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「ねぇ音無。ちょっとお願いがあるんだけど」
唐突に、伊藤さんがそう声をかけた。
天羽さんは今日も先生から呼ばれていて、井口さんは補習で少し遅れて、居崎君はなんかよく分からないけどまだ来てない。
そんなわけで二人きりの生徒会室。当然嫌でも声は届くし、言葉にするまでもなく言いたいことは伝わっていた。
「天音がさ、無理しすぎないように見張っておいてほしいの」
どこかバツの悪そうな顔をしているのは、以前天羽さんが体調を崩す原因の一端を作ったのが自分だという自覚があるから。
それでも天羽さんはそれを責めるようなことはしないし、そもそも自分の体調管理が甘かったことに全ての原因はあると考えているので誰にも何の責任も求めない。
それが伊藤さんの自己嫌悪を深め、同時に天羽さんのやり方に口を出しづらくしている。
天羽さんも結局は人間で何でもできるわけじゃないと理解して、理解したがゆえに今度は負い目が言葉を濁らせる。
理解はできる。共感もちょびっとだけならできる。
それはそれとして、だからといって縋る相手をどう考えたって間違えている。
何考えたらこんな端役にそんな重要な大役を任せようと思えるのか。いや、考えてることは聞こえるんだけど。
「……あんた、天音と仲いいでしょ?」
「天羽さんは大概の人と仲いいですよ」
「そうだけど。そうじゃなくて……分かるでしょ?」
もちろん分かる。
意味のない問答だ。分かっている。
「…………天音は、全員と仲良くて、誰とも仲良くないから。……でも、なんか、あんたはちょっと違う」
「……」
なんだかんだ、ちゃんと友達なのだと思う。
迷いといくつかの悪感情、それから微かな祈りにも似た何か。それらを伴った感情が何の捻りもなく真正面から飛んでくる。それを受けながら勝手に彼女らの関係にラベルを貼った。
ドン引きするくらいにぶちギレていることもあるけれど、それで距離ができることもわだかまりが残ることもない。勝手な期待を押し付けることもあるけれど、存外ちゃんと相手のことを見ていて相手の幸せを願っている。
あいにくそういう関係の相手がいないので確証が持てないけれど、きっとこれを世間は友達と呼ぶのだろう。
「……友達だから言いにくいことってありますよね。逆にどうでもいい奴だと言いやすいこととかも。……天羽さんは、友達二人の話をよくしてますよ」
「……」
だから、言わないといけない。
手元に求めているものがあるのに気がつかないなんてそんなのは不幸以外の何物でもないのだから。
「皆に頼るって言ってたんだから、無理やりにでも頼らせたらいいと思います。誰にとかじゃなくて、皆に」
「…………それも、そうね」
「はい。ま、あの人に助けが必要な場面で俺みたいなのが役に立てるかは微妙ですけど」
うまく笑えているだろうか。あまり自信はない。
とはいえ伊藤さんは小さく笑みを浮かべている。なら、たぶん大丈夫だったのだろう。
「……ねぇ、音無。もう一個聞いていい?」
「なんです?」
「……一応、聞いておくんだけど。……付き合ってる、とかはないよね?」
「ないです。マジで」




