野巫の祭 46
野巫の祭 46
鰻を食べた効果がもう出てきたか。
大伴家持の言う通り、夏の暑さに効くのかな。
確かに、さっきから力が湧いてくる訳だ。
鰻、様々⋯なんてな。
列はずいぶん進んできて、もうすぐ建物に入れるぞ。
元気になったとは言っても、さすがに強い陽射しと暑さは避けたいからな。
さて、三人組の会話だが「損」と言うのはどうして出てきたのだったか。
鰻重が手元に出てくるまではあれこれと鰻に期待する話題だったが、食べ始めてからの話が気になったのだった。
そうだ、色々と迷わされるのは損だと言っていた。
由来の話は美味しい鰻を食べるための、何というか、準備運動⋯違うな、そうだ、駅のホームで駅員さんがやる指差し確認のようなもので確認作業なのだと言っていた。
つまりは由来がいくつあって、どれが本当かとあれこれ考えても鰻が美味しいことには変わりがないと。
それを確認するための、言ってみれば美味しく食べるための前菜の様なものだと。
私も聞いていてその通りだなと思った。
この話、一体どこを気になったのだろう。
トクン⋯
今度は少し波動が細かく強い。
と同時に、また視線を感じた。
くそっ、近くに居るのだな。
前か、後ろか。
何のつもりでこんな事を続けるのか全く理解ができない。
外へ出るたびにこの嫌な感じを気にしてなければならないのは不気味だし本当に不愉快だ。
んっ
まてよ。
まてまて。
「損」?
「美味い」?
「真実」?
トクン⋯
何だ?
あと少しで何かが合致しそうな⋯
会話を聞いていた時に気になったのは鰻が美味いということではなかった。
それは私も素直に納得していたし。
ではどこに感じたんだろう、あの心の中に絡んだ紐を摘まれるようなものを。
そうだ。
あの一番早くに食べ終わった人が言っていた。
「食べるときは食べることに集中しろ」と。
あとなんと言っていたか。
んっ⋯
そう⋯
「考えすぎだ⋯」
と。
何を考えすぎだったか。
それではないか。
いや、それも含めてか。
流れだ。
流れを思い出せれば。
ドクンッ!
胸が激しく波打った。
「痛う⋯」
小さく声が出てしまう。
途端に、あの時の景色と会話が頭の中で不揃いだが古い8ミリ映像のように連続してよみがえる。
そう⋯か⋯。
今の自分に当てはまっていたのだな。
話していることは鰻の事だったが、その振り回される様子は、違和感や視線に気がついてから自分に起こっていることを認めようとせず足掻いていた自分に重なって感じたのだ。
「見られている」
あの冷たい視線で。
まずそれを認めて心しよう。
きっと今もどこかから見ているはずなのだ。
認めたらあらためて状況を考えよう。
相手が誰なのかはわからないし、心当たりも全く無い。
見ている者達と、直接接触してきた者達が仲間なのかもわからない。
胸に残っている血豆というかアザというか⋯これもなぜこのようにされたのかわからない。
攻撃だったのか?
攻撃だとしては中途半端だ。
それとも何かの跡を残していったのか?
監視のような視線を向けていて更に跡も残していくというのか。
そもそも接触したいのか、観察がしたいのかもわからない。
それでだ。
わからないことに気をとられて怯えている自分も何なのか?
相手もわからず、目的もわからず、身に覚えも無い。
不気味ではあるが怯えていても仕方がないではないか。
私が気にしようがしまいが「奴ら」は勝手に動いている。
だったら向こうから来るまでこちらはいつも通りにしていればいい。
次に接触してきた時には目的を問いただしてやる。
いや
そもそもなぜ私なのか。
奴らが何者で、私とどんな関わりがあるのか、私の方には心当たりが無いのだから。
心配しても、足掻いてみても、私一人の空回りで、あるであろう一つの真実が今はわからない。
気がつけば特別展がやっている平成館の入口まで来ていた。
段を上がり大きな扉を抜けると館内の冷気が体を包み、体表の温度を一気に下げていった。




