表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/39

6

 白い建物の建つ砂浜。そこには胸の前に突き出したまま、目を瞑っている蜥蜴人種と金の髪をたなびかせているエルフ種が静かに立っていた。

 さんさんと降り注ぐ太陽の光がじりじりと肌を焼きます。ちろりと垂れる汗がうっとおしいと気にする暇もないほどに意識の集中を高めていきます。脳裏に浮かばせたキャンバスに詠唱文言と複雑怪奇な幾何学模様を描いていきます。このときのコツは一度脳内で描いた後にもう一度全体像を俯瞰視点で見える様に意識することでしょうか。パレットに描き終わると同時に体からなにかがふっと抜ける感覚とともに手の平からアーツ【ウォーターボム】の証であるバスケットボールほどの水球が飛び出し、砂場に直撃する。鼓膜を圧迫するような破裂音とともに砂がはじけ飛ぶ。

 視界にメッセージ欄が浮かんだ。


 『これまでの経験により経験スキルとして「無詠唱」が取得可能となりました。取得する場合にはマインドスクロールが必要となります』 


 研究所での静かな時間。ネアは一仕事終えた様子で椅子に座ってくつろいでいた。紅茶がなみなみと入ったカップを時折口に運びながら片手でメニュー画面を操作する。「無詠唱」のスキルが取得可能となった後、セントーレアさんが持っていたマインドスクロールで「無詠唱」を取得した後、研究所へと真直ぐ戻ったのだ。さすがにこの達成感のあとに狩りをする気にはなれず、セントーレアさんが自分の部屋に篭るのを見届けた後、のんべんだらりとしようと思ったのだ。フリージアちゃんがお昼寝の真っ最中であり騒がしくしたくなかったのも理由の一つであった。

 ぼーっと何かが抜けきったような表情でメニュー画面をいじる。特に何をするでもなく指で画面をスクロールさせたりともてあそんでいる。今、いつもの狩りのため、出かけているサウロさんが今日は何を取ってくるのかな、と時折思いをはせてみたりと時間をつぶしている。

 ふと、メニュー画面の隅っこのほうにログと書かれたコマンドに目が留まった。

 「……?」

 見覚えのないコマンドの存在に首をひねる。そういえばこんなコマンドもありましたっけ。だいぶ前にメニュー画面をのぞいているとログというコマンドや、ヘルプというコマンドがあったのを思い出した。その時はまぁいいか、と軽く流したのだ。ネアは暇ですし何か面白いことでも、とコマンドを指で押した。

 コマンドを選択した瞬間に大量の文字が半透明の画面を埋め尽くす。……どうやら、スキルのレベルアップや取得したアーツ、称号の取得インフォメーションや運営からのお知らせなどがいっしょくたに表示されるようになっているようだ。おかげで物凄いことになっている。ソートを選んで表示されているお知らせ一覧を並び替える。

 並び替えられて見やすくなったログを見ていくと見覚えのある単語が見えた。

 「道なき道の求道者」

 いつの間にかステータス画面に表示されるようになっていた私の持っている唯一の称号です。

 ログにはあの、ケツァルコアトルスに海へ落された後、セントーレアさんに拾ってもらった頃あたりの日付が表示されていました。

 「道なき道の求道者っていつの間に取ったんだろうって思ってましたけどこのときだったんですね」

 称号が取得で来たってことは何らかのイベントなのでしょうが、あれがイベントだったとはあまり考えたくない物ですね。イベントがイベントと気付かないうちに発生して終了していくのは現実に即したVRMMOならではの特徴ですね。おかげで大変な目にあった気がします。あんなものと闘うのかと絶望しかけた私の気持ちを返してほしいです。

 ちょっと複雑な気分になりながらログを見ていく。見慣れた内容や心当たりのあるような内容のメッセージしかなく物珍しい事は特に見当たらなかった。

 「何見ているの? 何か珍しいものでもあるの?」

 いつの間にか横にセントーレアさんが立って、こちらを見下ろしながら微笑んでいた。そのまま、回り込むように距離を取り、フリージアちゃんの傍に座り込む。

 「「無詠唱」のスキルが手に入ったのよね。おめでとう、ともう一度言わせてもらうわ」

 「有り難う御座います」

 さわさわと眠りこけている少女の髪を梳気ながら囁くように呟く。少しだけ誇らしい気持ちが胸に湧き起こった。しかし、

 「これなら【ウォーターボム】以外の呪文も無詠唱にできるわね」

 セントーレアさんが放った言葉によって私の膨れた気持ちが萎んでいった。

 ・・・・・又ですか。ああ、腕が、腕が……。



 一時のトラウマによって茫然自失となりかけた私を現世に戻したのもまたセントーレアさんだった。彼女は呆れたような声音で

 「流石に悪いとは思っているけど、ああしないと「無詠唱」が出来ないのも事実なのよ。魔法と近接戦闘を組み合わせるんだったら「無詠唱」で打てる魔法が多いに越したことはないし。それにもう「無詠唱」のスキルが手に入っているんだったら、次の呪文は比較的簡単に習得できるようになるわ。一回目よりも楽よ」

 「そもそも、「無詠唱」のスキルがあるのに無詠唱で放てる魔法が一つしかないのには納得が出来なせんけど……」

 「当り前よ。「無詠唱」のスキルは無詠唱発動を習得、発動する助けになるだけのスキルよ。スキルを手に入れたからって何でもかんでもできるようにはならないのよ」

 愚痴る私にやさしく諭すように語りかけるセントーレアさん。ただ、これまでのことを含めて感謝はしていますけどこうなったのも彼女のせいなんですよね。悪いことではなかったのですがアレをすると、ね。

 「まぁ、下から階梯を上げて覚えていく必要はないわ。良く使いそうなものを憶えて「無詠唱」で使っていけばスキルのレベルが上がっていくから、習得難易度も次第に下がっていくはずよ。とにかく今は、スキルのレベルを上げること。経験を積めば魂の階梯も自然と上がっていくから一石二鳥でお得よ?」

 「はぁ……」

 憂鬱な気分は少し流れたような気がします。するだけですけど。

 「そう言えば、魂の階梯ってセントーレアさんはよく言いますけどそれって何のことなんですか?」

 セントーレアさんはよくモンスターや私たちを図るときに魂の階梯という言葉を使う。これ以上、あの作業について思い出したくない私は少しでも気分を晴らすべく話題を逸らす。

 「あら、言ってなかったっけ? 魂の階梯って言えばつまり、上位種族への進化の度合いを示すものよ」

 露骨な話題転換を気に留めることもなくあっけらかんと答えるセントーレアさん。あらら、意外と重要なことだったようです。上位種族の存在自体はたびたび触れられていましたけど、条件は分らなかったのですよね。このゲームレベルアップとか能力値表示とかはありませんし。ステータス画面に表示されているのもアクティブ状態のスキル一覧と状態異常などの表示だけですし。上位種族への進化条件なんてネットでもガセネタばかりで確かなことは流れていないんですよね。ここで少しでもヒントが欲しいところです。

 「魂の階梯っていうのはその生物の格を示しているわ。階梯が高いほど存在強度が高い生物になるの。私はハイエルフだからエルフ種の第九階梯になっているわ。あなたならまだ第一階梯といった風にね」

 そう言ってフリージアちゃんの髪を優しく梳く。話しながらも慈愛のこもった瞳で少女を見つめている。

 「階梯を上げる方法は一つではないわ。簡単よ。魂を磨けばいいの。そう、たっぷりの経験でね。別に難しいことじゃないわ。常に挑戦すること。自らを高めようと行動することが大事よ」

 頑張ってね、とフリージアちゃんをむにむにと突つきながら微笑む。どうやら、詳しく教えてくれるわけではないらしい。これでも大ヒントなのでしょうが。

 とにかく、何かしらの行動をしていれば道が開けると? レベル性のゲームじゃないとどうも勝手が掴みにくくていけませんね。

 「ま、そういう事だからもっといろいろと苦労しなさいってこと」

 そう言ってセントーレアさんはどこから取り出したのか大量の紙をどんと私の目の前に置いた。

 「そうそう、これも追加ね」

 顔がひきつる私の前に一枚の羊皮紙が置かれる。「錬金」のスクロールのようです。

 「……私生産系ではないのですが」

 「当分パーティーを組める相手もいないんでしょう。何か一つぐらい生産スキルが要るわ。それ取っちゃいなさい。「錬金」スキルは材料集めにもピッタリのスキルだから」

 にっこりと笑う。それは私に雑用をしろという事なのでしょうか。どうにも問いかける気に慣れず苦笑するのみに留める。

 「まぁ、海底には珍しい金属が眠っていることも多いし、山を掘りに行くよりもずっと効率がいいわよ」

 「はぁ」

 どうも誤魔化された気がする。若干納得していないような私の顔色を見てセントーレアさんは苦笑した。

 「それにスキルをたくさん取っているといい事もあるわ。レベルを上げるのが面倒かもしれないけど」

 セントーレアさんの物言いに少し引っかかるような気がしたものの、何を言っても無駄だと判断してスクロールを手に取る。

 このスキルスクロースはセントーレアさんが直々に作ったものだそうで、まだまだ数はあるのだと。「記録員」のスキルを利用すればそれほど難しいものではないみたいです。

 スキルスクロールを手に取った瞬間。茶色がかった紙が光り輝き、ネアの体に吸い込まれていく。輝く粒子が立ち消えていき、光が収まっていく。

 

 『「錬金」スキルを取得しました』

 

 そんなアナウンスとともにステータスプレートが表示される。

 「取りましたよ「錬金」」

 視線を上げると彼女は満足そうにうなずく。

 「うんうん。じゃあ、これからちょっと深海まで潜ってきてもらってこの瓶にお水を汲んできてほしいな」

 ハートマークが尽きそうなほど甘ったるい声を出しながらセントーレアさんがお願いをしてくる。

 「……はい」

 一瞬だけ嫌そうな表情が浮かびそうになるのを気合と根性で押さえつけ、椅子から立ち上がる。書き取りの苦行をしなくてもいいのは嬉しいけれどこれはあんまり嬉しくない気がします。なんでしょう。やっぱり雑用をさせられているだけでは? 頭によぎった考えを振り払いつつ研究所を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ