野巫の祭 33
野巫の祭 33
「くぅ〜⋯ガッ⋯」
嗚咽とともに顔から床へと涙が落ちていく。
身体が震えてきて、どうしょうもない孤独感に押しつぶされるようだ。
どんなに泣いても、どれだけ苦しさを訴えても、写真の中の妻が、利与が現れることは無い。
そんな事は解っている。
解っているさ。
どうして俺一人置いて先に逝ってしまったのか。
この時ばかりは寂しさや悲しさだけでなく、置いていかれた事への恨みが湧き上がって仕方がなくなっていた。
「どう⋯してだよ⋯」
流れる涙を拭う事もなく、倒れた時に曲がったままの脚を伸ばそうともせず、力無く涙で歪んだ天井を見つめていた。
悔しい!
何故このような気持ちにならなければならない。
本当なら今頃は家を改築して一階だけで生活できるようにして、広くしたリビングで次の旅行の予定などを二人で話しているはずだった。
小さいけれど妻がよく耕した家庭菜園で採れた茄子や胡瓜の出来栄えを毎日喜んで、次は何を作ろうかとそれらを食べながら考えていたはずだった。
近くの公園や河原に散歩しながら、咲く花や、ツバメが飛んでいるのを見て一年が早いね、などと一緒に笑っているはずだったんだ。
何で俺は一人きりで生きているんだろう。
妻のいない部屋の中で笑うことも忘れ、喜ぶことも無く、悲しんでも辛くても、それを伝える相手がいない。
ここには何も無いんだ。
こうして倒れていたって誰かが起こしてくれることも無い。
挙げ句の果てには誰かに監視されるようなことになっていたとは。
静かに暮らしていたのに、出来るだけ感情を動かさないように、この一人でいることを考えないように、出来るだけ静かにしていたのに。
なぜ今になっておかしなことが自分に降りかかってくるのか。
今日のあいつらは一体何なんだ。
俺が何をしたと言うんだ。
放っておいてくれよ!
なぜ俺に突っかかってくるんだ。
ズキッ!
また胸に痛みが走る。
ガバッと身体を起こして洗面台へ走る。
胸にはクッキリと赤いアザ。
「ちっくしょう⋯」
これは何だ。
何なんだ?
わからない
わからない
わからない
もう何もかも嫌だ!
「利与⋯俺もそっちに行きたいよ⋯」
それを口に出した途端、止まりかけていた涙がまた溢れてくる。
泣きながらベットへ行き、そのまま倒れこんだ。
寂しい。
どうしょうもなく寂しい。
ベットの脇の妻の写真をひったくるようにして胸に抱えて、そのまま身体を横にして膝を抱えるように丸くなる。
両手で抱えた写真を胸に押し付けた瞬間。
ジュウ〜⋯!
っという音とともに胸が焼けるように熱くなった。
「あっつ!」
胸を手で叩きながら身体を揺する。
まるでアザが燃えているようだ。
「あ⋯熱い!熱い!助けて!誰か⋯」
ベットから起きようとするが脚が動かない。
「た、助けて!誰か⋯」
泣きながら絞り出すように言うが、声もだんだんと出なくなっていた。
何を言っても、どこを見ても、誰も居ないのだ。
もうダメか⋯と思った時
(大丈夫⋯)
頭の中にそう囁かれた気がした。
「えっ⋯」
焼けるような痛みの中で声がもれた。
すると胸の熱さがさらに強くなり
「ひっ⋯ひぃい〜⋯」
かすれるような悲鳴を上げていた。
と、同時に頭を上げて胸に目をやると赤いアザがみるみるうちに縮んでいく。
熱さはどんどん強くなる。
「し⋯死ぬぅ⋯」
その瞬間、胸の熱さは最高に達した。
あまりの熱さと痛みで意識が遠のいていく。
死ぬんだ⋯
薄れる意識の中で天井に輝く点が見えた。
その点から
(大丈夫よ⋯あなた⋯)
利与か?
その声は利与の声に聞こえたのだ。
しかし、頭を突き抜けるような痛みと胸を焦がすような熱さで、そのままベットの上で気絶してしまった。




