2
私が作った親子丼を見て、拓海は首をかしげた。
なにっっ?まだ食べてないじゃん!!匂いで不味いとか判断できるとか言わないよね?!
「なんか、色薄くない?親子丼ってもっと色が濃くなかったっけ?」
そう、言われて納得した。
「それ、関西風だから。お醤油が薄口なだけ。味は薄くないと思うよ?」
私が話す終える前に、拓海はいただきますと手を合わせると、親子丼を口に入れいた。
口に合えばいいけど。
心配になって、拓海を見つめれば、拓海はキチンと口の中のものを飲み込んでから口を開いた。
「美味しい。出汁がきいてるし、卵がふわふわ。マジ旨いっ!」
「そう、良かった。沢山あるからお腹いっぱいになるまで食べて?」
拓海は本当に美味しそうに食べてくれて、久しぶりに誰かの為ご飯を作った私も嬉しくなった。
おかわりもしてくれたし、良かった。
ご飯を食べ終えて、満足そうな拓海に笑顔をむければ拓海も笑ってくれて、ふんわりと心が暖かくなった。
「ご馳走さまでした。ありがとう、めちゃくちゃ旨かった」
食べ終えた食器を下げようとすると、拓海はさっと自分でまとめてシンクにもっていってしまう。
「作ってもらって、食べさせてもらたんだからこれぐらい自分でするよ。洗わせて?」
そう言って食器を洗い出す。
その後姿をみて、なんだか不思議な気持ちになった。
よく考えれば、家族以外の人間がこの部屋にはいったのって初めてかも。
私以外の人間があそこに立つってなんだか不思議だ。
嫌じゃないけど、どこかくすぐったい。
ボゥと眺めていると、ちらりと私を見た拓海がくすりと笑った。
え?私笑われるほど間抜けな顔してたかな。
慌てて顔を引き締める。
さっと洗い物を終えた拓海は意味深な笑みを浮かべながら近づいてきた。
なっなんか、なんかっ!!照れる。なんでだろ?拓海の今の顔見てるとすっごく照れくさいんだけど。
私の目の前に立つと、スッとしゃがんで私の顔を覗きこむ。
「桃、そんなに見つめちゃって、俺に惚れたんだろ?」
大きな手が、私の頬にあてられ思わずその手を払いのけた。
大きく首を横に振る。
「惚れてませんっ。どっからそんな自信がでてくるのよ。自意識過剰でしょ?ただ、私以外の人がこの部屋にいるって不思議だなって思ってただけ」
そういうと、拓海は舌打ちして立ち上がった。
っ舌打ちされた!なんでさ。
「って、ことは。桃は彼氏いないのか」
どうしてそうなるのよ。まぁ、当たってるけど。
「悪かったわね。彼氏の一人もいなくて」
「違うよ、都合がいいなって話。桃ついでに二、三日泊めてよ。ソファでいいから」
あんまりにも図々しいお願いに反射的に断わっていた。
「駄目。なんで一人暮らしの部屋に男の人泊めなきゃならないのよ。他のトコ探しなさいよ」
「まこさんの彼女が帰るまでだからさ、頼むよ。マジで俺困ってるんだ。昨日なんか野宿だったし。今の時季寒くて凍えそうでさ」
見下ろされて、される話じゃないと思うんだけど。
なんかやっぱり、えらそうだよね拓海って。
「頼むよ。バイト代入ったらちゃんと食費と泊まり代払うから。俺、もう野宿したくないんだよ」
なんだか、全然私にメリットのない話なんだけどな。
「お願いっ!!」
「……………分かったよ。まこさんの彼女が帰るまでだからね。布団なんかないからホントにソファだよ?」
そう、押しに弱いんだよね。頼まれると断われないっていうか、困ってる人見てるとほっとけないというか。あぁ、家にいれるんじゃなかった。
「やった!!桃サンキュ。じゃ、合鍵頂戴。俺、まこさんのとこから荷物持ってくるから」
この野郎、合鍵請求って本当に二、三日で出て行くんだよね。
なんか納得いかない。
そう、思いつつも引出しを開けて合鍵を渡す。
まぁ、まこさんのお墨付だし悪い人じゃないだろうし。
「S」のヴォーカルだし。
………大丈夫だよね。大丈夫なはず?
意気揚々と玄関で靴を履く拓海を眺めながら私は本日何度目かの大きな溜息をついた。
「あっ、忘れた」
拓海は突然顔を上げると、私のほうへと戻ってくる。
「なに?どうしたの?」
「忘れもん」
なにか手に持ってったけ?
そう思って、拓海が座っていたあたりを見てもなにもない。
「なんにも落ちてない……?」
私は最後まで言葉に出来なかった。
目の前には至近距離で拓海の顔。
唇に触れているのは、多分、恐らく、イヤ、間違いなく拓海の唇で。
呆然と固まる私をみてくすりと笑うと立ち上がる。
「サンキュ、感謝の印だから。じゃ、行ってくる。すぐに帰ってくるから」
さっと玄関から出て行くのをぼんやりと目で追うことしかできなかった。
あんまり考えたくないんだけど。
まさかのまさかで。
もしかしなくても、今の私のファーストキスってやつじゃないか?
……………この年までお付き合いしたこと無いもんよ。
青い春は冬馬にあげちゃったもんよ。
ここまできたら、ファーストキスは好きな人とって思ってたのに。
なのに、なんで、あんな三回ぐらいしか会った事ないような奴に持ってかれてるんだ、自分っ!!
めちゃくちゃ、自然で避けようがなかったというより、気づいた時にはキスしてたというか。
それよりも、なによりも。
自分とキスすることが感謝の印って、可笑しくない?日本人の感覚じゃないし、ましてや、外国行ったって口はよっぽど親しくなきゃしないよ?
…………まさか、あれか?
自分の顔に絶対の自信があるから。
俺のキスは高いぜ的な?
だったら、よっぽど頭が弱いのかもしれない。
ここは、年長者としてそれは欠片もお礼、もしくは感謝の印にはなりえないと教えなくては。
私は、拓海の再教育を心に決めつつも、二、三日の辛抱だと自分に言い聞かせる事にした。
くそっ、本音は鍵返せっ!!なんだけど!!
次の日朝、私は寝返りをうとうとして背中に違和感を感じて目が覚めた。
ゆっくりと起き上がって、目を擦る。
なんだかいつもより暖かい気が………。
一気に目が覚めた。
何故か隣で拓海が寝息を立てている。
なんでよっ!下のソファで寝ろっていったじゃないっ!!
驚きで声が出ずに、拓海を見下ろしているとうっすらと拓海が目をあけた。
「ん~、はよ。今何時?」
私は慌てて携帯に手を伸ばして時間を確認する。
「五時」
拓海は眉をしかめると、寝返りをうって私の腰に腕を巻きつける。
イヤイヤちょっと待って。待てっ!!
混乱する頭を大きく振ってみる。
「そう、そう!!拓海っ!!なんでここにいるのよ。下のソファで寝てっていったじゃない!」
そうだよ、時間を調べてる場合じゃないよ。
つい、流されてしまったじゃないか。
拓海は気だるげに目も開けずに答える。
「んん?あぁ、だってあのソファ硬くて腰が痛くなるし、寒いし、小せぇし」
「それでいいから、泊めてくれって行ったの拓海でしょ?なに人の布団にはいってきてるのよ」
布団から追い出そうとすれば、引き倒され拓海の腕の中にスッポリと納まってしまった。
「細かい事、気にしない。まだ早いんだからもう少し寝ようよ」
「全然細かくないっ」
駄目だ、許容量オーバーだ。
なんで朝っぱらから、拓海に抱きすくめられてるんだ?
一気に顔に血液が集中してる。
絶対今、高血圧だ。死にそうなぐらい高いにちがいない。
心臓もありえないくらいに大きな音を立てていて、頭のなかに鳴り響いている。
五月蝿いったらありゃしない。
混乱し過ぎて固まってしまった。
突然、耳元で拓海がくすくすと笑い出した。
「なんだよ桃、ガッチガチ。今まで男いなかったんだろ。すげぇ、心臓がドクドクいってる」
目がさめたのか?
だったら、手を放してどいて欲しい。
なんだか、緊張というか混乱というか、血圧というか上手く動けないんだよ。
「桃」
体をずらした拓海が、私の耳元で名前を呼ぶ。
脳髄まで痺れるような、電撃が私の体にはしった。
??なにこれ???
と同時に耳たぶに小さい刺激があって、さらに痺れて体が揺れた。
「んんんっっ!!」
「なに、桃は耳が弱いんだ?」
拓海の声に艶がでてきて、呼吸が浅くなっている。
得体の知れない未知の感覚に、駄目だと理性が訴える。
だって、変なんだよ。
心臓がドキドキして止まらないし、私の呼吸が長く細く、まるで何かを逃すように震えるように息を吐き出している。
拓海はそのまま私の耳を舐め始めてしまった。
なななんで耳舐めるのよ。
そんで、どうしてこんなに体に力が入らなくて拓海を押しのけられないんだ。
年下の男にいいように弄ばれてるみたいで腹が立つ。
それなのに、耳を掠めるザラザラとした感触と水音に体中の力が抜けていくみたいだ。
「や……やだ。やめて」
出てきた声は、まるで映画でみる恋人同士が発する甘えた声で。
自分の声に、我に返った。
違うからっ!!私こんな声出す人じゃないからっ!!
せーのっ!!
うっす!!
「…………っっ。ってぇ」
肘を拓海の脇腹に叩き込んでしまった。
拓海の拘束力が弱まったのをいいことに、私は布団から這い出て大急ぎでロフトから降りるとトイレに駆け込んで鍵をかけた。
やっと一息ついて、壁にもたれかかるけど、足は震えて手も震えている。
ずるずるとスベリこんで座った。
読んで頂きありがとうございます。




