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アトライア;VRMMOにおける水棲生物の生態観察記  作者: 桔梗谷 
第一の節 トカゲ落ちる
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 木漏れ日が差し込む森の奥へと進むとそこそこの幅の川にぶつかる。その川は山、カーライスの北に位置しているボレロ山脈を主流としてそこから流れ込んでいることがベスタ教官からの話で分かっている。地図もその時に見せてもらったから確かなはずである。この川はロマの森を西にうねうねと曲がりながら、海まで繋がっているのだ。このさわさわと流れている川はいずれ大海原へとつながっていると考えると興奮してくるが、その気持ちを抑えて冷静を保つ。荷物はインベントリにすべて放り込んであるために手は空いている。銛は岩に当たると取り落としてしまう可能性があるため持っていない。

 ざっざっと砂利を踏みしめながら、川原を歩く。周囲を見渡しても何もなく川の流れる音だけが耳に届く。「索敵」にもひっかかる反応は無い。時折、聞こえてくる鳥の鳴き声が川の音と混じりあい心地よい響きを鳴らす。30分ほど川の流れに沿って歩いていると砂利の道が途切れはじめぬかるんだ土が混じり始める。

 散歩もここいらのところで御終いかな。

 そう結論付け、私はゆっくりと川の中へと入っていく。ともすれば足を取られそうになる流れを感じながら、腰を落としゆっくりと水に体を沈めていく。ひんやりとした感覚は田舎でよく遊んだ川で感じたものと似ていた。

 そのまま、石を蹴る様に体を浮かし、そのまま流れに身を任せる。私はぎこちないながらにも尻尾をくゆらせ流れに沿うように泳いでいく。

 本当のところもう少し「水泳」のスキルを上げておきたかったですね。今、尻尾がある程度こちらの意思をくみ取りながら勝手に動いているのは間違いなく「水泳」スキルのおかげでしょう。おかげで水の中での動きが軽くなったと思ったらそれだけではなく尻尾もその動きを補助してくれていました。今まで、お飾りのように後ろ手に付いていただけでは無いことが証明されましたね。

 獣人なら感情を示すのに尻尾を使いますし、長さもそれほどありませんから、邪魔になることはないのでしょうけど私のようなリザードマンやドラゴニュートはそれなりに長い尻尾を持っています。私としてはプラプラついている何か、という認識でほっといていましたが、こういった活用法もあるのかと少し感心してしまいました。自分のアバターなのにその認識でいいのかと少し疑問を挟みたくなりますが……。

 水の中は澄み切った透明で光が差し込んでキラキラとしている。ちょろちょろと魚が目の前を泳ぎ、ひれで鼻をくすぐっていく。私は水の流れに沿ったり、逸らしたり、時には逆らったりを繰り返しながら魚を捕まえていく。

 まだ、自由自在に泳げるというわけではないですが、それなりには泳げます。手掴みではなく顎で食らいつけば逃げられることもありません。時々、真っ二つになった魚の体が流されてしまうのはご愛嬌といったとこです。魚はモンスターとは違って「索敵」には引っかかりませんし、小さくすばしこいので仕留めるのが少し大変ですが追いかけっこみたいで少し楽しいです。水も冷たくて気持ちいいですし、この森がもう少し安全だったらピクニック感覚で来るのもいいと思いますね。

 「少し休憩しましょう」

 一時間ほど川に浸かっていると流石に精神的にも肉体的にも疲れてきました。川から上がり地面の上に座ります。ふと、HPバーを見やると半分ぐらいに減っていました。あらら、何故とも思いますが体が何か打ち付けたかのようにじんじんと痛みますね。どうやら、川に転がっている石や岩にぶつかったせいですかね。魚を捕まえるときとかにも結構な速さでぶつかっていた記憶がありますからその時にでもぶつけたのでしょう。ある程度の速さが伴った衝撃はダメージ換算になるようです。さすが、物理エンジン荒ぶるVRMMO。昔のゲームなんか50m上空から落ちても無傷が殆どだったんですけどね……。このゲームだとその高さから落ちた場合は瀕死級のダメージを受けるそうです。まぁ、防御力が高ければダメージ軽減されるようですから遣り込んだ廃人の人たちなら無傷で着地とかもできるのでしょうね。リアルだなぁ、と言えばいいのかどうなのか言葉に苦しみますがそういうものなのだと理解しておきましょう。文句を言っても時間だけが消費されるばかりで生産的な活動ではないのです。

 ポーションをインベントリから出してそれを呷ります。このポーションも短時間で飲みすぎると「ポーション酔い」の状態異常にかかるそうですよ。おかげでポーションがぶ飲みゾンビアタックが出来なくなったとコウショウの奴がぼやいていましたね。戦いは数だよ!! といったものですが、あまり力技でクリアされたくないのでしょうね運営の方々は。

 これまで川下りも順調に来ています。モンスターとの戦闘をほとんど回避しているのが理由でしょうね。恐らく、森の中を歩くよりも数倍速いスピードで進めています。このままの速度でいければ日曜日には塩っからい風が吹くでしょう。まぁ、このまま無事に進むことが出来たらの話ですが……。

 「休憩終わり」

 そう呟き、再び水の流れに身を沈める。「水泳」スキルと「潜水」スキルが発動し、水面から顔を覗かせている大岩の間を縫うように泳いでいく。鳥の声と木の葉のざわめきが響く中、彼は一刻も早く目的地へ着かんと行動する。



 「クエェェェェ!!」

 耳をつんざくような雄叫びとともに嘴から火の玉が吐き出される。私に向かって一直線に飛んでくるそれを身を捻ることでかわす。

 私に炎を吐き出したそれ。ヒクイドリは羽を広げて私たちを威嚇する。

 「吃驚したじゃないっすか!!」

 みいこは手に持った剣を肩の高さに持ちながら、ヒクイドリに向かって走り出す。あやめも短刀を持って追随するように駆けだす。

 ヒクイドリは二、三発と火の玉を吐き出すも二人はそれをあっさり回避。そのまま左右から同時に切りかかり、胸と首に得物を突き刺してそれの息の根を止めた。

 「これ、ヒクイドリよぉ。ちょっと珍しいモンスターなの。羽根が確か良いお値段になるのよね」

 「そうなの? しかし、いきなり襲ってきて吃驚したけど炎を吐くとは面倒ね。不意打ちを食らってしまったけど、いい臨時収入になったと割り切りましょう」

 不意打ち気味に襲いかかってきたヒクイドリの死体を眺めているサクとりっちゃん。

 「大丈夫っすか?」

 先ほど炎を吐かれたテンカの身を案じて二人が近寄ってくるが、大丈夫よとそれに返す。いきなり襲われた。それに少し怖い、と思った。ゲームなのに。腕がひりひりと焼け付くように感じるがそこにはくすみもなく白く透けるように綺麗な肌しかない。

 テンカはちらと腕を見たが、そこに何もなかったためほっと内心ため息をついた。

 (少しだけ少しだけ怖かったです)

 テンカは妖精族だ。その高い魔法抵抗は有名である。たとえ先ほどの火球が直撃したとしてもさほど危機を感じるものでは無かったであろうが、それでも怖かったのは事実だ。

 大丈夫、大丈夫よ。

 そう言い聞かせていると気分が落ち着いた。不安そうな顔をしていた二人は一見大丈夫そうなテンカを見ると不安そうな顔から一転笑顔を浮かべた。

 「にしても、ここまで来ると出てくるモンスターたちも変わるのね」

 サクが腕を組みながら呟く。

 今、彼女たちはネアに言った通り、チュートリアルボスと言われているモンスター「オルドウルフ・コマンダー」へと挑戦するべく、ロマの森の街道を歩いていた。彼女たちがモンスター「ヒクイドリ」の奇襲を受けたのはその街道から森の中へと少しはいたところだった。ボスまでの距離は歩いた場合大体一日と少しを見れば問題が無かったため、ただ一直線にボスのいるエリアまで行くのも味気ないと皆が考えたため、ちょっと寄り道になるがレベル上げもかねてとモンスター巣食う森へと足を踏み入れた直後の出来事だった。

 「……不覚。まさか、木の上にいるなんて。視界にも入らなかったわ」

 「本当っすよ……」

 「索敵」持ちのあやめとみいこがいるにも関わらず奇襲を許したのはヒクイドリに隠蔽系のスキルがあったのとそれが木の上に止まっていたためだ。木の葉がヒクイドリの姿を覆い隠していて視界に入らなかったし、それなりに距離があったのも問題であった。「索敵」のスキルは距離が離れるとその精度が低下する。少し直線が開けた場所があると感じた瞬間、奥のほうから飛来してきた火の玉に奇襲されてしまったのだ。

 木の上にいると言われているモンスターで今のところ確認されているモンスターでメジャーなのはオオヨロイグモである。このモンスターはやたら硬いことで有名でそれが居る木に近づくと頭上から襲い掛かってくるというルーチンを持ったモンスターだったために近づかなければ問題はないモンスターだった。彼女たちもオオヨロイグモを相手にするのは面倒だと判断したために近づく気はなかったのだが、それが視認できそうな距離に近づいた瞬間にオオヨロイグモが居るはずの方向から火の玉が飛んできた、というわけだ。

 さほど耐久値の高いモンスターでもなかったのが救いだろう。遠距離攻撃持ちで硬かったらうっとしいことこの上ない。

 「もしかしたら、もっと強いモンスターが森の奥にいるのかもね」

 サクが自分の腰ほどの大きさの死体を掴み、インベントリに放り込む。

 「ボスよりもっすか? ここ一応序盤の森って話なんですけど……外に出てくるとかないっすよね?」

 みいこがげんなりとした表情でぼやく。それを聞いた面々も嫌そうな顔をした。兄から聞いたジグモのこともあるので正直なところあまり笑えるような話ではなかった。

 「まぁ、もっと強くなったころにもう一度来ればいいって事じゃないの?」

 皆が重い空気を出す中、一人だけのほほんとしていたりっちゃんの言葉に少し明るくなる面々。

 「もう少しだけ寄り道してから休憩しましょう。まだまだ、先は長いし少しでもレベルを上げておきましょう。強そうなモンスターが出たって経験値にしてやればいいのよ。囲んで叩けば何とかなるわ」

 サクさんが不敵に笑います。その様相にカッコいいなと思いますが、それと同時に豪快だなとも感じます。昔からそうでしたがサクさんは時々豪快な判断を為される場合が多々あります。男らしいというかなんというか。そこを買われて部長をやっていただいていたのですが。こういった場面ですとその豪快さも頼もしく見えて仕方がありません。私もかくありたいと常々思う理想の方の一人です。

 「そうね。キリが良いところで休憩しましょう」

 どうやら後一、二匹ほど何かを狩るまで寄り道をするようなので、もう少し狩りを続けることになりました。どこか楽しくなって皆で顔を見合わせながら笑いあいます。あまり大きな声を立てるとモンスターたちに気付かれますから、静かな声でひそひそと。それでも抑えきれない声が穏やかな森を揺らします。まだまだ、楽しい時間は続くのです。

 

 

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