↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白 桃   作者: 藍月 綾音
桃 25歳 ⅩⅡ
67/79

5

「兎に角僕は貴方が好きじゃない。そして貴方は反省の色がない。もう、うちの事務所からの仕事は諦めて?あぁ、僕は友達が多くてね」


ゆいちゃんの顔色が真っ青になって、唇を噛み締めた。


「今後の為にも、どれくらい貴方の仕事がなくなるか試してみようか?例えば貴方の仕事が全くなくなったとしても、僕は全く困らないからね」


「なんで、こんな子の為にそんなことするのよ!私の方が可愛いじゃない!」


「だから、僕は貴方がキライだとはっきり言ってるでしょう?だいたい僕のまわりにはそれこそ綺麗な女優さんが山程いる。貴方程度でよくもそんな事を」


程度って、あぁそうか、まゆちゃんと夏樹さんの子供だった。あの輝く後光がさすような美形に育てられれば多少判断基準が可笑しくもなるか。ゆいちゃんは綺麗だし可愛いもんな。私なんか、足下にも及ばない。

春くんの言葉にゆいちゃんは青いを通り越して真っ白な顔色になると、怒りのためか体が震え始めた。


「なによ、なによなによなによっ!!私のどこが桃ちゃんに劣るっていうのよ!」


叫ぶようにいい放つ。だから、なんでそこまで自信家なんだ。


「え?全部。当たり前じゃないか。結奈がどうしてそんなに、桃を敵視するのか理解出来ないけれど桃は普通に可愛いだろ。性格が良いのがにじみ出ているじゃないか」


………冬馬。飄々と言ってのけた「全部」という言葉にキュンっと胸が音をたてた。


いや、そこまでは良かったんだけど。

お願いもう、本当に分かったからやめてっ!


冬馬が私の良いところとはをテーマに語りだしてしまったのだ。いたたまれなくなって、止めようと思っても止まらない。

あまりの熱のこもりかたに、唖然とする。だってさ!!自分の事をなんのてらいもなくただただ褒め称えられてご覧よ!恥ずかしいから!穴があったらダイブしたくなるから!!

私、そんなに誉めてもらえるような人間じゃないよ!


ブハッと吹き出す音が聞こえと思ったら春くんがお腹を抑えながら笑いだした。

それでも馬鹿笑いするのは控えたのか声を殺して前屈みになりながら笑っている。


「………………やめて」


小さく呟いたゆいちゃんは顔を上げて、冬馬を睨み付けた。


「もう、いいってば!もう、分かったから。結局冬馬にとって、今も昔も桃ちゃんが一番なのよ!!」


叫ぶように言い切ると、やっと冬馬の語りが止まった。


「あぁそうだな。俺我が儘だから」


そういって私を引き寄せると抱き締め始めた。

馬鹿ッ!やめてよ、人前で!


「俺、女の人にアレしてコレしてって言われるの苦手なんだよな。結奈は結構要求多かっただろ。鞄をもつのが男の役目だとか、あれが駄目コレが駄目って」


拗ねたような響きに、冬馬を見上げると情けなく眉を八の字にしている。


「なんかさ、自信をなくすんだよな。あぁいいうの」


「あぁ、その点桃は頭使うから」


春くんの横槍に、冬馬は訳が分からないという顔をする。


こら、春くん余計な事いわなくていいんだから。


慌てて止めようとしたけれど、冬馬の腕に止められていて春くんの傍にいけなかった。


「桃は要求って形をとらないだけだよ。冬馬を褒めまくって直させちゃうだけだから。あのタイミングを待って、ここぞという時の褒め方は神業だよ?」


「は?」


ちっ!!春くん気付いてたかっ!


冬馬は、豆鉄砲をくらった鳩のようにきょとんとしている。

誰でも、コントロールされているって知ったら良い気分じゃないから、そういう事教えなくていいのに。


せっかく気持ち良くいう事聞いてもらってたのにっ!!


「この人は我慢がきかないからすぐに自分の要求が口からでちゃうんだろ?」


そう言ってゆいちゃんを指差してから、春くんは私を指差してた。


「桃はタイミングを待てるタイプ。例えば冬馬が普段やらない事をやった時にソレが自分のやって欲しい事だったりすると、褒め称えてもう一回してあげようって気にさせてるんだよ」


だって、上から物いうよりは、下から褒めて御願いするほうが預互い気持ち良く事がすすむじゃないか。


「冬馬は単純だらから、いいように変えられているんだよ。ね?桃」


いや、おっしゃる通りなんだけどね。

これで冬馬に嫌な思いをさせるのはいただけない。嫌われたくないし。


「あぁ、そうか。そういう見方もあるのか。でも、俺全然そんな感じしないからいいよ。桃が褒めてくれるの嬉しいし」


「・・・・・って、冬馬子供じゃないんだから」


私が一人ごちた時に勢いよく扉が開け放たれた。


「あーやっぱりここにいましたねぇー!!だめですよぅ、返事くらいしてくれなきゃっ!時間なんですってばぁ。早く来てくださいぃぃぃ!」


美鈴が飛び込んできて、ぐるりと部屋の中を見まわした。


「あら?てぇきっり二人でラブラブしてるのかと思ってたのにぃ!」


美鈴、なによそれ。


「会場に来たと思ったらいなくなっちゃって、社長の悪い癖が出たのかとおもっちゃいましたよぅ」


悪い癖?私が首をひねっていると、春くんがゆいちゃんの前に立ち、ゆっくりと言い含める。


「いいかい?本当にこれ以上桃や冬馬にちょっかいだしたら仕事がなくなると思いなよ。今の所は勘弁してあげるから。ただ、うちの事務所からはもう貴方に頼むことはない」


鋭い言葉にゆいちゃんは息を飲んだ。


「まぁなぁ、あれも原因の一つだからな。桃が会社を首になったのは。仕事を全部干されるよりは少しはましだな」


そう冬馬は頷くと、私を春くんのほうへ押しやった。


「春、桃のこれ頼む。それから会場に連れ来てくれよ、時間がないから急げよ」


「了解。桃、メイクで隠そう。かなり赤くなってる」


「きゃぁぁぁぁぁー!誰にやられたんですかぁぁぁぁ!さくちゃん先輩真っ赤ですよぅ!」


美鈴が大きな声を上げると、私に駆け寄る。それと同時にゆいちゃんが、ホロホロと涙を流し始めた。


ここで泣いちゃうの?!

今更?!

冗談でしょ?

あそこまで本性さらしといて何故、泣き出すのよ。


部屋を出て行こうとしていた冬馬が足を止める。

うわっ!罪悪感が顔に出てるよ!騙されてる。やっぱり男は女の涙に弱いの??


「ごめんなさい。反省するから、御願いだから仕事を止めるだなんて言わないで。私の会社はパラダイスドリームさんのお仕事で持ってるような弱小事務所だから」


ほろほろと透明な涙が頬を伝うけれど、ゆいちゃんは拭おうともせず一心に冬馬を見つめる。

うん、そうだね。冬馬が一番落としやすいよ。ゆいちゃんにとってはそれが正解。


「さっきも言ったけど。貴方は女優に向いている。さっさと転職してどこぞの劇団にはいりなおせば端役くらいはもらえるよ。決定は変わらない」


隣の春くんの声はあきれを含みつつもどこか感心したような響きがあって、どちらかというと冷たくはなかった。

いや、言ってる事は冷たいけどさ。正直言って私はほっとしていた。

私だって善人じゃない。そこでゆいちゃんが可哀相だからそんな事をしないでくれと、冬馬に言うほどお人よしではないんだ。


ゆいちゃんのおかげで酷い目にあったのは確かで。


拓海された事は、ゆいちゃんのせいだけではすまされない要因をたくさん含んではいるけれど。

それでも、どこかでゆいちゃんさえ・・・・・そう思う自分がいる。


拓海はずっと私に優しかったと思う。

自分のことしか考えていないとこはあったけれど、それでも私の為に御飯をつくったり家事を手伝ったり、少しは私の事を考えてくれていたところもあったんだ。

私の前では、私だけを見ていてくれていたし。丁度もう、浮気はしないと約束してくれた頃だった。

拓海と結婚を考えたことはなかったけれど、アレはアレで穏かな日が続けばなにか違っていたかもしれない。

拓海だって、もっと私と向き合うことで変わってくれていたかもしれない。


あんな事があるまでは、確かに私は拓海が好きだったんだ。


あの、低くてハスキーな声も、ちょっと俺様なところも、私を呼ぶ仕草も。

一緒にお風呂に入るのが好きで、つま先から頭の天辺まで綺麗にしてくれて、お姫様気分を味あわせてくれた。

どんなに浮気したって、許してしまっていたのは拓海の傍を離れたくなかったからだ。

意地だったり、プライドだったり、いろんな感情があったけれど、たった一言ですんでしまう。


『好き』


ただ、それだけだ。


確かに、冬馬と一緒になれた。今はとても幸せで泣きそうなくらいだよ。

だけど、拓海にされた裏切りは心に深く沈んで凝っている。

頭では分かっているんだよ。

ふらふらとした挙句に勘違いして私の話も聞こうとしないで。あんな事した拓海が一番悪い。

でも、相手がゆいちゃんでなければ私ももう少し冷静になれた。いつかは別れたかもしれないけれど、あんな別れかたはしなかった。

そして、仕事を失うことも無かったかもしれない。

それを手放しで許せるほど人間が出来ていないんだ。

だから、ゆいちゃんの仕事に支障がでても自業自得だという思いも消せない。

少しは、自分がした事の責任をとればいいのにって思う。


なのに、なのに、はぁぁぁぁぁ。


冬馬はころっといくんだ。

それは冬馬のいい所でもあり、駄目なところなんだよね。


明らかに冬馬の目が泳いでる。迷っている目だよアレは。

泣きながら見つめられて、今きっと『仕事を無くすのはちょっとやり過ぎか?なんか反省はしてるみたいだし。関係者の仕事を外すくらいですませようか?』

と考えて迷っている事が手に取るように分かる。


ホントに馬鹿なんだよなぁ。

まぁ、ここで冷たく出来る人なら、冬馬と結婚なんてしてないか。


「か・わ・ら・な・い」


短く区切るように、ゆいちゃんにそう言うと春くんは冬馬を外に押し出した。


「冬馬いい加減にしてよ?さっさと会場いきな。情にほだされるなんて馬鹿な事してないで」


パタンと冬馬の姿が扉の向こうに消えた。


「・・・・・さくちゃん先輩陥れたのこの人ですか?」


ぽつりと美鈴が呟いて、私の頬を見る。


「この跡もこの人?」


そっと頬に触れてそして、低く笑い始めた。


「んふふふふふふ。そうですか、この人ですかぁ。よぉっく分かりましたよぅ。さっ、さくちゃん先輩向こうの部屋でできるだけ目だたたなくしましょうね」


私の手をとり、美鈴はゆいちゃんを無視して廊下へと連れ出してくれる。

扉が閉まる前に、怒りの為に赤い顔をして、唇を噛み締めるゆいちゃんが見えた。


やっぱり嘘泣きだったか。


妙な納得しながら歩いていると、スマホの画面をみながら美鈴が嬉しそうに笑っている。


大丈夫なの?美鈴。なんか変じゃない?


「あーぁ、僕より怒っている人にバレちゃったね。でもまぁ、自業自得だからしょうがないか。ほら、行くよ。ファンデ塗るから」


春くんの言葉の意味が分からないけれど、促されるままに二つ先の部屋へ連れ行かれて春くんにソファへと座らされた。

化粧を直してもらってるうちに、美鈴がスマホに釘付けになっていることに気付く。


「美鈴?なにやってるの?」


「いまあの人の個人情報拾得中ですよぅ。これからぁパーソナルデーターを出来るだけ集めて一番効率のいい嫌がらせを探るんですよぅ」


嫌がらせ?


「いいよ、冬馬がもう仕事回さないって言ってくれたから。少しは困るでしょ」


「冗談じゃないですよぅ。私の大事なさくちゃん先輩にした事を40倍にして返すんですからぁ」


40倍ってなんでその数字が出てきたのよっ!


楽しそうに黒い空気を纏いながら美鈴は画面をタッチしていた。

空気が黒いのに目がきらっきら輝いているからねっ!!

あとで美鈴のほうは止めておかなきゃ。結構過激だから、ちゃんと聞いておかないとトンでもない事をやってのけるんだよ。


私はゆいちゃんと話した事ですっかり終わったものだとホッとしてしまっていた。

だから、もう一人のゆいちゃんに写真を送った人物の事を忘れてしまっていた。

あんな事になるなんて、考えもしなくて。

もう少し私が気をつけていたら。

もう少し考えていたら、答えはすぐソコにあったのに。


読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。