野巫の祭 29
野巫の祭 29
テントから全員が出たところで先頭にいた店員だった女の子がくるりと体をひるがえしてこちらに向かって2〜3歩近づき
「モレヤのおじさま〜、またね〜!」
と叫ぶと後ろにいた6人も揃って
「またね〜!」
と手を振りだした。
全員が手を振り、口元は笑っているのだが「目」が笑っていない。
あの目だ。
全員があの目をしている。
異様としか言えない姿だった。
周りからすれば爺様に若い子達が手を振っているのだから微笑ましく見えるのかもしれない。
だが誰があの目に気づくだろう。
静かな冷たい目に。
うすら寒い思いで声は出ず、手などもちろん振れはしない。
「うおーい!またなー!」
背中から大きな声が響いた。
振り返ると山口が笑顔で両手を振っている。
「変な奴らに絡まれないように気をつけて帰るんだぞー!」
山口が続けて叫んだ。
また振り返り彼女達を見ると冷たい目は無くなり、若者らしい爽やかな笑顔で手を振っていた。
そして皆口々に
「おじさまー、ありがとー!」
「ありがとー」
「お休みなさーい」
「さよならー」
そう言って手を振りながら仲見世の方へ歩いていった。
後ろから肩をドンッと突かれ、何事かと振り返るとニッコニコ顏の山口が
「いーよなー!若いってのはさー!えぇーおい!作さん!いいねぇー!」
こちらの気も知らず、まだ彼女達を目で追っていた。
私の方は何が自分に起こっているのかわからない。
周りにいる人達は今の彼女達の行動と表情に気が付いていないのか、手を振ってニコニコ顏の山口を見て笑っていて不思議そうにしている者はいない。
私にだけ見えているものがある。
私だけが気付いていることがある。
これだけ人混みの中にいても孤独感や不安感は感じるものなのだな。
山口が笑いながら私の肩をバシバシと叩いた。
「痛いよ山さん⋯」
私が今感じていることを伝えるのは諦めた。
「いゃあ〜今夜は思い切って出てきてよかったわ〜!」
「あのな、山さん⋯」
「わかったよ作さん!こういう出会いもあるんだな!毎日飲みに行くのもわかるわぁ〜。けど深入りしちゃ〜ダメだぞ〜!はっはっはっはっ!」
「違うよ、山さん⋯」
「まぁ何だ!我々もまだまだ捨てたもんじゃないってことか、はっはっはっ!」
「いや、あのな山さん⋯」
「でもな、誰かに本当に深入りしちゃ〜ダメだ!それだけは言っておく!」
こちらを見て真顔で言ってきた。
「いや、違うんだよ、山さん。」
「何だよ〜さっきから歯切れが悪いなぁ〜。何だ?さっきの一番最後に出ていった子となんかあるのか?」
またもビクッとする。
「いや⋯」
「だから何だよ?どうしたんだ?様子がおかしいぞ?」
全くだ、自分でもおかしいと思う。
「いや、全くだ!若いってのはいいなぁ!元気をもらえるってものだ!」
精一杯のセリフだった。
「おっ!何だよ!まんざらでもないって顔だなぁ!」
誤解だよ⋯山さん⋯。
「いやいや、しかし何だな、あんな若い子だけでこういう屋台に飲みに来るのだな。時代が変わったということかね。」
「今はどこに行ってもそれを感じるよ⋯昭和は遠くになりにけり⋯だなぁ!」
「はっはっはっ、本当だね山さん。」
「はっはっはっ⋯」
「なぁ山さん、そろそろお店が終わりみたいだ。我々も今夜は引揚げるとしよう。」
「そうしよう!いつもよりはだいぶ飲んだからな!お前さんが来る前に一杯やってるしな!はっはっはっ!」
「そうだったのかい。俺も山さんと会う前に少しやっていたんだよ。」
「じゃあ帰るか!」
「ああ⋯」
そう言って二人で席を立つ。
お店の人に挨拶をして二人で外へ出た。
歩きやすくなった仲見世を通ってブラブラと雷門まで歩き、雷門をくぐったところで山口が言ってきた。




