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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 38

野巫の祭 38



正月の穏やかな景色の中、遠巻きにではあるがこちらを無表情で見ている者がいた。

どこまでも冷たい視線で。


その者だけ空気が違うし時間の流れまで違うように感じさせる。


ページをめくると近所の神社で初詣の写真だ。


参道の周りには不自然に立ちつくし無表情の冷たい目をした者が私たち家族を取り囲むようにして写真に写っている。


ベッドの脇にある伊勢神宮で撮った妻の写真のように、取り囲んだ者達が周りの動きと関係なく監視カメラのように立っているのだ。


恐ろしいことだ。

この者達に見覚えは全くない。

一体どこから来て、何の目的でここにいるのか。


またアルバムのページをめくる。


またアルバムのページをめくる。


ページをめくる。


行事や旅行など外で撮った写真には必ずといって写っている。


「間違いではないのだな⋯」


ため息とともに呟くと何かしら張りつめていたものが緩んだように感じた。


理解は出来ないが事実として受け止めなければならないことなのだと。


右手でアルバムを閉じながら左手の親指と人差し指で両目をつまむようにしてしばらく揉む。


どれくらいの時間が過ぎたのか時間の感覚が分からない。

いや、時間の感覚が無いのはもうずいぶん前からか。


エアコンのおかげで汗はさほど出てはいないが喉がカラカラだ。

台所へ麦茶をとりにいこうと立ち上がりベットの横の時計を見るとすでに9時を過ぎていた。


「こんな時間か⋯」


麦茶を一杯ぐっと飲み干してアルバムをいったん片付ける。

すぐ見直す気にはなれないので一度箱に入れて押入れに戻した。


何かすることがあったな。

いや、何かをしていないと不安で仕方がない。

そうだ、役場に電話をするんだった。

夢中で写真を見ている間にちょうどよい時間になっていた。


昨晩に向こうから連絡があったのはどうしたものだったのかな。

とりあえず電話をしてみよう。

電話を⋯っと


ベットの脇に置いてある携帯電話をとり、リダイアルを見て昨日の電話番号へかける。


2回ほどの呼び出し音が鳴ってつながった。


「もしもし、浪江町役場双葉町出張所です。」


「おはようございます。実は昨晩にそちらからお電話を頂いたようなのですが出られなかったもので何かなと思いましてね。」


「ああ、そうだったのですね。失礼ですがお名前を伺ってもよろしいですか。」


「はい。東京の高瀬と言います。卒業はしてないのですが、浪江町の大堀小学校に通っていたので、当時の同級生達はどうしたか聞きたいのですが。」


「なるほどです。誰がご連絡をしたのか今ちょっとわかりませんが、私の方で何か伺えることはありますでしょうか。」


「ええ、お願いしたいのですが大堀小学校に通っていた人達はどこの避難所へ行っているのでしょうか。」


「ん〜大堀小学校だけで探すとなると方々へ広がってしまうと思われます。正直申しますとそのくくりで探されてもどなたか個人へたどり着くまで大変です。個人のお名前や年齢から探されてみてはいかがでしょうか。」


「それが小学校の低学年で引っ越してしまい、その後は戻ったことがないので同級生達の名前もほとんど覚えていないのです。」


「そうですか⋯。では覚えてらっしゃる方のお名前で探してみましょう。できればフルネームで覚えておられる方はいらっしゃいますか。」


「そ、それが、愛称は何人か覚えていますが名前を覚えてる人はいません⋯」


「そうですか、では生まれ年で同じ大堀小学校の方を探してみましょう。お生まれの年を教えて下さい。」


「昭和20年生まれの学年です。」


「えっ、20年。お声が若く聞こえたもので勘違いしてしまいました。そうですか20年のお生まれでしたか。そうなると少しお時間を頂くことになってもよろしいですか。」


「かまいません。時間はたくさんあるのです。それより昨日ホームページを見させてもらったのですが、そういった情報をFAXで教えてもらうことができると。」


「ええ、そうなんですよ、こちらも手が足りていなくて⋯って言い訳にはならないんですが。電話やメールでの作業が間に合っておりませんで今はFAXで情報を送らせてもらっているのです。」


「いやいや大変だと思います。」


「ありがとうございます。お電話番号を登録して頂くと関連したもの、あるいは新しくまとめた情報などをFAXでお知らせできます。」


「大堀小学校の情報は⋯」


「今お知らせできるものに生まれ年と出身学校が書かれている避難所ごとの一覧表がありますので、とりあえずそちらをお送りしますか。」


「お願いします。あっ、ごめんなさいFAXこれからつなげるので明日に送ってもらってよいでしょうか。」


「高瀬さん、ご心配なく。こちらもそんなに早くは動けないのです。そのくらいの時間にはなってしまうと思いますし、一度送っても受取りがなければ再度送らせてもらっていますので逆に高瀬さんの方でもゆっくりお待ちいただけると助かります。」


「わかりました。それでは登録してもらえますか。」


「ありがとうございます。それではFAX番号とお家の電話番号、それとお使いになられている携帯電話の番号を教えて下さい。」


これから各電話番号と氏名に住所、生年月日など登録してもらって連絡を待つことにする。


「ああ、高瀬さん。これから準備が出来次第にはなりますが、FAXでのご連絡はメールでのご連絡に変わっていくことになるでしょう。はじめに送らせてもらうFAXに高瀬さんの登録番号が書いてありますので、使えるメールアドレスがあれば登録番号と一緒に書いて返信して頂けば登録情報にメールアドレスを入れておきます。」


「そうですか、わかりました。では送られてきたFAXに書き込んでそのまま返信させてもらいます。」


「他に何かご不明なことなどございますか。」


「いえ、ひとまずは送られてくる情報を

待たせてもらいます。」


「はい、では登録しておきますが高瀬さんの方でも何か情報がありましたら、どんな些細な事でもかまいませんので役場へ教えて下さいね。」


「わかりました、色々とありがとうございます。」


「いえいえ、こちらこそです。ありがとうございます。失礼致します。」


「はい、失礼致します。」


ひとまずはこれで現地の情報が手に入るようになるだろう。

そういえば昨日の夜に電話があったことは何も聞けなかったな。

まぁいいか。


さて、とりあえず落ち着いて日常を取り戻さなければ。

理解できないことは出来ないままで仕方がない。

わかっていること、出来ることから少しでもわからないことが分かっていけるようにしていかなくては。


電話を置いて、右手を胸のアザのところへ当てて深く息をする。




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