野巫の祭 75
野巫の祭 75
話を聞いて全身が泡立った。
「父さんから電話をもらった次の日にプロジェクトの立上げ会議があってね、そこには重役も来ていたんだけど型通りの発表で終わると思ったら、その後に残されたんだよ。」
「ふんふん。そりゃえらいことだな。」
「そう思うよね、普通。」
「そりゃそうだろう。重役のいるところで声がかかるなんてすごいじゃないか。」
「まぁね。さすがに名前呼ばれて残された時には緊張はしたけどさ。」
「そりゃそうだろう。何かの大抜擢になったんじゃないのか。」
「それがね、、、、そうではなくて、、、、それが今でも腑に落ちないような話でさ。」
「一体どう言うことなんだい。」
「いや〜何というか、実は父さんのことを聞かれたんだよね。」
「何だって⋯」
「うん。」
「何で父さんのことなんか⋯」
「いやね、結局のところ何が聞きたかったのかいまいちわからないのさ。」
「さてはて、お前に迷惑がかかるようなことがあったかな。」
「いやいや、そうではないと思うよ。ただ昔父さんが関わったことを知っているようなことを言ってたんだ。」
「へぇ〜何だろうな。でもお前のとこの会社と直接関わるような仕事はしてないけどなぁ。どこかの会議でご一緒した方なのかな。」
「いや、何というか直接知ってる風でもなくてね、父さんは元気か?とか、昔父さんが特別な橋を作ったとか通ったとかね。」
「橋なぁ、橋は別の部署だったから父さんは関わってないんだよなぁ。海外の橋を作ったこともあったが、父さんは全く関わってないからなぁ。」
「ね、だからさ、だから腑に落ちない話なんだよ。」
「まったくな。」
「でね、父さんのことを聞かれて最後によろしく伝えてくれって言われたんだよ。それでてっきり父さんが昔関わったことがあるのかと思って礼を言ったらさ、それで終わりだったんだよ。」
「んっ?どういうことだ。」
「いやね。仕事の話は全くなくて父さんの話だけだったんだ。」
「わからんな。」
「そうでしょう。何で呼び止められたのかもわからないし、話を思い出しても父さんと直接関わっているとしたら当時の話がほんの少しでも出てきていいと思わない。」
「そうだな。」
「そういう何というかな、繋がりみたいな話が無かったんだよね。ただ父さんによろしくって言うだけなら不自然でしょ。」
「不自然、、、、だな。」
「そうなんだよなぁ〜何だったんだろう。」
「橋って言ってたか、橋、橋なぁ、どこか昔旅行先とかでお会いした人なのかなぁ。」
「いや〜そうじゃないと思う。そんな言い方ではなかったから。」
「でも知っていると言うことなのだろう。」
「うん。いや、そう、知ってるって言っていたからね。」
「ふ〜ん。どういう感じで言われたんだ。」
「そうね、まるで有名人の話をしているような感じだったよ。」
「有名人?」
「そう、そんな話ぶりだった。」
「ふ〜ん。で、実際どんなことを言われたのだい。」
「まず俺の上司が重役に紹介してくれてね。」
「うん。」
「それで「君が高瀬君か」って言われて挨拶をして、そうしたらいきなり父さんの話になったんだよ。」
「いきなりって、どんな風に。」
「それが「お父さんはお元気ですか」って、それで「もうお仕事はされてないんだよね」って。だから今は引退してゆっくりしているようです。って答えたんだ。」
「ふんふん。飲み歩いてるの間違いじゃないのか。」
「そんなこと言わないよ。でね、「前とお変わりなく過ごされてるのか」と聞かれたので「昨年秋に母が亡くなりまして、そのすぐ後は気落ちして塞いでおりましたが、年末頃からは元気になりました」って答えたら「ああ、聞いているよ。そうなのか、お母さんが亡くなられてお気落ちをね。いや、それは大変だったね。」ってね。母さんが亡くなったことは上司は知っているけど、人事でもない重役が母さんのことも知っているようだったので、昔の知り合いだと思ってさ、その場はそのまま話し続けたんだよ。」
「母さんのことも知っていたのか。それで。」
「うん。それで「お父さんから橋の話を聞いたことはないか」と聞かれたんだけど、とくに聞いたことはありません。って答えたんだ。仕事の話なのか、別のプライベートのことかもわからなかったしね。」
「ん〜また橋か。」
橋、、、、橋か、、、、、
なんだ、また違和感が胸のあたりをざわつくな。
「そう橋なんだ。それで「君のお父さんは特別な橋を渡った⋯」そうだ、渡ったと言っていた。「君のお父さんは特別な橋を渡った人だから、その時の話を聞くことがあったら是非教えて欲しいな。」って言われたんだよ。」
胸の赤いほくろのあたりから広がるように振動が身体を駆ける。
橋
そういえば窓から入ってきた紙ヒコーキにも似たようなことが書いてあった。
結婚する前に利与の育った家に行った時も橋を渡ったかとしつこく聞かれた。
そして息子の会社の重役が同じ話をしている。
「⋯そう⋯か⋯」
まさかとは思うが、私の前に現れて来た者達が息子の会社にもいるのか。
いや、それとも息子も何かの目当てとなっているのか。
息子はまだ何も知らないようだ。
知らせるべきか。
それとも、黙っておこうか。
「それで「橋の話はなかなか聞けない話なのでね、機会があったら聞いてみなさい」とも言われたよ。父さん、特別な橋って何なの。」
「⋯そう⋯か⋯」
「んっ、父さん、聞いてるかい話。」
「あっ、いゃ〜すまない。と、とりあえず、こちらは心当たりがないなぁ⋯」
「そう、それでね最後に「お体お大事にと伝えてください」って言われたんだよ。やっぱりどこかで知り合ってるんじゃないのかな。」
知り合ってなどいない。
私を、私達を見ている者達の知り合いか、または仲間なのか。
「そ、それ以外は何か言われたか。」
「いや、それで終わりだったんだよ。」
「そうか⋯わかった⋯」
「あっ、やっぱり知ってるの。」
「いや、そうではない。知り合いではなさそうだ。」
「そうか、まぁそうだよね。年齢が近いから昔に知り合ってるかなと思ったけど、人事の資料でも読んだのかな。」
「まあな、新しくプロジェクトに入るのなら会社に調べられていても不思議はないからな。」
「そうだね。今回はかなりの規模のプロジェクトになりそうだから、こちらも気を引き締めてかからないといけないよ。」
「ああ、周りと上手くやっていくんだぞ。」
「ありがとう。そうするよ。あっ、そうそう、周りと言えばさ、重役の秘書なんだけど変わった人なんだよ。」
「へぇ、どんな風にだね。」
「う〜ん、キレイな女性なんだけどね、呼び止められて話をしている間、少し離れたところからずっとこちらを見ていたんだよ。」
「そりゃ秘書なんだから話の邪魔をしないように離れて待っていたのだろう。」
「そういう感じでもなくてさ、ただ見ているっていうか、そう!キレイな顔なんだけどマネキンみたいなんだよ。」
「マネキン?」
「そうなんだ、表情が無いって感じでね。それでもずっとこちらを見ているから、査定通りの人物なのか観察してるみたいでさ。まっ、重役も確かめるつもりで声をかけてくれたのかもしれないしね。」
「⋯なっ⋯⋯」
言葉が出てこない。
なんということだ。
間違いない、息子の、健の周りにも現れているのだ。
全身が泡立ち、背中が凍るように冷たく感じていた。




