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野巫の祭  作者: 凡栄
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野巫の祭 30

野巫の祭 30



「作さんの家はどっちだい?」

「んっ?あぁ、ここからは右へまっすぐだ。」

「んじゃぁ俺とは反対だな。ここで別れよう。」

「そうだな⋯あぁ山さん。」

「何だい?」

「さっきの女の子達だがな、こちらに挨拶してくれたよな。」

「あぁそうだな。」

「あの時、何か⋯変というか⋯余計なことを言っていなかったか?」

「ん〜?いや、俺には聞こえなかったな。やっぱりあの最後の子と何かあったのかよ?」

「えっ?あぁ違う違う、あの子ではなくてな、ほれ、お店を手伝っていた元気の良い子がいたろ。」

「ああ、あの子な!店の人かと思ってたら違ってたのな〜、びっくりしたぜ。」

「そうそう、あの子が帰り際にこちらに声をかけてくれたじゃないか。」

「おう、そうだった。」

「あの時にさ、何か言ってたろ?」

「何を?」

「何を?って、それがわからないから聞いてるんだよ。」

「何を〜?って⋯ん〜⋯おじさま、またね〜って言ってたじゃないか。」

「そうそう、その時に何かさ、何か頭に付いてたろ?その前にさ。」

「え〜?何か言ってたか?」

「そうなんだよ、それが何を言ってたのかわからんのだよ。」

「挨拶だろ?」

「その挨拶の前にさ、何か言ったろ?」

「え〜〜⋯?ん〜⋯?名前を呼んだんじゃねぇか〜?」

「誰のよ?」

「だな?」

「俺じゃないし、山さんでもなかったよな?」

「そう⋯だな⋯」

「何を言ったのかな?」

「わっかんねーなー。」

「そうなんだよな、わかんないんだよ。」

「それで?それが何か気になるのか?」

「そうなんだよ。」

「どうしてよ?」

「だって我々に向かって言ってたろ?」

「ああ⋯」

「でも我々の名前を呼んだんではなかったよな?」

「ああ⋯」

「でも我々を見て挨拶してただろ?」

「ああ⋯」

「何て言ったのかな?」

「作さんよ、俺はてっきりあの子達はお前さんの知合いだと思ったぜ。だから俺にはわからなかったけど、作さんにはわかる何かを言ったんだと思ったよ。」

「な、何で俺の知合いだと?」

「いや、さっきも言ったけどさ、最後にいた子が作さんに何かを言ってたろ?あれでさ〜知合いなのかと⋯っというか変な勘繰りだが、あの子と何かあったのかな⋯ってな。」

「バカなこと言うなよ!本気で怒るぞ!あの子達は我々にとっちゃ孫みたいな年頃だったじゃないかよ!」

「んじゃぁあの最後の子は作さんに何て言ったんだよ。」

「いや⋯それもわからんのだよ。」

「お前さんに向かって言ってたんだろ?」

「それもよくわからん。」

「作さんの言う事はわからん事ばかりだな〜。」

「ん〜何を言ったんだろな〜」

「ん〜作さんの名前でもないし、俺の名前でもないし、でも何か名前のようなものだったよなぁ。」

「そう、やまぐち〜⋯みたいなさ。」

「いやぁ〜そんなに長くなかったろ?」

「でも、たかせ〜⋯でもなかったよな。」

「ああ⋯」

「やまさーん、とか、さくさーん、とかでもなかったよな。」

「あぁ、違うな。」

「じゃあ⋯」

「ちょっと待て、ん〜⋯っと、そうだ!〜のおじさま〜⋯だよ!」

「あ〜そうだ!それそれ!何だったっけ?」

「だから知らんて!」

「山口のおじさま〜⋯、山さんのおじさま〜⋯違うなぁ〜」

「おい!何で俺の名前になってるんだよ!作さんよ!」

「いや、何となくな。俺の名前ではなかったし。」

「おい!俺の名前でもなかっだろよ!」

「だよなぁ〜。我々の名前ではなかったよな〜。」

「いや、待て⋯名前だよ。名前だった!」

「何て?」

「それは〜⋯、何て言ったんだろなぁ⋯」

「んん〜⋯」

「わからん!もうわからん!」

「あぁ、すまないな、変な事を言って引き留めてしまったな。」

「本当に変なことを気にするなー!」

「いや、すまない、すまない。」

何とも消化不良なのだがこのまま立ち話で引き留めても悪いなと思い、切り上げようとした時

「作さんよ、やっぱり様子が気になるよ。さっきは女の子達のおかげで話が逸れてしまったがな。あの直前、俺の話を聞いていなかっただろう。あの女の子達を見る目はちょっと怖かったぞ。一体何があったんだよ。」

気付いていたか⋯

「山さん⋯」

その後の言葉が出てこない。

「作さん、今は話せないのかもしれないが、キチンと聞かせてくれ。とりあえず今夜はこれで帰る。だかな、このままでは気になるんだよ。次に会う時には話してもらえるかい?」

一つ大きく深呼吸をしてみた。

「ふぅ〜。俺も色々と聞いてもらいたいことがあるんだ⋯」

そう言うと、すかさず山口が聞いてきた。

「女か?やっはり!」

「いや、違う⋯⋯いや、わからないんだよ、それすらもね。」

「どういうことなんだ?」

「今、自分に起きていることが何なのかがわからないんだ。どう説明したらいいのかもわからない。」

「ふぅ〜ん⋯何かのトラブルとかに巻き込まれているんじゃないのか?」

「それが⋯わからないんだよ。どう言えばいいのか分からないんだ。本当だ。」

「ふぅ〜ん⋯それではこちらとしても話の聞きようが無いんだが⋯。」

爺様二人が腕組みをしながら考え込んでいた。

ため息を吐きながら山口が言ってきた。

「あのな、心配だが話が進まなそうだ。今夜は一旦お開きにしよう。来週、来週もう一度会おう。その時にちゃんと話をしてくれ。こちらもちゃんと聞く。どうだい。」

「わかった、ありがとう。それまでに説明できるようにしておく。」

「こちらはいつでも大丈夫なんだが、いつにするかは電話で決めよう。声だけでも様子も知りたいしな。」

「あぁ、そうしよう。今夜も変な空気になってしまってすまないな。」

「なに、気にすんなよ⋯」

言ったきり下を向いた。

今度はこちらがどうしたのかと心配になり、覗き込みながら

「山さん⋯」

と、言った途端にガバッと顔を上げ、そのまま両肩に手を乗せてきて

「こっちは好奇心が9割だぜー!あっはっはっはっはっ!」

いつものとぼけた笑いで空気を変えてくれた。

胸の中でありがとうと何度も言ったが言葉にはならなかった。

うん、うん、と山口の目を見ながら首を小さく頷ける。

「次はちゃんと話を聞かせてくれよな!じゃあな!」

そう言って右手を上げて駅へと歩き出した。

「山さん!ありがとうな!」

背中に向かって叫ぶと、上半身だけこちらを向いて

「おーぅ!」

笑いながらそう言って、駅へと歩いて行った。

「ありがとう⋯」

小さく呟き、こちらも部屋へと向かって歩き始める。

少し歩いてオレンジ通りを越えた途端に一瞬、目の前の景色がグニャリと歪んで立ち止まる。

酔ったかな?

違うな⋯頭の中で妙な違和感が走る。

視線ではないな⋯

そう、視線を感じてるのではない。

何かこう⋯

さっきの女の子が振り向きざまに言った言葉が頭の中で出てきそうで出てこない。

それが頭の中でグルグルと回って、目の前の景色のようだ。

何を言っていたのだろうか?

ダメだ、思い出せない。

何か名前のようなものを頭に付けていたのだが⋯。

それが気になり、足取りが重く感じてコンビニエンスストアの前でふっと足元を眺めていた。

その時だった。








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