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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 32

野巫の祭 32




「んっ?」

目を下に向けると爪先で何か紙くずを踏んでしまっていた。

何か出しっぱなしにしてたかな。

「いけない、いけない。」

そう言いながら足を避けてちゃぶ台に麦茶を置き、写真の妻に向かって

「ただいま。今日はおかしな1日だったよ。お前なら何が起こっているのか分かるのかな⋯」

そう言ってベッドに腰掛けた。

まだ胸がチクチクと痛みむので軽く触れながら

「ほら、見てみなよこれ。一体何故こんな目にあうんだかな。」

写真の中で笑顔のままの妻は何も答えない。

ちゃぶ台の上に置いた麦茶を飲もうと手を伸ばすと、さっきの紙くずが目に入った。

「いけない、何を踏んづけたのかな?」

どっこいせと腰を上げて紙くずを拾おうとすると、踏まれて潰れてはいるがそれは紙飛行機のようだった。

「んっ?紙飛行機⋯?」

拾い上げると確かに紙飛行機だ。

なぜ、こんなものがここに⋯

開けっ放しになっていたら窓から入って来たのか⋯?

窓まで行き下を見る。

当たり前だが5階だとかなりの高さになる。

下から投げたものがこの部屋へ入ったというのは考えにくいな。

並びか上の階の子供が投げたものが入って来たのかもしれない。

まぁ、何にしても紙飛行機なんてずいぶんと見ていなかったな。

折り方は昔から変わらないものらしい。

捨ててしまうのも気がひけるので、明日にでも管理室へ届けようと玄関に置きに行こうとすると、紙飛行機の中に何か書いてある。

「おやっ?」

いけないとは思ったが、何が書いてあるのかとカサカサ紙飛行機を開いていく。

文字だな⋯

どれどれ⋯

そこに書いてあったのは

「橋を渡れ天火明命」

何だろう?

ふ〜ん⋯

何かの謎かけか?

まぁいい、明日にでも届けておこう。

玄関に置こうと台所へ来て買物が出しっぱなしになっているのに気がついた。

「ありゃりゃ、これもいかんな。」

晩飯兼のツマミとなんちゃってビールがテーブルの上に乗せたままだ。

「もうぬるくなってるかな。」

なんちゃってビールを掴むと室温と同じになっている。

あ〜ぁ⋯。

仕方がない。

それに今夜はもう飲む気にはなれないから全て冷蔵庫に入れておこう。

スーパーの袋を持ち上げたその時。

妻がいなくなってから今まで味わったことのない脅迫のような孤独感が襲ってきた。

なぜ?自分はこんな事をしているのか?

なぜ?自分にこんな事が起きるのか?

なぜ?この気持ちを伝える相手がいないのか?

なぜ?一番見たい顔は写真の中なのか?

なぜ?自分はここにいるのか?

なぜ?自分はまだ生きているのか?

なぜ?

なぜ?

なぜ?

なぜなんだ!

なぜ?

私はここで一人でいるんだ!

笑うことも無く

怒ることも無く

話すことも無く

喜ぶことも無く

なぜ?

この空間で、こんな思いをしなければならないのか!

なぜなんだ!

私の中で何かが破裂しそうになっていた。

「ふぐっ⋯ぐうぅ〜⋯」

涙が溢れて、汗で濡れた顔の上を流れていく。

「あ"あ"ぁ"⋯」

糸の切れた操り人形のようにテーブルの脇に崩れ落ちた。






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