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目を開けると、カーテンの隙間から強い日差しが差し込んでいた。部屋の中の温度も結構暑い。
あぁ、もうお昼過ぎてるかも。
しっかし、瞼が重い。昨日泣きすぎて腫れまくってる。今日は仕事が休みで本当に良かった。
こんな顔で仕事にいったら何を噂されるかわかったものじゃない。
「あっ、桃起きたか?朝ごはん出来てるよ。後、ほらコレ」
拓海が顔を覗かせた。
そういえば、いい匂いが部屋のなか一杯に広がっている。
「ごめん、寝すぎちゃった」
「気にする事じゃないだろそんな事。ほら」
ベットに腰掛けて拓海は差出のは、目にあてるアイスノンできちんとハンドタオルにくるまれていた。
「………やっぱり、酷い顔してるよね」
覗きこもうとする拓海の顔を押しやると受け取ったアイスノンを目にあてがう。ひんやりとして気持ちが良かった。
「ありがとう。でも、見ないでよね、不細工なんだから」
「今更なにいってるんだよ。そんなの俺、全然気にしないし」
拓海が体の位置を変えて、私の後ろに座ったようだった。
キシリと、ベットが沈み引き寄せられた私はそのまま拓海に胸に頭を預けた。
「桃、愛してる」
「だから、気軽に言っちゃ駄目でしょって」
「気軽になんていってないよ。俺、桃にしかこんな事言わない」
前に回ってきた手に顎を持ち上げられ、体をひねるように後ろを向かされ拓海のキスが降りてきた。
朝の挨拶程度だと思って応じた私はすぐに後悔する。アイスノンを支えていた手に拓海の指が絡まって、キスはどんどん激しさを増して行く。目隠しされているからか、なんだかいつもより気持ちがいい。
拓海を感じながら、ホッとしていた。拓海が本当に私が好きだと信じられたから。
「桃、仲良くしよ?」
甘い吐息と一緒に拓海が言うけれど、私は首を横に振った。
「朝御飯食べようよ」
冷めたらせっかく作って貰ったのに、味が落ちてしまう。それじゃぁ、勿体無さすぎるから。
「うーん、今は桃と仲良くしときたいんだけどな。昨日の話、俺がドンだけ嬉しくて、ホッとしたか分からないだろ?」
お互いさまだから。
そう考えながら、同じことを思っていると分かり頬がゆるむ。
あぁ、今幸せかも。
今日はまったりと一日過ごすのがいいなぁ。どうせ、この顔じゃ外に出れないしさ。
だけど、拓海が人気出たら芸能人みたいに外で買い物とか、出来なくなったりして。
そうしたら、悲しいかも。
幸せをかみ締めていると、玄関のチャイムが鳴った。
家に来る人は限られている。休みの日に訪ねてくるのは宅急便ぐらいなんだけど、荷物が届く予定はなかった。アイスノンを外して、上目遣いで拓海を見上げる。
「ごめん、出てもらってもいい?」
流石にパジャマとこの目じゃ出れないし。
拓海はなにも言わずに玄関に出てくれる。
玄関から聞こえてきた声は、隣の青山さんの声だった。
青山さんの困ったような声音が気になって、大急ぎで部屋着に着替えると玄関に向った。
なにかトラブルがあったのかもしれないと思ったんだ。
青山さんは私たちが越してくる前からの住人で、夫婦で暮らしている。
40代だと言っていたけれど、子供はできないといっていた。
いつも、本当に気を遣ってくれてとても良くして貰っているんだ。
案の定、玄関に近づくと青山さんの当惑した声がはっきりと聞こえてきた。
「いやね、うちも桜田さんがどうって言っているわけでは、ないのよ?ただ、黙っている訳にもいかなくて………」
「あの、こんにちは。どうかしましたか?」
私の顔を見ると、青山さんは相好を崩した。気づけば、顔がほんのり赤い。
………顔、いいからね。拓海。
隣の奥様まで落とすとは恐ろしい。
なんて考えるけど、玄関の外から異様な匂いが漂ってきていた。
「桃、あれ」
拓海が玄関の外を顎で示す。
笑ってくれた先ほどとは一転して青山さんは、困ったように私を見た。
「桃ちゃん達がどうこうって話じゃないのよ?なにか困った事があったんじゃないかと思って」
青山さんは私と拓海が夫婦だと思っているみたい。わざわざ同棲していますっていうのもアレだから、訂正せずにいた。だから、家は桜田の表札しかだしていない。割と友好的な青山さんのもってまわした言い方が気になる。不思議に思い、首を伸ばした。
ソコには、あり得ないと思われる光景が広がっていた。
玄関の前に、大量の生ゴミが散乱していた。匂いの原因はコレらしい。
驚いて、青山さんの横から顔を出して確認するとキッチリとまるで線を引いたように私達の部屋の前にだけ、生ゴミが散乱している。すえた匂いに顔をしかめた。
「………これまた、なんと言っていいか。労力使う嫌がらせだぁね。青山さん申し訳ありません。すぐに片付けますから」
思いつくのは、あのネチッこいさやかの顔だ。
昨日の今日で、よくもまぁやってくれたわ。
「拓海、ゴミ袋とってよ。これじゃ、他の人の迷惑だよ」
拓海が頷いて台所に消えると、青山さんがほぅ、とうっとりと溜息をついた。
「あんなに素敵なんだもの。嫌がらせの一つや二つうけるわよねぇ。桃ちゃんっ!!奥さんなんだから、負けちゃ駄目よ!!私も手伝うわっ」
何をどう、納得したのか青山さんは箒と塵取りを持った私の背中を大きくたたくと、自分の家から箒を持ってきて掃除を手伝ってくれた。
………青山さんの欠点は、思い込みの激しいところで、一を言えば残り九を妄想と想像で素早く創り上げ、それを真実だと思い込んでしまうところだと思う。
きっと今、青山さんの中で私は美人な愛人に対立する悲劇の妻になっているに違いない。
拓海も手伝ってくれて、あっという間に掃除し終わった。
「ありがとうございました。なんだか、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。思い当たる節はないんですけど、拓海と相談してみますね」
そういうと、青山さんは分かってるわよとばかりに頷いて拓海をうっとりと見上げた。
「素敵ですものねぇ」
私は拓海の額に青筋がたったのを見逃さなかった。
けれど、拓海は笑顔を浮かべてかるく会釈すると家の中に入っていく。
私も、お礼をもう一度言ってからゴミ袋を提げて玄関に入った。
家の中に入ると、拓海がムスッとして洗面所で手を洗っている。
「どうしたの?不機嫌な顔しちゃって」
「隣の奥さん、ベタベタ触るし意味深な目するから苦手なんだよ。なんか一言でも言えば、押し倒されそうで恐い。まぁ、半分はその生ゴミだけど」
確かに、コレはいい気がしないね。臭いし。他の家にも迷惑だし。
「こうゆう嫌がらせって、なにが面白いんだろうね。私達が帰ってきたときは無かったから、夜中の二時からせいぜい四時か五時の間でしょう?私だったらこんな事するくらいなら寝るけど」
拓海も頷いた。
「どうせ、ただの暇人だろ?気にする事ないよ。別に誰かに恨みを買う憶えは………あるのか」
はぁぁぁぁと拓海は大きく溜息をついた後に、ぼそりと呟いた。
「本当に俺、本命がいるからって言ってあったんだけどなぁ」
多分拓海が思い出しているのは例のメール四人組の事だろうと思った。
女心の分からない男はこれだから。
私はあえてなにも言わずに、中庭にゴミ袋をだす。
拓海のせいだと決まったわけじゃないし、こんな労力使うなんてそんなに続くかないだろうと私は思っていた。
けれど、その予想は見事に外れてしまい、私達はしばらくの間、いろいろな嫌がらせに悩まされることになる。
嫌がらせしてるやつ、絶対に暇人だからっ!!間違いない!!
私がもう一度、玄関を出て家の前に匂いを消すために水を撒いていると青山さんがひょっこりと顔をだした。
「桃ちゃん、さっき旦那さんがいたからアレだったんだけど、どうしたの?喧嘩でもした?目が凄いことになってるわよ」
心配そうに、近づいてくる青山さんに私は笑顔で答えた。
「イヤだ、喧嘩じゃないですよ。これ、夜中に映画を見ていて号泣しちゃったんです。もぉぉあんまりに子供が可哀相で」
そう言っても、青山さんは納得いかなそうな表情で、それでも愛想笑いを浮かべた。
「そう、それならいいのだけど。本当に酷い事するわよね。桃ちゃん負けちゃだめよっ!ファイト!」
ガッツポーズに笑顔で答えて、私は家の中に入った。
多分、激しく勘違いしてそうだよなぁ。
「桃、メール」
拓海が私の携帯を放り投げた。慌ててキャッチして軽く睨む。
「携帯を投げないでよ。落としたら壊れちゃうじゃない」
「落とすのは桃がトロいからだよ」
しれっと憎まれ口をたたいて顔をしかめると、拓海はキッチンで朝食を温めてくれる。
その間にメールを確認すると、冬馬と…………ゆいちゃんだ。
ホント、なにがしたいんだよ。
朝からブルーな気持ちになりながら内容を確かめる。
冬馬からは、昨日のことを心配してその後喧嘩をしなかったかと、酔って吐かなかったかを聞いてくれていた。こちらは、仲直りしたからとうってお礼をしておいた。
さぁ、問題はこっちだ。
ゴクリと唾を飲み込んで、気合を入れてメールを開く。
『こんにちわ、桃ちゃん今日、会えるかな?冬馬ことで相談があるんだけど。出来れば男の人の意見も聞きたいから、彼氏とかいたら一緒に頼めないかな?』
と打ってあった。
ゾワリと寒気が背筋を這う。
めちゃくちゃ、嫌な予感がする。
昨日の今日でどうして、こんなメールが送られてくるんだ?
なんで私が彼氏を連れて行くと思うんだろ?
相手が考えている事が意味不明って結構恐い。
ましてや、相手はゆいちゃんだから余計にだ。
まさか、拓海と付き合っていることに気づいた、なんてことないよね?
昨日、人前ではピーって呼んでたし、私も敬語使ってたし、でもゆいちゃんって勘がいいしなぁ。
キッチンで鼻歌を歌っている拓海を盗み見て溜息をついた。
顔だけは、本当にいいんだよなぁ。未だに拓海に見つめられると、身の置き所がないもの。妖艶というか、艶があるっていうか。この男が落とそうと思ったら、落ちない女の子はいないんじゃないの?
拓海の駄目さ加減も付き合ってみなければ分からないだろうし?
拓海の天職は間違いなくホストかジゴロもしくは、結婚詐欺なのに。
ゆいちゃんのメールになんて返そうか悩んでいると、携帯が震える。
メールをやり取りする、友達なんて限られているのに。誰だ?
なんだ?知らないメアド?
宣伝メールかと思ったそれを気軽に開いて私は凍りついた。
手が震えて、携帯の画面が揺れている。
「たっ、拓海!こっこっこっこれ!なにっ?嫌だ気持ち悪い!!」
私の悲鳴をきいて拓海が駆け寄って来た。
「なんだ?どうした?」
拓海を見上げている私の手が、震えていることに気付いた拓海は、携帯を持つ手を両手で包みこんで私を落ち着かせるように見つめた。
「落ち着けよ。な?」
吸い込まれるような黒い瞳を見つめると徐々に震えが収まってくる。
けれど、私の手の中で携帯はけたたましく震え続ける。
止むことのない震えに、なにか良くないことが起こっていることは解った。
読んで頂きありがとうございます。




