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………びっびっくりした。
なによ、今の声。
なによ、この感覚。
舐められた耳を押さえて高鳴る心臓を落ち着けようと何度も深呼吸を繰り返す。
エロい。エロかった。
なにがって、拓海の声と息遣い?
家にいれるんじゃなかった。野宿とかいうから泊めてあげたのに、恩を仇で返すってこのことだ。
今更ながらに後悔しても、もう遅いよね。今からでも鍵返してくれないかな。
頭を抱えたくなる。
心臓はいつまでも落ち着かないし。
ドンドンドンドンドンッ
大きな音でドアが叩かれた。
すぐソコに拓海がいる。そう思っただけで更に心音が大きくなった。
「も~も。おいっ、悪かった。悪乗りしすぎた。謝るからでてこいよ」
謝るっていいながらも、全然謝る人の口調じゃないんだけど。
「トイレにこもるなよ。小学生じゃあるまいし」
「拓海が変な事するからっ」
「あ?だから悪かったって言ってるだろ。ほら、さっさと出で来いよ」
なんで、こいつは偉そうなんだよ。てか、ここ私の家だよね。拓海の家じゃないよね。
なんか、我が物顔じゃない?
ドンドンと更に扉を叩かれ、私は耳を塞いだ。
「近所迷惑でしょ。扉叩かないでよ」
「だから、出て来いって。……………ヤバイ。痛いかも。桃、変なトコ殴っただろ」
苦しそうな声と、ズリズリと服が壁を擦る音が聞こえる。
え?なに?倒れちゃったの?
私そんなに強く叩いてないよね。
でも、拓海から逃げようと必死だったから、力の加減を間違えたのかも。
私は一気に血の気が引いた。
どうしよう。
オロオロと周囲をみわたしてもあるのはトイレのみ。
役に立ちそうなものはないもない。
まぁ、トイレなんだから当たり前なんだけど。
「………もも」
苦しそうに私を呼ぶ声に、私は居てもたってもいられなくなって、慌てて鍵を開けて扉を開けた。
そぉっと扉を開けると拓海は壁にもたれて座り込みピクリとも動かない。
ヤダ私のせい?!
拓海に駆け寄って顔を覗き込んだ。
「ねぇ、大丈夫?何処が痛いの?」
パシッ。
突然、拓海が私の腕を掴んだ。
「ちょろいな。普通こんなベタな手、引っかからないぞ」
意地悪そうな光を浮かべて私を射抜く瞳はとてつもなく楽しそうだ。
……………騙された。
ショックに打ちのめされれば、拓海は楽しそうに声をあげて笑った。
「面白いな。俺、あの雰囲気で逃げられたの初めてだよ。普通あそこまで感じてたらなし崩しでしょ?」
「馬鹿いわないでよ。なんで好きでもない奴に。だいたい、拓海は未成年でしょう?ロクに責任もとれないような子供がなにいってるのよ」
怒りよりも、呆れがきて床に座り込んでしまった。
「未成年ときたか。でも結婚はできるぜ?俺、桃の事満足させる自信あるけどな」
つつつと拓海の指が私の鎖骨をなぞる。
「だから、そういう事やめてよ。そういう事したいなら、別の女の人見つければいいじゃん。なんか、馴れてそうだし」
指を払いのけながら言えば、拓海は艶然と笑った。
あまりの綺麗さに言葉を失う。
ヤバイ、女として完全に色気負けしてる。
私の女力は昔から向上せずに、劣化の一途を辿っているもんなぁ。
拓海の笑みに見惚れていると、また拓海が近づいてくる。
それに気づいて、慌てて拓海のおでこに自分の手をあてた。
ちっと拓海が舌打ちする。
「ちっじゃないでしょ。なにしようとしてるのよ」
「桃が可愛いから、キスしたい」
しれっと天気の話をするのと同じぐらいの調子で拓海は言う。
駄目だ、この男やっぱり頭が弱いんだ。
「なんだよ、その可哀相な人を見るような目は」
「あぁ、だって可哀相な人だよね。ちょっと頭弱いもん」
「おまっ、この俺に頭弱いとか言うのかっ。いつも、女の人が家に泊めてくれるって時は俺にご奉仕求められてたんだよ。だから、つい」
ご奉仕って、なにしてんのこの子。
「馬鹿っ。なんて生活してるのよ。未成年でしょうが、春を売っちゃ駄目っ!!自分を大切にしなさい!」
「売ってないよ。別にお金貰ってるわけじゃないし。ふぅん、昨日から不思議だったんだけど、やっぱり桃はそういうつもりじゃないんだ?」
怒ったつもりが、逆に値踏みされるように見られて私は言葉につまった。
「っ!!あっ、当たり前でしょ。お腹を空かせてたから、ご飯食べさせてあげようと思っただけっ。キッキスとか、わけ分からないことするなら、野宿でもなんでも勝手にしてて」
拓海は顎に手をあてると、さらに値踏みをするように私を足から頭の天辺までなんども見ると、一つ頷いた。
ちょっと、勝手になにを納得してるのよ。
イヤな予感がするんだけど?
「うん。桃って可愛いよな?今時珍しいというか、なんか気に入ったな、俺」
「気に入らなくていいから、鍵返してよ」
今になって私は猛烈に反省していた。
いくら害がなさそうでも、よく知らない男を家に上げちゃだめだ。
しかも、泊めるなんて論外だった。
「別にいいけど、ちょっと待って」
ソファの横に置いた鞄を探って昨日渡した合鍵を私に渡してくれる。
すぐに返してくれた事に、拍子抜けしながらもホッと息をついた。
「でさ、桃彼氏いないんだろ?俺、今日から彼氏ってことで」
その時、私は鍵の事で頭一杯で拓海の話を聞いていなかった。返ってきた鍵に安心して、次はどうやって拓海を追い出すかだなと考えていたから。
「桃、分かった?」
「あぁ、うん。分かった」
って、軽く返事しちゃったんだよっ!!私の馬鹿!!
「じゃ、早速」
なにが?と聞き返す前に、拓海は私を抱きすくめていた。
「ちょっと、なに?こういうの止めてっていったでしょ?」
「今、俺が彼氏でいいって言っただろ?」
「言ってないっ。てか、私拓海のこと特に好きじゃないし」
胸を押し返せば、拓海はさらに腕に力を入れて、逃してくれない。
「言ったよ?別に好きじゃなくてもいいじゃん。俺が桃を好きだっていってるんだから、桃はこれから俺を好きになればいいんだよ」
「会ったばっかりでなに馬鹿な事いってるのよ」
「でも、もうキスしたし、一緒に寝たし。ほら、恋人みたいだろ」
違うっ断じて違うっ!!
キスは拓海が一方的にだし、一緒に寝たって、拓海が勝手にもぐりこんできただけだし。
「それに結構、桃は俺の事、気になってると思うけど?」
ドコからその自信が出て来るんだよ。
私は今だかつてない状況に、頭がくらくらしてきた。
男に人に強引に迫られたことなんてないし。この状況じゃ助けてくれる人いないし。
「俺は桃に一目惚れに近いかな。顔真っ赤にして、可愛いし」
目を細めて、私の髪を一房掬い上げると指をからめる。
「ほら、その顔。桃は絶対俺の事好きだって」
どの顔だよ。なんで顔で判断できるのよ。
年下の癖に、私より恋愛経験豊富だからか?
それって詐欺じゃないの?
「とりあえずでいいから、ね?」
髪を離して私の頬に大きな手で包み込んだ。
懇願するような、せつない響きがする声音に胸の奥がギュっと締め付けられるような感覚に襲われた。
拓海の瞳が憂いを帯びて揺らめいている。
あぁ、ヤバイ。
これは、私落ちてるかも。
だけどこの男、絶対家に居座りたいだけだよね。
今、私詐欺にあってるよね。
解っているのに、目を伏せて近づいてくる拓海を避けられない。
騙されてもいいかも、と思うのは拓海の憂いを帯びた瞳のせいなのか、ただ単に男馴れしていなからか。
それとも、綺麗すぎる拓海の顔だったりして。
頭の隅で冷静に思いながらも、柔らかい拓海の唇を受け入れてしまった。
何度も繰り返し重ねられる唇に、どうしていいのか分からなくなってしまった。
私、こんなに惚れっぽかったっけ?
キスをしながら体を撫で回そうとする、拓海の手を払いのけながら心の中で大きな溜息を吐いた。
拓海、本当に手馴れてるよなぁ。
顔が離れれば、一層切ない瞳に見つめられ、心臓がキュンと音をたてた。
駄目だよ私。しっかりしろって。
「ね、付き合うだろ?」
拓海の吐息が私の耳にかかって、また力が抜けそうになる。
「取りあえずだからね。私が拓海のこと、好きになるまでこうゆうの無しだよ。」
まだ懲りずに撫でようとする手の甲を叩いた。
「いいじゃん。体から始まるってのもありだし。そっちの相性も大事だよ?」
私は、拓海の体を両手で押し退けた。
「イ・ヤ・ダ。初めては好きな人とって決めてるんだから」
アレ?今思いきり余計な事、いったかも。
拓海の顔が輝き始めたよ。
「と言うことは、昨日のもひょっとして初めてだったりした?」
一瞬言葉につまって、慌てて誤魔化した。
「……っ。そっそんなの秘密に決まってるでしょ」
って、秘密ってなんだ自分っ!
あぁ、なんか自分が自分じゃないみたいだよ。
「ふぅん。そっか、初めてか。意外だね、人並みの容姿なんだからモテないって事無いだろうに」
なにげに、人並みって言いやがった。分かってるけどね。それでも、口に出していい事と悪い事あるよね?
「でもさ、それって、俺好みに染められるってことだよな?いいね、そうゆうの」
………若いくせに発言が親父だよ。俺好みって、どんなのさ。
一抹の不安を覚えるよね。
「兎に角、駄目だから。それに、ちゃんとまこさんのトコに帰ってよ」
「桃、コレなんだか分かる?」
全然違う話を振られて、戸惑うけれど、拓海が鞄から取り出したキーホルダーをよく見る。
「アリスの時計うさぎ?」
首を傾げると、拓海は満面の笑顔でそれを振る。よく見ると、キーホルダーにチェックの模様が入った鍵がつけられている。
…………あれって?まさかっ!!
私の顔色を読んで、拓海は嬉しそうに言った。
「正解。桃の家の合鍵」
取り返そうと、思わず手が出てしまった。
なによっ!イヤに素直に鍵を返してくれたなって思ったら!
無断で合鍵を作るなんて非常識もいいトコだ。あり得ないつーのっ!!
拓海は恐らく、180センチは越している。私が背伸びをしてジャンプをしても、届かないように鍵を持った手を高々と上げてしまった。
「桃、結構ちっちゃいよな」
「ちっちゃくないっ。155センチあるから普通ですっ!もうっ!返してよ」
「イヤだ。男と暮らすより、彼女と暮らしたほうがいいじゃん。ね?俺料理できるし、まめだしお買い得よ?」
やっぱり居座る気満々じゃないかっ!!
「駄目だったら。なんで私が拓海と一緒に住まなきゃならないのよっ!!」
「じゃ、お試しでもいいよ?俺がどんだけ使えるか試してみたら?とりあえず、まこの彼女が帰るまで泊めてもらって、その後は桃しだいって話でどう?」
そうして拓海は私の家に居座る事に成功した。
そう、出て行くわけがなかったんだよ。だいだい最初っから図々しかったからね。
この時点で拓海に傾いていた私が拓海と恋人同士になるまでそんなに時間はかからなかったのだった。
読んで頂きありがとうございます。




