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「なぁ?どうしてあの写真が出会い系サイトの写真だったって知ってるんだよ?」
ほんの僅かにゆいちゃんの眉がピクリとあがり、そのあと何事もなかったように笑顔をつくって冬馬を見上げた。
「だって、雑誌にそう書いてあったもの。あれが桃ちゃんだってすぐにわかったし」
「いや、書いてなかった。ネットのことには触れてなかったよ。ただ、こんな写真も流出するほどの淫…………」
その後言いたいことは分かるけど流石に私の前で駄目だと思ったのか、冬馬は言葉を切った。
「とにかく、出会い系には触れてなかった。結奈が関わってるのか?」
さっと冬馬の手が離れ、一歩前にでた冬馬はゆいちゃんの肩をつかむ。
ゆいちゃんは顔色を変えながらも、まだ冬馬に笑みを向ける。
「なんで私がそんなことしなくちゃいけないの?しないわよ。雑誌に書いてなかったのなら、そのサイトを見たのよきっと」
「1日で全部削除されたのに?」
「1日?!まさかっ!あの量を?」
ゆいちゃんが、大きな声をだす。それらは、自分が関わっていることを証明する言葉だった。
「へぇ、やはり貴女でしたか。冬馬、今の台詞が証拠でいいんじゃないのか?」
底冷えする春くんの瞳に、暗い光が灯った。
「だいだい、冬馬達は人がいいって言っただろ。仕事干されて当たり前でしょう?信用が出来ない人間となんか仕事できる分けないんだから」
春くんも一歩前にでる。そして、ゆいちゃんの肩に手をおいた。
「ねぇ?人を陥れるなら、自分が同じ目にあう覚悟、できてるよね?」
先程とは違う寒気に襲われる。春くんから冷たい空気が流れてくるよ?これ、絶対零度とかそういうのじゃない?
「結奈があれを流したのなら、俺は君を許すことはできない。あれは犯罪だよ?人の個人情報をあんな形で流出させるなんて」
携帯電話の番号とメアドだもんなぁ。酷かった!!
「私は知らない!」
真っ青になったゆいちゃんは首を左右に小さく振る。そして、肩におかれた冬馬の手を両手で包み込んで必死な形相で冬馬を見つめた。
「冬馬なら信じてくれるでしょ?私がそんなことしないって。今のは………そう、ただそうかなって思っただけで」
「まって、ゆいちゃんが、拓海に連絡をつける為だけにあんなことしたの?他に方法あったんじゃないの?」
あり得ない。拓海となんか勝手に連絡取れるでしょうが。女の子とみれば誰でも見境ないんだから。浮気しないって約束したばかりの時期ではあったけど。
「だって、桃ちゃんむかつくんだもの。久しぶりにあえば、いい男に囲まれてデレデレしちゃってさ。少しは嫌な目にあえばいいのにって思ったのよ。ついでに世の中綺麗事じゃすまないことが、沢山あることを、実感すればいいって」
あれ?開き直った?
「いつでも良い子ちゃんで、綺麗事ばかりいって、バカじゃないの?イライラするのよ」
「綺麗事の何処が悪いのよ。ゆいちゃん見たいに嘘ばかりついてるよりずっといいわよ。なに?旦那にDVあってるって痣までメイクで作って拓海の同情買って!!」
だんだんあったまきたぞ。
私は冬馬と春くんを押しのけて、ゆいちゃんの前に立った。
言いたいこと全部いってやる。
七年越しで言いたい事だけは山ほどあるんだから。
「拓海はね、本当にゆいちゃんの心配していて、私と別れるって言ったのよ?ゆいちゃんが可哀相だって。私だって、七年前、ゆいちゃんの事本当の友達だと思ってた」
初めてできた年上の女友達で、私は色んな事を話したし相談した。
嬉しくて、楽しくて好きだったのに。
アレが全部、冬馬と付き合うためのフリだったなんて信じたくない。
「騙されるほうが悪いのよ。だって、冬馬スッゴク好みの顔してるんだもの。初めて会った時に絶対落とすって決めてたの」
・・・・確かに騙される私が悪いのかもしれない。
だけど、私は騙すより騙されるほうを選ぶ。
人を傷つけるのは嫌だ。
どうせなら、正直に真っ直ぐ生きたいと思う。
たった一度の人生なんだから、後悔しないように、自分に正直でいたいんだ。
だから、ゆいちゃんがなんと言おうと私は嘘なんかつかない。
まぁ、黙っていることはあったりするけどさ。
「ゆいちゃんは私より綺麗だし、女の子らしいと思う。だから、いつでもゆいちゃんが羨ましかった。嘘をつくなら最後までつきとおして欲しかった」
せめて冬馬が好きだと言ってくれていたら、私は同時に友達を二人も失わずにすんだのに。
あの、喪失感は今でも忘れられない。あれだけ違和感を感じながらもゆいちゃんが好きだったから。
「私は最初からあんたの事が嫌いだったもの。いつでも幸せそうに笑ってて、自分がどれだけ恵まれているか自覚もない。冬馬が好きなくせに気づかない振りをして自分の居場所をキープするだけしているんだもの」
ゆいちゃんがそっと私の頬に手をあてた。
「私は愛されたことなんて無いのよ。誰もが私を捨てていくの。あんたみたいに幸せの上にあぐらをかいてる人が一番ムカつく」
私の頬にあてられた手は優しく感じるのに、ゆいちゃんの瞳はどこまでも冷たくて、思わず納得してしまっていた。
「じゃぁ、お互い様ってことで腹はたつけどこれで終わりにしよう。だって、私もゆいちゃんの事嫌いだもの。人のこと勝手に決めつけて。幸せそうに笑っていたからって、その人が実際どうだかわからないものよ?」
ここで、不幸自慢をしても不毛なだけだ。
自分の境遇が恵まれているのかと、自問すれば、きっと恵まれている。
だけど、何事もなく生きてきたのかと言えばそうでもないと思う。
誰もが平穏な毎日をのぞんで、きっと平穏な毎日なんて幻なんだ。
今日も明日も、色々なことが起きていてみんなそれぞれ笑顔で隠して生きている。
私がそうなように。
辛い事なんて数えきれないほどあるし、嬉しいことも沢山ある。
そうじゃないと、とてもじゃないけど生きてなどいられない。
「そうね。でも私はあんたの泣いてる顔や、辛そうな顔をみたいだけなの。あぁ、そう思ってるのは多分私だけじゃないわよ?」
頬にあてた手に力がはいった。爪が肌に食い込んでピリリとした痛みが走った。
ゆいちゃんはとっても嬉しそうだ。
待って、今なんて言った?
他にもって?
「どういう事?」
「だって、あの合成写真私が作ったものじゃないもの。良かったらどうぞって送られてきたの」
送られてきた?
「あぁ、そっちが本当の犯人か。雑誌に情報売ったほうだね。まぁ、よく七年前の人間関係まで調べたよね?」
ドクンと心臓が高鳴る。
私とゆいちゃんの関係を知ってる人。誰だろう。特に誰かにゆいちゃんの話をした事はないと思う。
頬の痛みに顔をしかめたときに、控室のドアがノックされた。
「社長~!ここですかぁ?もうすぐ時間ですよぅ」
美鈴の間延びした声がドアのむこうから聞こえる。
緊縛した空気が一瞬ゆるんだ。
「ねぇ、ゆいちゃん私はどんなに苦しくても笑うよ?だから、なにをしてもゆいちゃんが望むような顔はしてあげない」
私はゆいちゃんの腕をつかんだ。
「拓海の事は感謝してる。それは本当だよ。あんな事でもなければ私はずっと拓海と一緒にいただろうから」
拓海の帰りを待って冷たくなる御飯をみつめていただろうから。
「なに?それ?感謝?ふざけないでよ」
パシンと乾いた音が響いて私の頬が熱くなる。
掴んだ腕とは反対の手で叩かれていた。
「桃っ!!」
冬馬の慌てた声とともにグイッと腰を引き寄せられて私はゆいちゃんの手を慌てて放した。
「なに考えてるんだよ。手を上げるなんて」
くるりと向きを変えられてそっと頬を見つめる冬馬が眉をしかめた。
「爪のあとが残ってる。それに叩かれたところも赤くなってるじゃないか。大丈夫か?」
「大丈夫よ。ちょっと過保護過ぎだって」
「過保護?桃には過保護すぎるくらいが丁度いいんだよ。お腹の子供になにかあったらどうするんだ!!」
・・・・・・・・いや、頬を叩かれたくらいでお腹の子供には響かないかな?
「だーかーらーっ!そんな事でどうにかならないからっ!」
「妊娠?うわぁ、さすがよね。子供を楯に結婚せまったの?そっちこそありえないじゃない」
いや、迫ってないし。拓海の子供だし。
「・・・・・・あぁ、良い気分だね?」
・・・・・あれ?春くんまだ怒ってるのぉー。
「良い根性だね?そういうのは嫌いじゃないんだけど。なんといっても僕、貴方の事きらいだからなぁ。僕は僕の事をバカにした人間は忘れないんだよ」
あれ?なんか個人的にうらみがあったパターンなの?!
・・・・・・・こう言っちゃなんだけど、春くんって根深く憶えてそうだよね。
閻魔帳持ってても驚かないよ。
「あれは、確か僕が中学生の時だね。僕は散々のろけ話を聞かされてたから、貴方の顔は知ってたんだ」
あぁ、なんか冬馬最初は凄く浮かれてたもんね。
「たまたま繁華街で貴方が他の男と歩いてるところを見かけてね。すぐに男が怒りだして貴方は泣きながらすがっていたけれど男はそのまま何処かへ行ってしまった」
そこで春くんはニッコリと可愛らしく微笑んだ。
「僕は冬馬の彼女が泣いているから、ハンカチ貸すぐらいはしてもいいかと差し出したんだ。そうしたら、貴方僕の手をたたいて鼻で笑ったんだ」
中学生の春くんは可愛かったよなぁ。そこらへんの女の子より可愛い顔してたし、まだまだ背も小さくて抱き締めたくなってちゃってさ。それで春くんに男に気軽に抱きついちゃ駄目なんだって真っ赤な顔して言われたっけ。
「餓鬼のくせに生意気なんだよ。幸せそうな面して、人の喧嘩を見てなにが楽しいのよって貴方は言った。人の親切を素直に受け取れない人間性と、僕を馬鹿にしきったその瞳を忘れられなかったよ」
ゆいちゃんは覚えがないのか、思い出そうとするように春くんの顔を凝視していた。
「俺はそんな話聞いてないけど?なんで言わなかったんだよ」
「そんなの決まってるだろ。この人の色香に血迷ったからだよ。桃があんなに分かりやすく冬馬に好意を寄せていたのに」
………………分かりやすかったのか私。
「それに冬馬がこの人といてくれれば桃が僕に振り向いてくれる可能性が高くなるだろ」
「春くん?」
なんか今、とんでもない台詞はいた?
驚く私に春くんは目を細めて慈しむように笑った。
「桃が僕の初恋だから、あんなに家に出入りして遊んでくれて、その上抱きつかれて。純情な僕はあっという間に好きになっちゃってたんだよ」
衝撃的だよ。気づかなかった。まさか春くんが私を?
いや、その……………ごめんなさい。やめて!なんなの?その視線?!
春くんに見つめられて、自分が動揺して真っ赤になってることがわかった。
だっていまだに私、ハルの大ファンなんだよ。出てるドラマや映画を欠かさず見てるし、普段は春くんって感じで気にならないのに、今はなんだかハルの雰囲気が強い。
そんな目で見られたら恥ずかしくなってくるんだよ。
「もーもー」
あきれた様な冬馬の声音にハッと我にかえる。そうだ!冬馬の前だった。
「まっ、昔の話だけどね」
上げて落とされたよ。いや、分かってたけどね。さすがに今でもなんてうぬ惚れてないさ。
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