しいのですが……。

 銛を片手に持っていると少し取り回しが悪いな、と感じます。普通に考えれば長柄の武器はこのような森では使い勝手が悪いのは当たり前なのですが、「銛打ち」のレベル上げを考えるとこれを使わざるを得ません。一応、サウロさんから「エーク術」という(かい)を使った武術の手ほどきを受けましたが、満足に使えそうもありません。魔法も同様にここでは障害物が多く視界も悪いので使い勝手が悪そうです。初めての場所で相性の悪い武器しか使えそうにないというよく考えれば相当のんきなことをやっているな、と自分のことながらまるで他人事のように感じています。ゲームだからですかね。セントーレアさんの研究所はいわゆるポータル、つまり私が死んでしまった場合に戻ることのできる場所として扱われているらしく、遠慮なく死に戻ってねとは彼女の弁でした。その後ろでフリージアちゃんがネアおにいちゃんどっかいっちゃうの? と涙を浮かべていたのを必死に宥めていた記憶があります。

 そんなことを考えながら薄暗い森を歩いていると唐突に「索敵」へ反応がありました。

 「3、4? 5体ほどがこちらに来る? 敵ですか?」

 銛を構えながら「水魔法」のアーツを発動させる準備を整える。唱えるのは防御系の補助魔法である【タイドレイメント】。アーツが発動し、しゅるしゅると水が衣のように体を覆う。水の鎧を纏うと同時に「索敵」に移る反応はネアの目の前に姿を見せた。


 『オヴィラプトル』

 モード:アクティブ

 コンディション:ノーマル

 タイプ:モンスター

 属性:地

 

 ネアの目の前に現れたのは鳥の様な嘴にとさかを持つまるで恐竜のようなモンスターだった。所々、鱗ではなく鳥の羽の様な羽毛が覆っているのが珍しいともいえなくもない。

 表示される「鑑定」結果にも変化が現れており、新たに属性についての項目が増えていた。

 「コアッ!! コアッ!! コアァァァ!!」

 「コアアァ!! コアッ!!コアアァァ!?」

 現れたオヴィラプトル達は五体。雄たけびをあげながらこちらと仲間たちを交互に見る様に頭を動かしている。獣というには甲高く、鳥というには金属的な鳴き声を上げている様はどこかしら奇妙でいて高い知能を感じさせた。

 「海産物とかとは違うって事ですか。知恵がある獣は厄介だと言いますが、何とかするしかありませんかね」

 じわりと銛の柄を持つ手に汗がにじむ。かなり高い知能を持っていそうなことを鑑みると私一人ではかなり厳しいものがあります。五体もいればなおのこと。ですが、

 「一当て位はしないとね!!」

 穂先を目の前に立つオヴィラプトルの一体に向けて構えると同時に地を蹴り迫る。オヴィラプトルの目の前で足を大地に突き刺すように踏みしめ、腰だめに構えた銛を突きださんと腕に力を蓄える。すると、

 「んなっ!?」

 オヴィラプトル達はネアが銛を構えて突撃した瞬間弾かれる様に横へと散開し、彼を囲むように広がった。

 「ちっ」

 思わず、舌打ちが漏れる。このままでは囲まれる、そう判断した私はその勢いのままに木々の間を抜け、オヴィラプトル達から背を向けて走り出した。

 地に生えた根っこや行く手を阻む蔦を振り払いながら逃げ出すと後ろからモンスター達の動揺した雰囲気が伝わってきた。が、それも一瞬。すぐに後ろから恐ろしいスピードで私を追立てんと動き出すのが分った。

 「【ブルースプラッシュ】!!」

 木々の間を抜けながら後ろに向かってアーツを放つ。アーツの効果で生み出された大きな水球が道をふさぐように漂い始める。私はそのまま後ろも見ずに走る。後ろなんて見ている暇などありません。すると大きな破裂音が響き、モンスターの苦しげな叫び声が耳に届いた。そのまま、モンスターの反応が一つ後ろに下がった。

 「水魔法」の設置型アーツ【ブルースプラッシュ】が生み出した水球に不用意に近づいたオヴィラプトルの一体がそれを起動、破裂した水球によってダメージを負ったようです。戦闘不能というには遠いものですが、遅れたその動きは精彩を欠いているように見えます。

 そのまま、いくつかの水球を退路にばら撒いていく。「無詠唱」スキルで補助されたアーツの発動は走りながらでも発動が容易だ。2、3度は破裂音が続いたがいくつかを境に音がしなくなる。奴らは水球を避ける知恵をつけたようだった。

 「頃合いでしょうか」

 適当な針路をとりつつジグザグに走り回っているのもそろそろ限界に近づいてきていた。いくつかの反応は集団よりも後ろのほうにあり、そこから【ブルースプラッシュ】によるダメージを受けていない個体は約2体と考えられた。ネアは木々の間に開けた小さな広場のような場所を見つけたついでにそこでオヴィラプトル達を迎え撃つことにした。

 「【ブルースプラッシュ】!!」

 広場に入る前に後ろに向かって水球を放っておく。これでオヴィラプトルは水球をいったん避けるために真直ぐ向かってくることは無い。振り向きざまに銛を構える。敵が来るまでの間に素早く息を整えた。

 「索敵」の反応に意識を集中させる。右から一体、左から一体。同時に襲い掛かるつもりと判断したネアは右に向かって走り出し、木々の間から爪を振りかざしながら飛び出してくるオヴィラプトルに向かって【シングルストライド】を放つ。捻りこむように体全体を使って放たれたアーツはLV40台にかかり始めた「弱点看破」や「特効ブースト」の補正も相まって並みのモンスターならば当たり所によっては一撃で葬り去るほどの威力があった。

 「くっ!?」

 その一撃をオヴィラプトルは身を捻ることで回避した。滑る様に体の表面を滑った銛の勢いそのままにネアとオヴィラプトルはもつれ合いごろごろと地面を転がりまわった。もうこうなっては長柄の武器は意味を為さない。銛を手放し、両手をオヴィラプトルの両腕をつかむ。がちがちと打ち鳴らす顎がネアをかみ砕こうと喉元めがけて伸びるもそれを首を逸らすことで避ける。ギラギラと光る爪が激しく体の皮膚を撫でるがリザードマンの防御力もあってほとんど意味を為していない。この息が触れ合うほどの近距離でネアに出来ることといえば一つだけ。ネアは大きく口を広げ掴んだ両腕を近づけてオヴィラプトルの喉元へと牙を立てた。オヴィラプトルの悲鳴が響く。まだ、もう一体のオヴィラプトルがいることが気にかかる。あまり時間を懸けられないと考えたネアはそのまま、力任せに喉首を食い千切った。オヴィラプトルは断末魔を上げるとともにびくびくと痙攣し始めた。物言わぬ骸となったモンスターを跳ね除け、立ち上がる。するとその瞬間もう一体別方向から近付いてきていたオヴィラプトルが鉤爪をきらめかせながら、飛び掛かってくるところであった。反射的に地面を転がる様に前に飛び出す。そのまま地面を転がり、投げ捨てた銛を拾いながらオヴィラプトルから距離を取る。「索敵」にある反応を見るとほかの個体はネアのいる場所を見失ってしまったようだ。うろうろとしてこちらに向かってくる様子はなかった。

 「コァアァァァァァァァ!!」

 銛を構えながら、オヴィラプトルと向かいあっているとそいつは唐突に叫び声を上げた。すると、「索敵」上に合った反応が全てここに向けて動き出したのを感じた。

 「仲間を呼んだ!?」

 まずい、と感じたネアはとっさに【ウォーターボム】をモンスター目がけて放った。とっさの勢いで放ったためか狙いがそれオヴィラプトルの足元の地面に水球が炸裂する。水球はそれ自体がエネルギーを内包した爆弾だ。地面にあたったそれは内に蓄えたエネルギーを周囲に撒き散らす。衝撃波を受けて吹き飛ばされたオヴィラプトルに向かってネアは走った。低く這うように迫ったネアは身体をばねのように使い【シングルストライド】を放つ。スキルの効果で読み取られた弱点へと吸い込まれる様に伸びる銛の一撃に対して、体勢を崩した状態のオヴィラプトルではまともに身動きもとれないままぐさりと身体を穂先に捉えられ貫かれ絶命した。

 「これで二体」

 残り此方に向かってきているモンスターは三体。数の上では不利。ただ幸いなことに「索敵」の反応を見る限りではまとまって動けて三体ともが一緒に行動できているわけではなく、こちらに向かってくる速度には差があった。

 「まとめて対処するのではなく一体ずつ仕留めていかないと」

 思考が漏れて口から零れ落ちる。こういったことはサウロさんとの訓練でも度々言われていたことです。集団を相手にするときはどうにかして一対一の状況を作り出せるように立ち回れ、と。

 効果の切れかかっていた【タイドレイメント】をかけ直し、【ブルースプラッシュ】を発動させていきます。ふわふわと宙に浮かぶ水球を漂わせながら、水の鎧を纏う。これで残りを打ち取ります。

 「さぁ、かかってこい……」

 銛を持つ手に力が篭ります。静かに緊張を孕んだ目で見据える木立の奥からけたたましい雄叫びが聞こえてきた。

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