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野巫の祭  作者: 凡栄
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37/81

野巫の祭 37

野巫の祭 37


しばらくの間、並べたアルバムを眺めていた。

開けるのにやはり抵抗を感じる。

昨日の出来事などが繋がっていってしまうのではないかという怖さもある。

とは言っても見なければ始まりもしない。


昨日は披露宴のところでこちらを見る男を見つけたが、あの男は一体誰だったのか⋯。


それ以前の写真にはいなかったはずだが、続きから順に追っていくべきか。

そう言えば山口からの電話で途中になってしまったんだったな。


またも昨日の事がグルグルと思い返され頭が重くなる。

どう考えても今自分の身に起こっている事がわからない。


昨日一日


たった一日


これまでの人生からすればごく僅かな時間で余りにもいろんな事が起こり過ぎだ。

しかも原因も関係も全くわからない。


背中に冷たいものを感じながら、恐る恐るアルバムを開く。


写真は少ない方だと思う。

妻が亡くなり、引越しをするときに整理もしたので手元にあるのは11冊だけだ。

子供が生まれる前は1冊と半分。

あとは全て子供が生まれてからのもの。


昨日の披露宴から続きを見ていくが、息子が生まれて娘が生まれ少ないアルバムもスカスカだったページがギッシリと埋まったページになっていく。


幼稚園の入園式

遠足

運動会


ゆっくりと、しかし確実に一枚一枚を確認しながら進んでいく。


息子の小学校入学式


いないな⋯


披露宴にいた男が誰なのかはわからないままだが、あの視線を送る者は出てこない。

あの男だけが偶然にこちらを向いていただけだったのか?


遠足

運動会


そして娘も小学校の入学式となる。


遠足

運動会


ページをめくる右手がひきつるように止まった。


いた⋯あの目線だ!


娘の徒競走の時だ。

運動場のコースの曲がり角、娘と一緒に走っている子供達が体を斜めに傾けている写真。

撮っているのはおそらく私だが隣には妻も立っていただろう。

観客や他の児童たちが走る娘達を見ている中で一人だけカメラを、私達を見ている者がいた。

徒競走に声援を送る子供達や一生懸命に走る子供達を、その成長を喜ぶように笑顔で見つめる大人達の中で、直立不動で無表情のままこちらを見ている者がいる。

今度は女だ。

その女の周りだけ運動会の空気ではない。

まるで運動会の音も熱気もそこだけ別にガラスの箱で囲まれているかのように伝わっていないようにすら見える。

そして披露宴の男の様に冷たい観察者の目。

何度見直しても明らかにその場にそぐわない。


不自然なのだ。


場所は学校で運動会の真っ最中に気配を消すかのように無表情で立つ姿は不自然であり不気味としか言いようがない。


写真を撮っていることはわかっているはず。

写真に写っていることはわかっているはず。


それでもこちらを向いて観察するような視線を送るというのは自分の存在が見つからないとでも思っているのか。

いや、実際わからないでいたのだ。

気付かずにこれまでいたのだ。


「くっ⋯」


下唇を噛み締めた時には不気味さを怖れる気持ちよりも悔しさとも怒りとも、あるいは両方か混ざったような心持ちになっていた。


他にはいないか!


目の前に並ぶ写真を見る目に力が入る。

こめかみに血管が浮き出るのを感じる。


ドクン⋯


胸のアザの辺りが脈打つようになり、一瞬だが視界も二重三重に目の前にある写真が重なり合ったように見えた。


なんだ⋯


妙な感じだ。

まだ他にもいる。

あの目をしている者がまだいる。

そう強く感じたのだ。


どこにいる。

どこにいる!


力が入ったままの目は目の前の写真に写る人達の群れを流れるように探して回りページをめくっていく。

すぐに運動会の写真が終わり、正月になった。

この頃に住んでいた集合住宅の前で並んで撮った写真や、ご近所の子供達と一緒になって遊ぶ子供達が写るもの。

のどかな正月の景色がそこにはあった。


トクン⋯


また胸のアザの辺りが脈打った。





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