3
「あいつら、全部音楽にバイト代使ってたのよ?下手するとウチでお風呂まではいって帰ってたしっ!どこがちやほやよっ!使われてたのよ」
そこまでしてたのに、拓海のバカは浮気を繰り返すし、好きだから別れられないし、客観的にみても私がバカだとは思うけど、幸せそうな感じには到底思えない。
「だいたいね、幸せそうの意味がまったく分からない。幸せじゃ、いけないの?いいじゃないの幸せなら」
ゆいちゃんの反応がいつにも増して速かった。
「私は幸せじゃないものっ!!幸せそうな顔みるとムカつくのよ。その幸せを壊したくなる」
・・・・・・それじゃ、なにか?八つ当たり?
「壊したくなるって。子供じゃあるまいし。いい年した大人がなに言ってるのよ」
「いいのよっ!桃ちゃんが泣いてればそれでスッキリするもの。私より不幸だと思うだけで救われるもの」
・・・・・・・いや、そんな事でくらべられてもさ。
「ゆいちゃん、それは変だよ。だってその幸せと不幸って誰が決めるの?私よりってどうやって分かるの?」
幸せや不幸にメモリはない。
好きって気持ちにメモリがないのと一緒で、見えるものじゃないもの。
自分より他人のほうが不幸だと救われるなんて、なんて悲しい優越感なんだろう。
「私だって、こんなに年上だけど、本当に冬馬の事好きだったのに。桃ちゃんが友達をやめたってだけで振られたのよ?」
ぐっと隣で変な音を立てて冬馬が息を呑んだ。
触れられたくない話だったらしい。
「桃ちゃんなんて、鈍感で綺麗なふりして冬馬事振り回してただけじゃない。告白もしないでいいように冬馬を使って、頼って。私のほうが、早く告白したのに!彼女にしてくれるっていったのに!」
本当に冬馬が好きだったのか。それは意外かも。だって、九つも離れてるのに。
「桃ちゃんなんか大嫌い。私が桃ちゃんが不幸だと思えればそれでいいのよ。私が救われる」
ぐっと拳を握り締めて、言葉と一緒にソファの座面をドンと叩いた。
私が不幸だと救われるか。
「だったら、勝手にゆいちゃんの中で私を不幸にしといてよ。そんな子供じみた理由で彼氏に手を出されたらたまらない。迷惑だわ。それに、ゆいちゃんが思ってる私の幸せってなに?」
私って幸せ?まぁ、今は冬馬と仲良くしてるし、とり合えず生活の心配もないし、幸せだけど。
拓海と付き合ってた時って、浮気されて不安がばっかりで、休まるときが少なかった。
それって、幸せっていうんだろうか。
「彼氏に手を出す?違うわよ。拓海が私のほうがいいって言ったのよ。助けてくれるって」
「そうだね。拓海はゆいちゃんをほっとけないって言ってたよ。旦那に暴力振られて可愛そうだって。嘘吐いて楽しい?嘘吐いて付き合っても嘘に苦しむだけじゃないの?」
クシャリと音がするみたいにゆいちゃんの顔が歪んだ。
「手に入ればそれでいいもの。私の事が好きって言ってくれて、大事にしてくれればいくらでも嘘を吐くわ」
そうして、ニッコリ笑う。
あんな事いってるのに、やっぱりその笑顔は百合の花を思わせる。
「貴方は子供だ」
突然上から春くんの声が響いた。
・・・・あれ?まだ怒ってらっしゃる?優しい声音なのに、威圧感が半端ねぇ!!
「貴方は子供で、愚かだ」
・・・・・・素で愚かって使う人初めてだよ。台詞とかならよく聞くけど、リアルで愚か言ったよ春くん。
へんなところで感動してしまう。
今度、冬馬がヘマしたら「愚かだね」って冷たく言ってもらおう。なんかすっごいへこみそうな感じだもん。春くんの愚かって言い方。
「貴方は、桃を羨んで勝手に桃を幸せだと思い込んで攻撃しているだけだ。桃は幸せだと僕も思うよ?それは、桃が幸せだと自分で思ってるから」
・・・・・・・ん?あら?おかしいな。その言い方だと私が不幸だと聞こえるんだけど?
「不幸を不幸だと思わずに幸せを見つけられる人間が幸せなんだ。他人と比べるようなものじゃない。お金があるから幸せ?結婚して子供がいれば幸せ?じゃ、結婚してなくてお金が少ない人は不幸なの?」
・・・・・いいこと言ってるけど。
やっぱり私の事、客観的にみて幸せじゃないって言ってる?!
「これに関しては桃も悪いけれど、拓海君は浮気癖が凄いらしいよ。秋也に聞いたけど、最高10股だって?本命は一人とかこっちも愚かな発言してたみたいだけど」
・・・・・・・・・・恐い。
春くん恐い。
思わず一歩離れて冬馬の手を握った。
いまだ、呆然とゆいちゃんを見つめる冬馬は少し間抜けだけど。
ショック、うけてるんだろうなぁ。
男の人は、別れた女の子の事決して悪く言わないって聞いたことあるし。
女の人よりロマンチストだもんね、
男の人の理想の女なんて存在しないと常々思うもの。
「その上に、生活力はまるでないから桃に甘えっぱなし、発言は常に上から。拓海君こういっちゃなんだけど、謙虚とか感謝とかいう言葉を習ったほうがいいよね?」
そうですね、先生。
無性に春くんを先生と呼びたくなってきたよ。
どうして春くんがそんな事を知っているのよ。
私、言ってないよね?詳しいことなんか一言も!!
「その生活に貴方が耐えられるとは思えないけど?参考までに貴方が幸せじゃないというなら、どう、不幸なのか聞かせてもらえるかな?」
・・・・・確かに、ゆいちゃんじゃ拓海と大喧嘩して終りかも。
まず、浮気ってだけでゆいちゃん怒りそうだもの。
「私の不幸?そんなの決まってるじゃない。こんなにつらいのに、誰も助けてくれない!!仕事はなかなか大きな仕事を任せてもらえないし。恋人はすぐに他の人のトコにいっちゃう。拓海だってそうよ、旦那の名前を冬馬だっていったら次の日から連絡も取れなくなったのよ?なんでよっ!!助けてくれるっていったのに!」
悲鳴に近い大きな声で、ゆいちゃんが言う。
けど、・・・・・・・けどなんだよなぁ。
「ちょっと待って、仕事ってメイクの仕事だよね?夢の仕事についてるんだよね?これも結構一握りってきいてるんだけど?」
充分恵まれてないか?
恋人云々かんぬんに関しては自業自得が大きいから無視だ。
「だから、なによ。私には才能があるもの。大きな仕事をまかされて当然なのに、あんな若い経験も少ないこにチャンスがあって、どうして私じゃ駄目なの!!」
ゆいちゃんは立ち上がって、悔しそうに親指の爪を咬んだ。
そのまま、うろうろと歩きだした。
「私は努力してるもの、才能だってある。あんたなんかより、綺麗だし性格だって変えられる。冬馬のことだって本当に好きだったのに」
確かに私より綺麗だし可愛い。自信家みたいなのに、何故嘘なんかつくんだろうか。
「そう、話が通じないことがよく分かったよ。ありがとう、貴方という人間性がよくわかった」
あれ?声が低くて春くんの怒りMAXだったりして。
「貴方が、犯人かと思ったけれど違うってことは理解した」
えっ?ゆいちゃんじゃないの?雑誌に情報売ったりしたの!
「貴方は、大きな仕事をしたいのでしょう?なのに桃を叩こうとしたし、今でも桃の立場を分かってない。」
はっと冬馬が顔を上げた。やっと本来の自分を取り戻したみたいだよ。
「そうか、さっき同僚のkっていってた。結奈が雑誌にコンタクトとってたら、十分気付いていいはずなのにか」
ギュっと私の手を握る冬馬に私は首を傾げる。全く意味が分からないから。
「だから俺の奥さんが桃だってことに気付いてないってことは俺がハルと兄弟だってわかってないってことだろ?あのマンションに一番通ってたの俺なんだから俺の写真だってあったはずだし」
あぁ、そっか。写真をみれば冬馬が私のマンションにいたっていう事は分かったはずなんだ。
「なんの話よ?私は拓海をあんたから奪おうとしただけよ?復讐するこんな良い機会逃す手はないでしょ?」
ゆいちゃんはいくらか落ち着いたみたいに、ニッコリと私に微笑んだ。
「貴方は、まだ気付かない?今日のこの社長就任のパーティーの主役は冬馬。冬馬が社長なんだよ。その奥さんが桃」
だからなんだ?私が春くんの言っている意味が分からない。
なんか今日の春くんはもってまわした言い方が難しい。
ゆいちゃんも同様なのか、当惑して頬に手をあてた。
「頭悪いですね。貴方メイクでしょ?ウチの会社からの仕事はないと思ったほうがいい」
サッとゆいちゃんの顔色が青くなる。
え?ちょっとまって。なんでそうなるの?
「冬馬がパラダイスドリーム社長?そんな。・・・・・・待って、待ってよ。仕事とコレは関係ないじゃない。ただの喧嘩に仕事を持ち出すの?」
ただの喧嘩ね。・・・・・・まぁ、ゆいちゃんの仕事をどうこうしようだなんて思ったこともないけれどさ。
「関係ない?とんでもない。君は確かに雑誌には売り込んでいないけれど、桃の合成写真をネットに流しただろ?拓海くんと連絡を取るために」
・・・・・・・・春くん?
「結奈が?まさか、そんな事するわけがないだろ?」
「・・・・・冬馬」
冬馬の言葉に、ゆいちゃんが嬉しそうに顔を輝かせる。
「そうよ、私なんのことか分からないわ。拓海に電話しただけだもの。私は何もしてない。悪くないわ。拓海が私に夢中になったのよ」
ネットはゆいちゃん?
「春臣、証拠もないのにそんな事を言っては駄目だ。それに、結奈はそんな事出来る人間じゃないしな」
あれ?ゆいちゃんの正体見たんじゃなかったっけか?
まだ夢持ってたか。
そんな可愛い人じゃないと思うけど。
冷静にそう感じながら私は大きく溜息をついた。
そんな私を横目に見ながらゆいちゃんが近づいてくる。そして私の反対側の冬馬の手を握った。
「本当よ?私なにも知らないもの。信じて冬馬」
思わず握る手を凝視。
何してる?やめてよ。触らないでよ。
ゾワリと悪寒が背中に走った。
あぁ、やっぱり私がゆいちゃんを嫌いなんだ。
どうしても駄目なのかもしれない。
復讐って意味も分からない。
あの時振られたのは私だ。
ゆいちゃんは選ばれたんだ。
私が恨みに思うのならまだしも、なんでゆいちゃんが私に復讐するんだよ!!
ゆいちゃんが冬馬に触ってる。
それがとてもいやだ。
喉の奥からイライラがせりあがってくる。
なにか物がつまったみたいだ。
「冬馬はやっぱり分かってくれるのね」
・・・・・・・・三十過ぎてるんだよね。なのに、この女子力の高さっ!!
つい、冬馬の手を握る力が弱まった。
あっ、離れる。そう思った時力強く冬馬が私の手を握ってくれる。
それが嬉しくて冬馬をみあげれば、まるで大丈夫だというように、私に微笑んでくれる。
イライラとせりあがってきたものがスゥッと消えていく事に気付いた。
冬馬はゆいちゃんに視線を戻すとやんわりと自分の手をゆいちゃんの手から取り戻した。
「過去の事は謝るよ。結奈には悪い事したと思ってる。でもそれは桃が悪いんじゃないだろ?悪いのは俺だよ、中途半端な気持ちで結奈と付き合おうとしたんだから」
ゆいちゃんは冬馬の手を握っていた自分の手をボンヤリと見つめていた。
「なんで冬馬が謝るの?」
ボソリとそう言う。
「俺、結奈に甘えて酷いことしたんだな。年上だったから、俺の事そんなに本気じゃないんだと思ってた。それに、桃が好きだって自分で自覚があったのに、結奈と付き合おうとした。だからごめん」
冬馬が謝ってる。
ゆいちゃんに謝ってる冬馬の目は真剣で、自分の手を見つめるゆいちゃんは自分の唇を噛み締めた。
「もし、復讐するなら俺にで、桃じゃないだろ。道理が通らない」
でも、ゆいちゃんは私の事をきらいなんだからしょうがない。
右手に冬馬の体温を感じながら、そうかあの時本当に負けたわけじゃなかったのかと少しだけホッとしていた。
「でも、私桃ちゃんの合成写真を出会い系サイトに貼り付けたりしてないわ」
ゆいちゃんがそう言った途端に冬馬の表情がさっと強張った。
ゆいちゃんは冬馬の表情が変わったことに気づかずに、自分の手をまだ見ている。
拒絶に馴れていないんだ。そんな感じが受け取れた。
読んで頂きありがとうございます。




