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男前のサラ……。

サラは貴族学校で鮮烈デビューします。

【オリエンテーション後……】


 新入生は振り分けられた教室に行く前に、交流を深める意味で、フリータイムが設けられる――。


「学友との親交を深めて頂ければ幸いです」


 貴族同士の挨拶、一般人との接点など、スムーズな学園生活を送るための配慮だ。


 だが――。


「身分を弁えない一般人が何をしている。ここは高貴な人間が通う学校だぞ」


 いきなり批判に満ちた声を荒げる奴がいる。


 そいつは貴族の子息で、軍事会社の御曹司だ。


「……」


 一般入試で狭き門を潜り抜けた面々は、差別的な発言を聞いて顔を顰めるが、育ちが良いのか、声を上げる者はいない――。


 デルタでは、差別なき世の中を是としている。


 だが――理想と現実は、必ずしも一致しない。


「ばっかじゃないの、親の七光りでここにいるだけの腐れ貴族! あんた最低ね!」


「なん……だと」


 重苦しい雰囲気を壊すように、赤い髪の女生徒が、面と向かってその男子を断罪する。


 もちろん、それはサラだ――。


 言われた御曹司のグレイスは、顔を真っ赤にして激高した。


「あんたが偉いわけじゃないでしょ。その年になってそんなことすら分からないって……世間知らずな子供ね(笑)」


「黙れ、黙れ! 何だお前ら、俺に楯突くのか!」


 サラの発言はド正論だ。


「……」


 先ほどまで黙り込んでいた連中も、グレイスに向けて軽蔑の眼差しを向けた――。


「これがデルタの貴族なの? 恥ずかしいと思わないの?」


 サラは呆れたようにグレイスを見つめる。


「あなた……ちょっと壊れているんじゃない?(笑)」


「俺様をコケにしやがって!」


 だが、激高するグレイスは脅しとも取れる発言をしながら詰め寄り、サラの襟を掴もうと手を伸ばす。


 パシィ!


「あんた、ぶっ殺されたくなければ、さっさと消えなさい」


 サラは振り払うのではなく、拳を握り締め、それを叩き付けるようにグレイスの手を弾いた――。


「グッ!……女の癖に、ぶっ殺す!」


 全く引く気のないサラに殺意が湧き上がったのか、グレイスの表情は鬼のように変わり、このままでは殴り合いが起きそうだった――。


「いやー、凄い女子だね。ねぇ、名前はなんて言うのかな」


 いきなり、金髪の好青年が割って入る――。


「邪魔をするな! 誰だお前は!」


「アーヴィン王国、王位継承権第一位のアレックス・ウルフと申します。グレイス君」


 喧嘩の仲裁に割って入った人物は、アーヴィン王国の王子だった――。


「グッ……アークライト家のグレイスだ!」


 他国とはいえ、王子に貴族が逆らえる訳もなく、グレイスは乱暴な口調で自己紹介を済ます――。


「高貴な貴族が、女の子に手を出すのは些か行儀が悪いのでは?」


 絶妙なタイミングで護衛が取り囲み、もうこれ以上争いを起こさせない雰囲気が出来上がってしまう。


「チッ! 覚えていろ、一般人」


「サラと申します。お見知りおきを、アークライト男爵家の子息様(笑)」


 喧嘩相手にカーテシーは送らないが、胸に手を置き、嫌味の混じる挨拶をするサラ。


 グレイスは苦み走った顔をしたまま、その場を去ってゆく。


 そしてサラはウルフと向き合う――。


「助けていただき、ありがとうございます」


「いや、当然のことをしたまでだ」


「重ねてお礼を申し上げますわ。それでは、ごきげんよう――」


 王族と悟られる事を避けなければならないサラは、軽く頭を下げ、その場を去る。


「……ああ」


 ウルフは小さく頷いた――。


(一般人……にしては、妙に育ちがいいな)


 去り行く背中を見守るウルフは、サラの所作が気になっていた。


 だが、この時点では育ちが良いお嬢様という認識だった。


「あら、失礼」


 そして、騒動はこれで治まることはなかった――。


 タッ!


 いきなりサラに足を掛けて転ばそうとする女子生徒がいた。


 しかし運動神経が抜群のサラは、軽くステップを踏むと転ぶことなく通り過ぎる――。


「デルタの貴族令嬢は、足癖が悪いのですね」


「キー!」


 制服では王族か貴族かの見分けはつかない。


 だが、このタイミングで仕掛けてくる以上、グレイスの取り巻きだろう。


 相手にもならない弱い者などに興味のないサラは、颯爽と去ってゆく。



 ※※※※※



【下校時間……】


 午前中、いざこざはあったものの、お貴族様(グレイスら)はFクラス周辺に来ることがなく、間もなく下校の時間を迎えようとしていた――。


「さて、剣の鍛錬をして帰ろうかな……」


 脳筋娘は毎日欠かさず剣の素振りをするのが日課だ。


 学校側も推奨しているので、気兼ねなく鍛錬できる。


 席を立ったサラは、ロッカーのある廊下に向かう――。


(ああもう、ほんと女子って陰湿なんだから……)


 嫌がらせをするために、サラのロッカーの前でコソコソと不自然な動きをする女生徒を見つける。


 サラはピョンと天板にジャンプすると、そろりと近付き、その様子を伺う――。


「赤い髪はまだ見えないわ」


「もう、中々開かないよ」


 その女生徒は、左右だけを気にしていたので、全く気が付いていない様子だ。


(これは、映像に収めるのが一番ね)


 サラはスマホを取り出し、その様子を映像に収め始める――。


「ヤバいよ、早くしないと、もうすぐ来るよ」


「わ、分かっているわよ。まだハッキング出来ないのよ」


 まさか真上から一部始終を撮られているとも知らず、ロッカーを開けようとしている。


 もうこの映像だけでも十分な証拠になるが、確実に仕留めるために最後まで見届けた――。


「ねぇ」


「ひゃ!」


 音もなく真横に飛び降り、声を掛ける。


 突然現れたサラを見て、驚愕の表情を浮かべていた。


「私のロッカーに何か用事かしら」


「い、いえ、ちょっと間違えました(汗)」


 この場から立ち去らなければ、と思ったのだろう。


 促すために、わざと惚《とぼ》けて首をかしげると、一目散に逃げて行く――。


「ロッカーには剣しか入れてないんだけどね……意地悪しても意味無いのに」


 逃げた彼女たちが、ロッカーに塵を入れようとしているのは知っている。


 なので剣だけ取り出すと、そのまま証拠品を放置する。


 剣を肩に下げたサラは、そのまま修練場に向かうのだった――。



 ※※※※※



【E・F専用女子寮】


 鍛錬を終えたサラは、一人で女子寮へと向かう。


 もちろん一般人枠で入学したので、他の生徒同様、卒業まで寮生活が待っている。


「憧れの寮生活。楽しみ」


 王宮で何不自由なく生活していたサラ。


 お世話係の侍女はいないが、全く気にする素振りを見せない。


 むしろ自由になったと捉え、新生活を心待ちにしている。


「ここは以前、上級クラスが使っていたのです」


 早速、寮長から説明を受ける。


 ここは五十年前まで、A・Bクラス用の女子寮として使われていたらしい。


 そのため外観こそ古びているものの、設備は十分に整っており、生活するには何の問題もない。


「さすがデルタって事なのかな……」


 Fランクの生徒には個室など無いと思っていたが、意外にも一人一部屋が割り当てられていた。


 何より――。


「セキュリティーがしっかりしていて良かったわ」


 これなら、昼間のような嫌がらせを寮内で受ける心配もない。


 そして夜――。


 初日は王族専用控室を使うわけにもいかないため、六人が同時に会話できる通信回線を使い、情報交換を行っていた。


 アイラ《Aクラスでは、サラの話題で持ちきりでした。グレイスは激おこです》


 ダービッド《Bクラスでは、グレイス派の女生徒たちがプンスカ怒っていましたよ》


 報告される情報のほとんどは、サラに関するものだった――。


 ステイシー(アイラ)と、アイラ(フィグネリア)については、目立たないようにしていたため、これといった情報は入ってこなかった。


「みんな、ごめんね。私がしくじったばかりに、迷惑をかけちゃって……」


「姫姉様、これはこれで楽しいですよー」


「フィグは学園生活ができて大満足です!」


 みんな、ステイシーのことが大好きだった。


 そしてフィグネリアも、初めての学園生活に興奮を隠せない――。


 こうして、初日は何とか無事に乗り切った。


 だが、明日は明日で、また何かが起きるだろう。


 そんな予感を抱きながらも、六人はどこか楽しそうな表情を浮かべていた。

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