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消えてしまった原稿を書きなおしました。細部等異なっている場合がありますがどうかお目こぼし願います。
その日、セカンドオピニオンにログインするとネアはカーライスの中央大広場に立っていた。最後にログアウトしたときは日が暮れかけていたこともあってか、閑散とした雰囲気が漂っていた広場だが今は日も高い中でがやがやと人がごった返している。
人混みをかき分けながら、大通りを東へ抜けていくと徐々に人波が変わっていく。中心部に近いところでは新品の革鎧を来ているプレイヤー達が歩いている風景から呼び子が声を掛け合う武器屋やアクセサリーショップが立ち並ぶ通りに変わっていった。
カーライスの東側の通りはいわゆる職人街にカテゴリーされる地区である。
βテスト開始当初から生産職を目指すプレイヤー達が此処へと赴き武具の生産などを行ってきた場所の一つであり、まだ現在の状態ではプレイヤーが建物を購入したり、ギルドを登録させることが出来ない為にここで店舗を持っている人々は貸店舗として建物を借りているものが殆どである。ここと同じような機能を持った通りは第二第三の町にも存在している。この通りはセカンドオピニオンを始めた初心者から上級者までもが利用するほどの賑わいをβ時代に見せたほどの職人街でもあった。
石畳の道の上を走るたびにこつこつと足音が響く。左右に立ち並ぶ建物はレンガ造りの建物が殆どであり、いくつかの店は武具を所狭しと置いた店内を見せびらかすように開けた造りになっている。
ネアはちらちらと左右を見ながら通りを歩いていく。偶に視線の先に展開させた画像データを見やりながら目的の建物を探していた。
やがて一つの建物の前で足を止めた。
赤いレンガ造りの二階建ての建物である。窓には白いカーテンが引かれており、中の様子がうかがえない様になっている。立てかけられた看板にはランプと蝶のイラストが描かれ、「幻燈工房」の文字が描かれていた。
「ここですね……」
サクさん達から頂いていた目的地までの地図データを仕舞い込みながらネアはそう一人ごちる。先日の騒ぎのお詫びに生産職の方々の仮拠点である建物を教えて頂いたのは良いのですが、中の様子がまるきりわからないこともあってか何だか入りにくい雰囲気を醸し出しています。
思わず気おくれしてしまうそうになる気持ちを押さえつけて、扉を開いた。
ちりんちりんと可愛らしい音が響く。一歩扉を開けて足を踏み出せばそこは鉄火場であった。
白い布で仕切られ奥が見えないようにされているものの鉄を打つ音や金属音が耳に届く。炉に起こされた火がもたらす熱が肌をちりちりと焼く。
白い仕切りの前にはぽつりと机が一つと椅子が二つだけ置かれているだけであった。
「はいはいはいは~い。お客さんだよね~。ちょっと待っててね今そっちいくから」
誰も居ない空間でネアが一人所在なさげにしていると仕切りの向こう側から良く通る女性の声が届いた。布をかき分けるように現れたのは作業着を着た長身の女性であった。
見たところ人族? のようですね。特に尖った特徴を持たず、器用貧乏になりやすい種族なのであまり好まれない傾向があるのですが、こういった生産職ですといろいろなことが出来て便利なのでしょうかね。
「ええと、サクさん達からここを紹介されまして来ましたネアといいます」
「ネア君? ああ、サクらが言っていた子はキミか。私、かしゅーっていうの。よろしくね。いや~それにしても今日はなんかお客さんが全然来なくてね。ほんと暇だったんだよ。来てくれてありがとうね。ここのギルド、β時代からあったんだけど大々的に宣伝してるとかそういったことをリーダーの方針でしないせいでマイナーみたいでさ、お客さんが全く来ないときもあるんだよね。特にみんなサービス開始直後で装備揃えるより素材集めたり資金集めしたりする人が多いこと多いこと。そのおかげもあってかうちは閑古鳥が鳴きっぱなしなのよ。そのうち人が来るようにはしたいんだけどね」
一気にまくしたてるかしゅーさん。どうもかなり暇していたらしい。かなり口が饒舌に動いてマシンガンのように言葉があふれ出てきている。流れ出る言葉の応酬に思わず流されそうになってしまう。
「ここで装備を作ってもらえると聞いたんですけど……」
思わず、小声になってしまった。かしゅーさんの勢いに押されてしまいました。
「ええ、そうよ。ここでは装備に武器、アクセサリーの様な小物に付加までやるわよ。マイナーな職人ギルドとは言ってもここにいる人たちは「裁縫」に「付加」や「刻印」スキル持ちの人たちもいるし、およそ生産職と呼べそうなスキルの大半は網羅してると言ってもいいわ」
そういってかしゅーさんは一息言葉を切る。
「「なんでもできる。なんでもわたせる」それがうちのモットーでもあるのよ」
「そう、「最高のものをすべての者に」それがうちのモットーだ」
かしゅーさんの声にかぶせられるように野太い声が響いた。みぞおちに叩き付けられるように響く低音の声は男性のものです。
びっくりとして声のした仕切りの向こう側に視線を向けると仕切りを手で払いのけながら筋骨隆々の男性が姿を現した。
「あ、親方。お客さんですよ。本日第一号のお客さんですよ。さぁ、ネア君。この人がうちのリーダー、みんな親方って呼んでるのよ。この人にお願いすれば大抵の装備は作ってくれますから」
「ん」
かしゅーさんの紹介に親方と呼ばれた男性が頷く。
筋肉が詰まっているとわかる太い腕を組んでいる姿は下手な戦闘職よりも風格がある。
「さ、ネア君は何の装備が欲しいのかな?」
そういってかしゅーさんはにこりと微笑む。
「「銛打ち」を持っているので銛を一つ、と布系装備で水中でも使えそうなものを一つ頂けませんか?」
「ふむ。銛とは珍しい武器を使うねぇ。水中でも使える物ってことは漁師プレイでもやるの?」
かしゅーさんが腕を組んで考え込む。
「まぁ、そんなところです」
まさか自分が何をしようとしているのか全部話す気にもなれなかったので適当にお茶を濁す感じに返答しておく。
「銛には返しをつけよう。素材は鉄製。防具ならカエルの皮を使った装備が良いだろう」
重苦しい声を響かせて親方が提案します。鉄はセカンドオピニオンではそれなりにありふれた物質です。現実でもありふれているこの鉄は北にある山脈のほうに鉱脈があるとかなんとか。「採掘」スキルがないと鉄鉱石のドロップ率が悲惨なことになるとコウショウが資金稼ぎとして鉄鉱石掘りをしようかと話しているのを聞きました。銛に返しがつくということは本格的な銛が手に入るという事でしょうか。確かに殺傷力は高くなっていそうです。それにしても、
「カエルですか?」
「そうカエルだ」
親方は聞き返した私の言葉にそのままおうむ返しをしてきた。カエル? モンスターでしょうか? 私はまだ西の方にしか行ったことがありませんのでそれ以外の方角の場所に出現するモンスターでしょうかね。そのカエルの素材がいるという事でしょうかね・。
「親方が言っているのは東の湿地にいる貫きガエルのことね。名前通り貫通系の攻撃をしてくるカエルよ。こいつ自体はそんなに強くないんだけど、場所が場所でね。人気が無いこともあってか素材を今切らしてるところなのよね」
「素材が無い。それは……どうにかならないのでしょうか」
困ったわね~といった風に顎に手をやるかしゅーさん。それは困ります。ソロで行動するならば今装備している初期装備では厳しいものがありますから出来るかぎりいい装備を着けないことにはいずれ破綻するでしょう。できればこの一週間のうちに上げられるだけスキルレベルを上げておきたい私としてはどうにかしたいところです。
「そうよ。ネア君が素材を持ってきてくれたらいいのよね」
そうだ、といった風に言い放つかしゅーさん。
「ねぇネア君。もし、貫きガエルの素材を持ってきてくれたらその素材を使って防具を作ってあげる。値段も勉強してあげる。ううん、素材が余っていたら売るだけじゃなくてこっちにもいくらか流してくれるようにしてほしいな。もし、ほかの装備を作るときになったときその素材の分だけ安くしてあげるからさ。お願い!!」
いかにもお願いしますといった風に手を合わせるかしゅーさん。
「まぁ、問題はないですけど」
特に断る理由もないので了承の意を示す。
「わぁ、良かった。親方が宣伝はしないなんて言うから、どんどんマイナー路線に走っちゃってさ。お客さんが来ないのはまだ良しとしても素材が全く集まらなくてさ。万年素材不足。仕方がないから私たちが素材を取りに狩りに行くんだよ。私たち生産職なのにね」
「んむぅ……」
流れ弾のように突き刺さった言葉のとげに親方が項垂れたのを端に捉えつつ、かしゅーさんが愚痴をこぼす。どうも素材が集まらないとスキルレベルも上がらないし、売れる武具も作れないようです。といっても生産職も戦闘するんですね
「するよ。親方なんてハンマー片手にモンスター達を薙ぎ払うの。見てると吃驚するよ。面白いくらい吹っ飛ぶんだよ、どかーんって感じでさ」
彼女はその光景を再現するかのように身振り手振りを加えながら説明する。その反対に親方は恥ずかしそうに身体を縮こめていた。
「サクちゃんたちにも頼んではいるんだけどね。それでも数が足りないんだよね。普段でもいろいろと作るから」
試作品のようにスキルのレベルアップのついでとしていろいろと作っているらしく、それのほうでも大量の素材が必要となるようだ。
「だから、素材集めお願いね」
かしゅーさんは念を押すようにいう。同じように親方も頷いた。
「それは分ったのですが、貫きガエルの湿地が人気が無いとはどういう事でしょう」
かしゅーさんの勢いに押されて聞きそびれかけたが、人気が無いとはどういう事なのか。これから狩りに向かう事を考えてもそこの辺りについての情報は集めておきたいところです。
「貫きガエルは舌を槍のように突き出してくるカエルよ。結構大きくて中型犬より少し大きいぐらいかしら。舌で攻撃してくるだけじゃなくて飛び掛かってきて押しつぶそうとしてくるからそれも注意ね。といっても大体は舌の攻撃が殆どだから真正面に立つようなことさえしなければ何とかなるわ。で、問題はそいつのいるフィールドでね」
そこでいったん言葉を切った。
「そいつがいる場所は東の湿地。足場が悪いことで有名よ。とにかく泥と水場が厄介なの。ぬかるみに足を取られて貫きガエルに刺されて終わりなんてことは普通に起こるわ。そこが人気のない原因なんだけどね」
どこか黄昏る様に話すかしゅーさん。もしかしたら、今言ったことは本人の体験談なのかもしれない。
「まぁ、足場さえ気を付ければ大丈夫よ。ぬかるみしかないわけじゃないしね」
かしゅーさんはそう締めくくった。
「大体わかりました。情報有り難うございます」
「いや、そこまでのものじゃないけどね」
そうお礼を言うとかしゅーさんは照れたように身をよじらせた。
「そうだ、フレンド登録しようよ。親方もしましょう。そのほうが何かあった時連絡もつけやすいしね」
「うむ、そうだな」
「いいですよ」
かしゅーさんと親方を交えた三人でフレンド登録をしました。生産職の方々とフレンド登録できたことは幸運でしょう。装備の作成依頼もしやすくなりますしいいことづくめですね。
「それじゃ、これで」
「またのお越しをお待ちしております」
用事が済んだのでもう出ようと扉に手をかける。後ろからかしゅーさんの透き通った声が鉄を打つ音に紛れながら響く。扉を開けて一歩踏み出せば、喧騒と呼び子の声が聞こえてくる。さぁ、これから貫きガエル狩りですね。




