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メリクリ?
やや熱気を湛えた空気が広場を包んでいる。鼻息荒く集まっているのはプレイヤー達だ。これから起こるであろう事態に向けて集まった彼らに中てられたのか、がやがやと騒がしく喧騒がカーライスの町を包んでいる。
「多過ぎ……」
「多いわね~」
そうですね、とややげんなりとした様子のサクさんとりっちゃんさんへ相槌を打ちます。みいこちゃんとあやめちゃんは二人で露店でアイテムを買い込んでいます。楽しそうでいいですね。私も流石にこの人混みに酔いそうです。
今、ここにはおそらくここで起こると言われているイベントに参加するつもりのプレイヤー達が集結しています。プレイヤー達はこの中央広場に収まりきらないほどいるため、町の外―外壁―にも沢山います。おかげでどこに行ってもプレイヤーだらけ。これでイベントがまともに進行するのか少し心配になるほどいます。
公式では予告としてどこかの町でいついつの時間にイベントが起こるとしか説明がありませんでした。不親切気まわり無いと私は思いましたが、放浪者協会で怪物大移動が起こると申告がありました。運営はリアリティを優先してゲーム内でNPCによる告知を詳しく行う方向性のようです。その際、ロマの森に近いカーライスのほうがスタンピードによる被害が大きかったという事なので、こちらに戻ってきたという次第です。ウォーラーでも少しはモンスターが出てくるとの旨でしたが、その規模は小さいそうなので此方のほうが経験値などの実入りが良いと考えたのです。しかし、ここまで人が多いとそこの辺りもどうなるのか判りません。ウォーラーの町に待機していたほうがよかったのですかね。
これでも全プレイヤーの一部というのがビックリです。元々このゲーム、ログインした地域ごとにサーバーというかプレイヤーの初期スポーンの地域が違うそうで、このイベントのためにプレイヤー達がそれぞれの町に集結しているのでここに見える人だかりはまだまだ序の口という事らしいです。
「これ買ってきたっすけど食べます?」
みいこちゃんが露店で買ってきた串焼きを差し出してきます。たれの焼ける香ばしい匂いが鼻を突き、ゲームの中なのに思わず、唾が出そうになります。出ませんけど。
「食べます」
ふっと何かを思う前に食べると言ってしまいました。受け取った串焼きを口に運ぶとジワリと肉汁が口に広がります。目を動かして横を見るとあやめちゃんがもきゅもきゅと串焼きを食んでいました。
「とりあえず、それを食べ終わったら幻燈工房に行きましょう。装備を揃えましょ」
サクさんがそう提案します。みんなは肯定するように頷き、私もそれに倣います。
「じゃあ、私もそれ食べます~」
「おいこら、遠くへ行くと迷子になるでしょうが。ただでさえあんたは方向音痴なんだから」
露店へとふらふら近づきかけていたりっちゃんさんの首根っこをサクさんが捕まえました。りっちゃんさんはぶうと膨れた頬を見せつけながら、私も食べた~いと愚痴ります。それを見たサクさんははぁ、とため息をつきました。
「じゃあもう少し時間を取りましょうか」
串焼きを食べ終わり次第、喧しい広場を後にして幻燈工房の仮拠点であるレンガ造りの建物へと向かいました。扉を開けると前にここへ来た時と変わらず、とんてんかんてんと何かを打つ音や怒声が響きます。
「はぁい、お客さんです? 今すぐ出ますね」
そんな声が響き、白い布の仕切りの向こうから作業着に身を包んだ女性が現れた。幻燈工房の一員であるかしゅーさんです。彼女はここで様々な物品の生産をする傍らでお客さんとの交渉や、生産職のプレイヤー達の管理などもこなすハイスペックレディとも呼べる方なのです。
「こんにちは、かしゅー先輩。相変わらずここは暑いですね」
サクさんが軽く会釈をしながら挨拶をする。そう、この方は私たちの学校の先輩でもあるのです。とは言っても先輩の二つ上であり、私とは面識がほとんどありませんけど。
「あはは、いつものことだからね。私も慣れちゃった。それどころか「耐熱」スキルまで生えちゃったよ」
そう言ってけらけらと笑うかしゅーさん。見た目は大人な女性という風なのにそういって笑う姿は子供のようにも見えます。
「それで? 用件は? 今売れるのは大量生産した既製品みたいなやつだからね。こういう素材でこんな装備を作ってくれと言われても手が足りないから断るけどそれでもいいかな」
「あら、やっぱりですか? このタイミングだと絶対忙しいって思ってたんですけどその通りだったみたいですね」
「そうなのよ。アップデートした後ぐらいからかな。そのあたりからプレイヤーの数も増えてイベントもあるからって注文が多くてさ。スキルのレベルアップが捗るから嬉しいんだけど、その分個人の依頼が受けにくくってね。ほら、うちはそんなにメンバーいないじゃない? あまり、知名度が無いギルドだけどさ。それでも人手が足りなくなるのよ。素材が足りない、時間が足りない、そもそも人が足りないってね。「再現加工」もMPの消費が大きいし、結局手間なのよね」
外からは分らないある種の鉄火場の様な内情を一息に捲し立てたかしゅーさんはひとしきりしゃべり終えたといった風に息を吐きました。どうも、ここ最近の忙しさに疲れがたまっていたようです。
「それは……大変でしたね」
「そうよ、そうなのよ!! だからさ、今度あそこのケーキショップに食べに行きましょうよ」
そういってサクさんに泣きつく。サクさんがいいですよ、というとパッと目を輝かせていた。
「ふむふむ。とりあえずここにいるみんなが装備できるものを見繕ってくればいいかな」
そういってかしゅーさんが取り出したのは様々な素材で作られた装備達。その一つ一つが大量生産品とは思えない品質ではないかと思います。
「「鑑定」は持ってる、よね? 持ってないなら後でスペック表見せるけど、これが今のうちで作れる限界かな。これ以上の品質を目指すと今ある素材じゃ生産性がガタ落ちするんだよね。とりあえず、武器はこっち。そんでもって防具とかはこっちかな。あ、あと、アクセサリーとかは素材の問題で供給できませんのであしからず。ごめんね」
武器、防具と一纏めに置かれた装備品の山を指さしつつかしゅーさんが解説する。その種類はほとんどの職種を網羅しているのではないかと思える位に多いです。
「うちはこれっすかね。さすがに盾も使えないといけないっすよね」
そういってみいこちゃんが手に取ったのはシュッとしたフォルムの一振りの剣と小さな盾でした。軽装戦士系の戦い方をするみいこちゃんにぴったりの装備です。
「ん」
と、あやめちゃんも装備を取りました。元々、使っていた小太刀と小さな投げナイフをいくつか。
「そういや、あやめはさ。「バイオニックアーマー」は使わないのな」
ふとそんなことをみいこちゃんが言いました。「バイオニックアーマー」は機人のスキルの一つで身体を変化させて、武器とするスキルです。防具とかもあってなかなかに便利だそうですけどあやめちゃんが使ったことはほとんどありませんね。今も買った小太刀を主に使っていますし。
「【ソード】が使いにくい。腕が武器に変わる感覚が慣れない。間合い、短い。MP消費も大きいし」
【ソード】は肘の先から手先までが長剣に変わるアーツですね。偶に小太刀を投げつけた後に使っているのを見ます。
「そんなこと言ってもさぁ、レベルあげたらもっといいの出るかもしれないんだからもっとやってみたら」
「んむぅ」
そんなことを言いながら二人は雑談を始めました。装備もある程度目星をつけているみたいですから、私も選び始めましょう。
(むむむ、そもそもの選択肢が無いです。)
困りました。防具はそれなりに種類があるのですが、武器の種類がありません。そもそも、私の使用武器は指揮棒ですから木材の違い位しか出ないのでしょうけど。
とりあえず、置いてある指揮棒を適当に掴みます。私は初めのスキル選択で「鑑定」にスキル枠を割く余裕が無かったので実際に装備してみるまで武器、防具の効果は分りません。不便なように見えますが、能力が知りたいなら装備すればいいだけですし、買うときにはスペック表を見せてもらえばいいので対して不便を感じていません。別に「鑑定」は私が持っていなければならないスキルでもないのでスキルスクロールを買う機会を逃しています。
指揮棒を選ぶついでに私の人形に持たせる武器も選びます。人形にも装備をさせることが出来ます。装備できるのは武器だけだったり、防具もできたりとそれぞれ違います。私の持っている人形は元が鎧ですので武器だけでいいのです。
「ええと。人形には壁役をやってもらいたいので……。盾は必須ですかね」
そして、私は大きな鉄の盾と長剣を一振り選びました。見たところこれよりも大きなものは誰が使うのか逆に聞きたくなる位大きなものでした。私より大きな盾とか誰が使うのでしょう?
「これとこれにします」
自分が選んだ装備を見せつつ、そうかしゅーさんに伝えます。
「そう? 選んだのは……カルプウッドの指揮棒と大剣に大盾?」
「ええ、大剣と大盾は人形に装備させます。速度が最低レベルまで落ち込むでしょが、そこについては目を瞑ります」
「壁にするならそれでもいいかもね。今回のイベントは敵が向こうから来るだろうから機動力もいらないだろうし、それでもいいと思うわよ」
そうして、呼び出した鉄鎧に大剣と大盾を装備させます。すると、
鉄鎧(人形)
能力値
STR:C
VIT:C
TEC:E
MIN:D
AGI:D
DEX:D
耐久値:750
重さ:5
レア度:3
品質:4
装備
1:鉄の大剣(武器:剣)
ATK+27
耐久値:750
重さ:3
レア度:3
品質:5
2:鉄の大盾(武器:盾)
DEF+29
MDF+5
耐久値:750
重さ:4
レア度:3
品質:5
自分の使用している人形の能力はメニュー画面から見ることが出来ます。人形にもプレイヤーと同じく、能力値設定がされているのです。装備品についてもここで能力値が表示されるのですが、装備しているアイテムのレア度によっては情報がすべて開示されないこともあるそうです。実際プレイし始めた当初はそうでした。
私が選んだ武器、カルプウッドの指揮棒の能力値修正はこのようになります。
カルプウッドの指揮棒(武器:指揮棒)
ATK+7
MDF+20
耐久値:500
重さ:1
レア度:3
品質:5
およそ魔法職向けの武装といったところでしょうか。ほとんど物理攻撃の能力は無いに等しいですが、そこそこの魔法攻撃に補正が効きます。ただ、単純に魔法の攻撃力を上げたいなら杖とかを選んだほうが良いのですが、人形を指揮するうえでは指揮棒を用いたほうが良いそうなのでこちらを引き続き使用していくことにします。ほかにもブレードライノスの皮をなめした革鎧などを選びました。防御能力もそうですが、魔法を使う上では装備するアイテムにも気を使わないとアーツの威力減少などが起こりますので、鉄などを使った防具などを装備することが出来ないのです。いっそのこと、重さを捨てようという考えです。サクさんやりっちゃんさんは後衛職ですから言わずもがな、みいこちゃんやあやめちゃんも比較的軽装になるような防具を選んでいます。それでもブレードライノスや糸吐き芋虫の素材を使った装備品を着ていますのでそれなりの防御能力がありますけれど。
「みんな選んだ? なら、精算するから。あと素材を卸してくれるならその分値引くからね」
そういって、かしゅーさんはてきぱきとお金の勘定を始めました。みんなきっちりと所持金から代金を払うかモンスターの素材を引き渡しました。このために、放浪者協会で解体してもらった後換金していない素材もあります。
「それじゃ、毎度あり!! また来てね!!」
装備を買いかえた私達はかしゅーさんの声を背に受けながら、幻燈工房を後にします。次に目指すのはカーライスの町の外、スタンピードを迎え撃つであろう城門前に移動することにしました。
すみません。私用が立て込んでいてまったく執筆が出来ていません。
とりあえず忘れられない様に、現在書き上げることができたこの話だけ投稿します。
次話はいつになるか。少しわからないです。
なるべく早くお届けできるように頑張りますのでどうかよろしくお願いします。




