元町長の息子はこう語る
元町長の息子はこう語る
神の娘の処女を散らして捨てた罰だと言う
町は《3の国》で1番のワイナリーを誇っていた。多くの『葡萄の乙女』達を祭りに呼び、ワインを作っていた。いつからだろう神殿へ奉納する分(乙女達への報酬替わりにもなる)さえも販売に回そうと画策し、自分達専用の乙女を作ろうと父が言う
自分で言うのもなんだが、見た目はいいと思う。昔から女に不自由はしていない俺なら、神殿仕えの娘など落とすのはたやすい……そう、馬鹿にしていた。実際付き合っている女は、見目麗しく俺の隣に立っても見劣りしない、少し強気なところがまたいい女だった
子供さえ産ませてしまえば、神官など用はない……それまでは、精々可愛がってやるんだから、ありがたく思えと
閨での神官は従順だった。神殿育ちの所為かたいした前戯をほどこさなくても、疑問を持たなかった初心な女。甘くて軽い言葉だけ送り、初めてだから痛いだろうけど我慢してくれなんて、ろくにほぐさず精を吐いた。そして何度目かの逢瀬、ようやくまともな反応を返し初めてきた閨での会話中、乙女は乙女を産むことはないと告げられ、だましていたのは俺なのに、だましたのかと頬を打った
赤葡萄色の瞳から涙が流れ、それと共に一際高く香る葡萄の香り。この時から呪いはかけられた
最初はほんの少しの違和感、それはゆっくりと確実に広がっていく。葡萄の木が枯れはじめたのだ。年々収穫量が減り、町民はこんな事はじめてだと恐れおののく。原因はつかめず、祭りに乙女は来られなくなったと神殿からの通達、何故かと問えば神官長は「理由などわかっているはず」とだけ言った
数年後
町民にばれたのは、俺の女からだった。誤解しない様に丁寧に説明していたのが悪かった。事態を恐れた女は、叔父に事の真相を話し逃げた。叔父は、父と俺を糾弾し町から離れる……いや、いっその事他国へ行けと。乙女を愛もなく汚すことは、この国で最大の禁忌だと
生まれてからずっと眺めていた葡萄畑。国で1番の風景だと思っていたものが、じわじわと崩壊していく。こんなことになった神官を殺してやろうかと思った。実際神殿にまで出向いた
神殿では、奉納されたワインが振舞われていた。若い乙女達が配り歩くその中にあの神官はいなかったが、男と子供を3人連れている姿を見つける。いた、悪魔め。本人を殺すより、男、いや子供を殺った方が復讐になると、持っていたナイフに手を伸ばそうとした時
「どうぞ、これはあそこの家族が作ったワインだよ。騎士と乙女と3人の乙女達が愛情込めた逸品だ。飲まないと損をするから」
印象の薄いどこにでもいるような男が、グラスを差し出した
景気づけとばかりに、一気にワインを煽ると……一気に飲んでしまった事を後悔した。美味い、今まで飲んだワインの中で1番だ。これをあの神官が?よく見れば連れている子供は3人とも、『葡萄の乙女』の証である赤葡萄色の瞳。乙女を産めたんじゃないか……あの女
「あの幸せは、本来君のものだったのかもしれないのにねぇ。……愛もなく我が娘を汚した罪は、我が手の内にいる限りついて回ろうぞ。せめて早く去ね、愚かな『元騎士』よ」
目を見開く、振り向くと先程の印象の薄い男は消え去っていた。俺が『騎士』のギフトを失った事は、父にさえ知らせていないのに、いや町の現状を見て薄々感づいてはいたかもしれないが
いつの間にかナイフとグラスは消え失せ、目頭が熱くなる。あの方は愛と豊穣の神だ、愚かな元騎士への最後の忠告だと。愛があれば葡萄に愛された優しい妻と、愛らしい娘を授かっていたのに、それはもう2度と手に入らない。
『愛と豊穣の神』は愛とついている割には男神です。ちなみに『愛と出産の神』も男神です、出産の癖に。
何故に?と問われると、この世界は王冠の女神が守護している世界だからです。細かい事は夫達にやらせちゃおうぜ~みたいな軽い感じです(笑)。メインのお話に、他視点のお話をプラスするのはいつもの事なのですが、今回はちょっと短めに。色々な視点を。本来なら本編に組み込んだ方がいいのでしょうが、視点がバラバラになって読みにくいかなと……読ませる文章力が乏しいので三人称で書ければいいのでしょうがムズカシイ
オマケ設定として神殿騎士は基本『~の騎士』系のギフトを必ずしも持っているとは限りません。大体は町長の息子がなるもので、目の色もいろいろなのでパッと見わからないのです。乙女達をちゃんとエスコートできる教養がないと、大事故につながりますからね、主人公の様に。
読んでくださってありがとうございました。