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世界が割れてしまったのかと錯覚するほどの歓声だった。
その中心では見知った女子生徒が二人、すれ違いざまにハイタッチをしている。
初めてスポーツをする人間を見て「凄い」ではなく「綺麗」だと思った。
「うわー、やっぱり咲希と天音は別格だねー!」
「天羽さんが何でもできるのは知ってましたけど、伊藤さんもこんなにバスケうまかったんですね」
「そりゃそうだよー。だって、うちのエースだもん」
「…………なるほど」
よくないな。同じ生徒会なのに、所属してる部活もろくに知らないとは。
言いぶりからすると井口さんも伊藤さんと同じでバスケ部なのだろう。
ちゃんと覚えておかないと。
「井口さんは参加しなくてよかったんですか?」
「私、マネージャーだよ?」
「……なるほど。……写真撮りましょうか」
もう喋らない方がいいかもしれないね。
死にたくなってきた。
「あはは、全然気にしないで! ……しょうがないんだー。みんな凄いから」
「……あの、ほんとに……。…………」
薄々気づいちゃいたけどめっちゃいい人だな、この人。
そんな善人に気を遣わせているのがものすごく嫌だ。
あまつさえ、そんな善人がへこんでいるのに笑みを顔に張り付けている姿なんてなおのこと嫌だ。
「私だけ、なんにもないからさ。だから、しょうがないんだよ。……へへ」
そんなことない。なんて否定に意味はない。
「……自分の持ってるものなんて案外自分じゃ気づけないことも多いですからね。分からないのはしょうがないと思います」
「……?」
「井口さんは人の良いところ見つけるの凄く上手ですよね」
「え、そんなこと……ないと思うけど……?」
「上手ですよ。だって俺、井口さんが思ってるほど大した人間じゃないですし。……人との距離感とかよく分かんないんです。だから距離を置いてうまくやってる風にしたかっただけなんです。大人びてるとかそんなんじゃないです。興味がないとか覚える意味がないとかそんなんでもないです」
「……私、すぐ顔に出るって言われちゃうんだよねぇ」
ほんの少しバツの悪そうな顔をして冗談めかして井口さんはいつものように笑う。
だから、俺もなるべくいつものようにを意識して口を開く。
「良いことですね。本音を言ってもらえてるんだって信じられる」
「……っ。…………」
「俺は、井口さんのこと凄いって思ってますよ。たぶん、あの二人も」
本音というのは総じて恥ずかしいものだ。
だから、俺は言うだけ言って隣を見ることはできなかった。写真を撮るのに忙しいという素振りを見せて隣を見ることから全力で逃げた。それでも厄介な心の声が俺を辱めるのからは結局逃げられない。
カメラから顔を離すことはできない。舞うようにコートを駆ける伊藤さんの姿も、いっそ神々しさすら感じるほどに綺麗なシュートフォームを見せる天羽さんの姿も、とっくにカメラには収めたけれど。もうしばらく、慣れないことをしたせいで熱が収まらない顔を隠すためにカメラには居てもらわないと困る。
「(……。……ちょっと、ちゃんと仕事しなさいよ記録雑務。あんたの仕事はカウンセラーじゃなくて私を見ておくことでしょう?)」
「……」
なんであんなに動き回りながらこっちの様子まで把握してんだよ。もう優秀とか通り越して普通にちょっと怖いよ。
というかどこから聞いてたの?ことと次第によっては俺死んじゃうけど?




