野巫の祭 28
野巫の祭 28
目を向けた先には、だいぶ人気が少なくなったテントの中で若い女の子ばかり6人のグループが座っていた。
その端に座っている女の子が今、確かにこちらを見ていて、一瞬だが目が合ったのだ。
今はもう皆でおしゃべりをしているが、その姿はごく普通の若い女の子達へと戻っている。
それが目に焼き付いた残像とあまりに違う。
こちらを見ていた時、目が合った瞬間の顔には表情が無かったように見えたからだ。
なぜ⋯
周りの景色は暗くなり、音も聞こえない。
霧の中に居て、自分と女の子のグループがどれほどの距離にあるのかすらぼやけて分からない。
目の前がグルグルと回るような気分で、全身の毛穴という毛穴から汗が吹き出している。
「⋯い⋯⋯さん⋯⋯⋯お⋯⋯⋯さん⋯⋯」
音が消えた霧の中で何かに呼ばれている。
「おい!作さん!」
山口の叫び声が霧を裂いて耳の奥に鳴り響く。
ビクッとして我にかえり、前に座る山口の方に顔を向けた。
「おい!おい!作さん!どうしたんだよ!人の話聞いてないのか!おい!」
「あ⋯あぁ⋯⋯」
まだ何が起こっているのか分からないでいると
「作さん!おい!やっぱりお前さんおかしいぞ!おい!どうしたってんだよ!」
合わせていた目を、ゆっくりと女の子のグループへ向けると、山口も彼女達の方へ顔を向けた。
「んっ?」
二人して彼女達を見る。
端から見れば怪しい姿となるのだろう。
爺様が二人揃って若い女の子達をじっと見ているのだからな。
すると山口がゆっくりと頭を縦に振りだした。
「ほぉ〜ん、ほぉほぉ。んなぁ〜んだよ、やっぱり女かよ。えぇが作さんよぉ。」
にやけた顔でこちらを向いた。
「そうならそうで素直に言えよ〜!」
満面の笑みを浮かべているが、それは勘違いというものだ。
「違うんだよ⋯山さん。違うんだ。」
何と伝えたら良いのか皆目見当もつかずにいると、こちらを見ていた女の子が
「じゃあ帰ろうか。」
と皆に言った。
さらにグループ皆がこちらを向いて
「帰るよ〜」
と叫んだ。
「えっ?」
っと思ったら、我々の目線の反対側、今度は左側から声が上がった。
「えぇ〜帰るの〜?ちょっと待って〜!」
元気のよいその声はさっきの店員さんだった。
友達なのか?
ハッと、慌ててそちらに顔を向けると、テーブルの片付けをしていた。
お盆に乗せた片付け物を男の店員さんに渡すと
「じゃあ私達帰りますね〜。」
と言った。
それを言われた男の店員さんが笑顔で言う。
「悪かったねぇ〜お客さんに手伝ってもらっちゃってさ〜。助かったよ〜。お友達にも迷惑かけちゃったね〜。」
「い〜え〜。大丈夫でーす!」
前掛けを外してそれを畳み、男の店員さんに渡す。
「それじゃ〜お先でーす!お疲れ様〜。」
すると男の店員さんが
「あー!ちょっと待って。バイト代だすからさ。」
そう言われた店員さんだった女の子は手を大きく振りながら
「いいです!いいです!勝手にやったんだし、皆にも色々と出してもらっちゃったし〜。こちらの方こそありがとうございまーす!」
「悪いね〜本当に。ありがとう、助かったよー!」
「はーい!」
6人のいるテーブルへと小走りで行き「お疲れ、お疲れ」と皆に言われながら荷物を持ってガタガタと立ち上がり出口に向かった。
「ごちそーさまでしたー!」
先頭にいた店員だった女の子が振り返りながら元気よく叫ぶと、残りの6人も揃って
「ごちそーさまでしたー!」
と叫んだ。
お店の中のあちらこちらから
「おー!ありがとねー!」
「助かったよー!またねー!」
と声がかかる。
例のこちらを見ていた女の子は一番後ろにいた。
呆気にとられたこちらの横を通るとき今度はしっかりと目が合ったが、その顔を見て背中が凍るような気がした。
さっきのような無表情ではなく笑顔だったのだが、その笑顔は皆でおしゃべりをしている時の若々しい女の子の笑顔ではなく、まるで⋯まるで生まれた時から夜の世界で育ったかのような妖艶な笑顔で、とてもその年頃とは思えない落ち着いた、こちらの心の中を探られるような顔だった。
とても目を外らすことができない。
通り過ぎる時、顔をうつむき加減にして口角を少し上げながら
「くすっ」っと笑った。
次の瞬間、まるで倍音のような声に変わり小く呟いた。
「またね⋯」
艶かしい目と妖しい笑顔から出た微かな声に、地球の重力が10倍になったかと思うほど、その場の空気に押しつぶされるような圧力を感じた。




