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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 31

野巫の祭 31



頭の先から爪先まで悪寒が走る。

違和感以上、恐怖のような感覚。

同時に人の気配を強く感じて、何か巨大な目に見つめられているような。

どこからだ?

顔を上げると明るいコンビニエンスストアの店内が見える。

その瞬間。

身体が揺れるほど驚いた。

コンビニエンスストアのガラスの向こうに、さっきの女の子達グループで最後に出ていったあの「またね⋯」と呟いた子がこちらを見ていた。

目が合った途端に唇が動き出した。

「モレヤ⋯」

なぜかそう言ったように感じた。

いや!違う!

聞こえたぞ!

前じゃない!

後ろだ!

ガラスの向こうではなく、私の真後ろにいて一緒にガラスに写ってるんだ!

自分の身体ではないような速さで後ろを振り返る。

彼女の頭と私の顔がぶつかるような距離になり、心は驚いているのだが何故か身体は引く事を拒否してさらに前のめりになる。

覗き込むようにして目を合わせると秋葉原のおばあちゃんと同じ様に目を引き攣らせてこちらを見ている。

とても人のものとは思えないその目。

そして彼女の唇が動いた。

「モレヤ⋯」

「も、モレヤ?」

確認のため繰り返すが、何のことだ?

「モレヤ⋯また⋯合う⋯」

また合う?

「な、何を言ってるんだ君は?」

私の言葉を聞いていないかのように、彼女の右手がスゥ〜っと上がってきて、手のひらを立てた状態で私の胸に当ててきた。

「また合う⋯それまで⋯これを⋯」

彼女の右手が震えた様に見えたその瞬間、熱の様な痛みを胸に感じた。

「あ⋯痛ぅっ!」

弾かれる様に2〜3歩下がり、あまりの痛さにうずくまる。

まるで何匹もの蜂にいっぺんに刺されたような痛みに息も上がって苦しい。

ほんの少しの時間だったはずだが、胸を押さえて背中を丸くしなければ辛いほど痛みを感じていた。

「な、何をするんだ!」

そう言いながら顔を上げると、目の前にいた彼女の姿は無くなっていた。

通りの両側や向かい側も目を向けたが、まるで消えるよう⋯というか始めから居なかったかのように。

「どういうことだ⋯⋯痛ぅっ!」

波のように痛みが襲って来て、また胸を押さえてうずくまる。

胸の痛みは間違いない。

でも彼女の姿は無くなってしまった。

気配すら残っていない。

一体あの子は何者だったのか?

いや「あの子達」は何者だったのだ?

痛みが治まらないまま、フラフラと部屋に向かって歩いて行く。

国際通りをどうにか渡り、角の小さな交番の前まで来ると、中の若いお巡りさんがこちらの様子を見ていて交番から出てきた。

「どうしましたか?大丈夫ですか?」

説明するのも面倒だし、早く部屋に戻りたい。

「ありがとう⋯だ、大丈夫⋯」

「本当に大丈夫ですか?」

「あぁ、もうすぐ⋯そこが家なんだよ⋯大丈夫。」

「そうですか⋯お気をつけておかえり下さいね。」

「ありがとう⋯うっ!」

また痛みが激しくなった。

「辛そうですよ、家まで一緒に行きましょう。どこですか。」

「すぐそこ⋯本願寺の裏なんだ⋯」

「あぁすぐですね。わかりました。つかまって下さい。」

そう言うと、中にいた年配のお巡りさんに声をかけて二人で私の肩を抱える様にして支えてくれた。

「す⋯すまないね。」

マンションの場所を伝えて息を整えながら三人でマンションの入口までかなりの時間をかけたがたどり着けた。

「このまま部屋まで行きましょう。」

若い方のお巡りさんが言ってくれたが

「もう大丈夫ですよ⋯助かりました。」

絞り出すように言うが、念のためと二人ともエレベーターに乗り部屋の前まで来てくれた。

「ありがとう⋯本当に助かりました。」

「いえ、どうぞお部屋に入って下さい。」

鍵をズボンの左前のポケットから取り出し扉を開ける。

「念のために朝になったら病院へ行って診てもらった方が良いでしょう。無理せず容態が悪くなるようなら救急車を呼んで下さいね。」

年配のお巡りさんが肩に手を乗せながら言ってくれた。

「それでは我々はこれで失礼いたします。」

「お大事にして下さい。」

そう言うと二人は戻っていった。

礼を言いたかったが、首を傾げるのがやっとで二人を見送ることも出来ずに扉を閉めて床に転がるように倒れ込んだ。

明かりを点けたままにしておいてよかった。

見上げる壁のスイッチはとても遠くに見えたから。

しばらく横になっていたら少し痛みが楽になってきた。

いつまでも転がっている訳にもいかないので何とか身体を起こして洗面台へ行こうとして気が付いたが窓が開けっ放しのままだ。

暑くないのはいいが不用心だったな。

とは言え、一軒家とは違ってここは5階だからそれほど心配もないし、狙われるような物も無い⋯か。

笑えもしないが、少しずつ身体も楽になり、すっかり息も整ってきた。

鏡の前に立ちシャツを脱ぐと胸は赤いアザのように染まっていた。

「くっ⋯」

一体何が起こっているというのだ。

今日一日にあったことが夢のようで信じられない。

台所で麦茶を入れて寝床のちゃぶ台の所へ行くと

カサッ⋯

足先に何かが当たった。









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