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大きくそびえる門の前。カーライスの町とカーラ平原を隔てる城壁とその城門はウォーラーの町のものよりも大きい。モンスターの巣窟でもあるロマの森が近いことを考えるとモンスターの侵入を防ぐことのできる城壁の重要度は非常に高くなる。そういった意味ではウォーラーのほうが危険度が低いのかというとそうでもなくその危険度は間違いなく上昇していると言っても間違いはない。ただ、この怪物大移動による被害の大きさがここカーライスの町のほうが大きいというだけである。年に一度程度ほどの間隔(現実でいうならば三か月)で起こるとされているこの出来事はゲーム内のNPC達にとってはある程度ありふれた出来事の一つであり、そして、自分たちの生死がかかった事件の一つでもあった。ならば、この町から出ていけばいいのではないか、と思う人たちもいた。しかし、カーライスの立地は北にドワーフや鉱物人種の住んでいるヤノーシュの山々、東に見れば湿地を超えて、竜人やドラゴニュートの住む竜の渓谷などがあり、それらの場所へと比較的安全に行こうと考えるならばカーライスの立地は各地への交通の要所とも取れる様な場所にあるため怪物大移動の被害に目を瞑っても得られる利益のほうが大きいとされている。ただし、このことについてはゲーム内でNPCからPC達が聞いた情報であるため、多くのPC達には沢山のモンスター達が一度に襲ってくる程度のただの経験値稼ぎのイベントと考えられていた。
「やっぱり、ここも人が多いですね」
先ほどまでいた幻燈工房での雰囲気を髣髴とさせるほどの熱気が城門の前に広がるプレイヤー達の間に流れていた。
「出待ちといったところでしょうね~。みんな経験値には飢えてるから」
りっちゃんさんがそう言い切る。彼女の目には熱に浮かされる様な色があった。見ると皆の目にも似たような色が浮かんでいた。
どうにも落ち着かない気分になってしまって思わず周りをキョロキョロと見渡していると知った顔が目に留まりました。
「あ、コウショウさん?」
人混みに紛れることなくこぶしを振り上げているのは間違いなく兄の友人であるコウショウさんです。どうやら、彼もパーティーで参加する予定のようですね。
「あ、テンカちゃんじゃん。久しぶり」
なんとなくじっと視線を送っているとコウショウさんのほうもこちらに気付いたようで手を振り上げながらこちらに近づいてきました。
「あら、奇遇ね」
「学校振りね~」
近づいてきたコウショウさんに気付いたサクさんとりっちゃんさんも声をかけます。二人とも同じクラスの一員ですから、面識があるんでしょうね。
「ここにいるってことは委員長さん達もイベント参加なのか?」
「ええ、経験値目当てでね。それにしても人が多いわね。さすがに気疲れしそうよ」
「そりゃ、みんな同じことを考えてるからに決まってる。スキルレベルを上げるにはとにかく戦闘するしかないみたいだしな。効率的な方法とかも見つかってないし、仕方ないんだ」
コウショウさんも同じくうんざりとしたような表情で答えている。流石に従来のゲーム画面越しに見る人混みよりも実際に体験しているようなVRMMOでは勝手が違うようです。
「流石に多いな、まったく。でも、これでも少ない方なんだぜ。明日の最終波にはもっと増えるだろうってさ」
この怪物大移動は現実時間に換算して二日間に渡って行われるイベントだそうです。ゲーム内時間で換算すると6日間ですね。その期間中、いくつかのモンスターの侵攻があるためにその群れから町を守れ、というのが大まかな目標だそうです。ただ、この手の話に多いことですが波が過ぎるにつれてモンスターの質、量ともに上がっていくそうなので、ゲームプレイ限界時間や現実での時間などの兼ね合いを見ながら、自分の身の丈に合う時間帯を選ぶ必要があるとかなんとか。ただ、現実時間で深夜にあたる時間帯については襲撃がほとんどないそうです。深夜にゲームをして徹夜されるような事態を薦める様な事はしないと運営が対応したのですかね。
「おい、コウショウ。どこ行ったし?」
しばしイベントで出てくるであろうモンスターや参加しなかった兄さんへの愚痴を挟みながら雑談を交わしていますと、人混みの奥からコウショウさんを呼ぶ声が聞こえました。人をかき分けるようにして現れたのは、頭に一対の角を持つ竜人の方でした。
「おいこら、いきなり消えるからビビっただろ。知り合いでもいたのかって……こんにちは」
コウショウさんを探しに来たらしい、その竜人は困惑するかのようにこちらへと視線を向けた目をぱちくりと瞬かせます。
「ああ、学校の連中。知り合いの妹繋がりだよ」
そういってひらひらと手を振るコウショウさん。
「あ、そうか。いや、さっき『モリゾーのお里』さんが来たからさ。それを教えに来ただけなんだ。邪魔してたらすまんな」
「ん、いや。それならそっちに戻ることにするさ。すまんな、中途半端に来ちまって。あ、そうそうサクさん」
「ん?」
コウショウさんが立ち去ろうとするとき、思い出したかのようにサクさんへと声をかけた。見知らぬ人の前か、「委員長」と呼ばない配慮をしているのでしょう。
「あっちの門のほうで吟遊詩人やら演奏家の職業についてる面々が纏まってイベント中、支援をしようって話があるらしいから、興味があったら集まってほしいってさ」
「ふ~ん。そうなの。じゃあ、私が抜けても問題無さそうならそちらに向かわせてもらうわ。情報有り難うね」
お礼を言われたコウショウさんはどういたしまして、と返しながら人混みへと消えていきました。
「知り合いはほとんど参加するようね。なんだか、世界が狭く感じちゃうわ」
頬に指をあてながらりっちゃんさんがふふふ、と呟いた。
「人多い……狭いとか言わない」
「あら、そんな真面目なこと言って……あやめちゃんは現実に生きてるのね」
「違います。間違ってないけどそこは間違ってますよ、りっちゃんさん」
りっちゃんさんのよく分からない言動に振り回されながら、和気あいあいとしていると、
「ああ、私は少しあちらを見にいってみたいんだけどいいかな?」
サクさんが先ほどコウショウさんが言っていた吟遊詩人や演奏家たちが集まっているという場所に向けて指を指し示していました。
「ええ、多分そちらの方が全体での効果が受けられやすいと思うからいいと思うわよ」
「私もそう思いますよ」
誰も指摘するつもりはありませんけれど恐らく混戦となるこのイベントではサクさんの様な直接的に戦闘に参加しないタイプは邪魔になる可能性が高いでしょう。
それならば、安全でなおかつ本領の発揮しやすい場所にいてもらった方がいいはずです。一時的にパーティーから抜けることになるようですが、それもやむなしでしょう。
「それじゃぁ、行ってくる。みんなも無理しない様にね」
そういって背を向けて歩き出すサクさん。すぐさま、人に紛れて見えなくなってしまいました。
「それじゃ、私たちも準備しましょうか。スキルとかちゃんとセットしましょうね」
りっちゃんさんがサクさんの代わりとばかりに指示を飛ばす。相も変わらずぽわぽわとした感じがするけれど、反射的に動いてしまうのは中学時代に体に染みついたからでしょうか。
とにかく、今ここにいる4人でこの怪物大移動を切り抜けることになりました。ですが、この人数です。どれだけの数のモンスターと闘うことが出来るのでしょうか。今から少し不安ですね。
もうあかん……なんとかできた分だけ投稿していきます。すぐにすっと句が尽きると思われ




