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偽装と入学式。

何はともあれ、入学式を迎えます。

【クーン城・アーレイの執務室】


「ああ、やっと根回しが済んだ……疲れた……」


 衝撃のFラン騒動から数日後。アーレイは執務室の机に突っ伏していた。


 もちろん、ステイシーの入学に必要な根回しを、短期間で済ませたのである――。


「さて……次はルドルフの協力を得ないと始まらないな」


 アイラをステイシーに仕立て上げること自体は簡単だった。


 一番の問題は、ステイシーの身分である。


 王族は当然ながらNG。


 貴族というのも難しい。顔を知られてしまえば一発で正体が割れるうえ、そもそもクーンの貴族には人間が少ない。


 そこで候補に挙がったのが――ルドルフの娘という身分だった。


「事情は聞いた。ジェシカは結婚したし、デルタへ行く予定もない。構わん」


「助かるよ、ルドルフ。あの学校は、そう簡単に一般人を入れてくれないからな」


 デルタ王立貴族学校——。


 超有名校である反面、授業料は桁外れに高い。


 推薦枠も存在するが、それを利用するには相応の成績が必要になる。


 ステイシーのF判定では、到底無理な話しだ。


 ならば――。


 高級士官の娘という肩書を利用するしかない。


「ただし、俺の娘を名乗るなら、ジェシカを知っている奴には注意しろよ」


「そこは調べてある。問題ない」


「ならいいが……」


 ルドルフは肩をすくめる。


「親馬鹿のアーレイを見ると、あの時と(艦隊指揮官)は違って何だか面白いな」


「もう、好きに言ってくれ。狸オヤジ(ジェフ)にバレると面倒なだけだ」


 やるからには、絶対にバレないようにする。


 もし正体が露見すれば、王族が身分を偽って入学していたという、とんでもないスキャンダルになりかねない。


 そのため、アーレイは可能な限りの根回しを済ませていた――。


「……これで、何とかなるだろ」


 苦労が絶えないのは、今に始まったことではない。


 勝手に戸棚を開けたアーレイは、そこから琥珀色の酒を取り出す。


 そして、ため息交じりにグラスへ注ぐのだった――。



 ※※※※※



【クーン城・客間】


 遂にやって来た出発の日。


 五人の子供たちとその親は少し緊張した面持ちで、アデールが来るのを待っていた。


「さあさあ、それでは始めましょう」


 颯爽と現れたアデールさんは、妙に艶々していた――。

 今回は人助けの為に自身の魔法を使うのだが、対価としてアーレイとの《《夜》》の順番を譲って貰い、楽しんだのが丸わかりだ。


「そ、それではお願いいたちまちゅ」


「もう、アイラったら、緊張し過ぎよ」


 緊張して噛むのは母親譲りらしく、アイラは既に赤面していた。


 そして――


「我が精霊に命ずる――真実を隠し、偽りの姿を与えよ。トランスフィギュレーション!」


 パァァァ――


 金色の粒子がアイラに纏わり付き、少しずつ身姿がステイシーへと変わってゆく。


「うわぁ、私が立っているわ!」


 アデールの偽装魔法の精度は物凄く高い。

 鏡に映った自分を見るように変身したアイラを見て、ステイシーは驚いていた。


「はい次はステイシーね!」


 次は本命のステイシーの番だ。アデールは実在しない人物に仕立てる為に、少し難しい顔をする。


 そして――


「うわぁ、誰これ、髪の毛真っ赤だし」


 金色の粒子が霧散すると、髪の毛の長さと、母親譲りの青眼以外、誰も見分けが付かない程に変化した新ステイシーが姿を現わす。


「貴女は今日から”サラ”と名乗りなさい」


「わかりましたお母さま」


 ステイシーはサラという一般人に変わった瞬間だ――。


「凄く男前に変わったわね」


 顔も男性寄りになっているし、何とか歌劇団に出てきそうな雰囲気が漂っていた――。

 鏡を見ているサラ(ステイシー)は、男前が気に入ったのか、顎に手を置き、ポーズを決めていた。


「ルドルフの娘って設定でしょ? 実在しない人物だから、髪や顔は私の想像で作ったの。エヘッ!」


 400歳を超えるとは思えない少女のような仕草で、アデールはチロリと舌を出した。

 そして、次なるフィグネリアに目線を移す――。


「まぁ私は自分で変身しますから~」


 フィグネリアはマーシーの片腕として働いている。

 入学騒ぎを聞き、一度は学校に行きたいと漏らしていた。


 そこに歳の近い(人間換算17歳)アイラの身代わりの話が舞い込み、喜んで参加してくれたのだ。


 そして――


「我が精霊に命ずる――真実を隠し、偽りの姿を与えよ。トランスフィギュレーション!」


 金色の粒子の中から、アイラ(フィグネリア)が姿を現わした――。



※※※※※



【デルタ王立貴族学校・大広間】


「それでは皆様、成績順に整列してください」


 そして迎えた入学式当日。

 成績順に並ぶ二百数十名の新入生達。みな緊張した面持ちで割り当てられた場所で静かに始まりの時を待つ――。


「私頑張らなきゃ!」


成績順に並んだ生徒たちを見渡せば、サラのいるFクラスはどう見てもポンコツぞろいだった。

しかし、彼女には這い上がるしか手立てがない。

なので他の連中とは違い、一人だけ目を輝かせていた――。


「新入生諸君、デルタ貴族学校入学おめでとう――」


 壇上にはジェフの姿があり、祝辞を述べている。

 退屈な話しだが、生徒たちは皆真剣に聞いていた。

 アーレイ×五人の妻は、静かに聞いていた。が――。


「今年は三カ国からの編入生が来ている。そこで修学旅行に関しては、クーン精霊王国のアーレイ国王に、内容を決めて貰う所存である」


「おい、ジェフ!!」


「さぁ壇上に上がり給え、クーン国王よ」


 入学式の参列者で一番身分の高いのはアーレイただ一人だ。

 一斉に向けられる視線を無視するわけにもいかず、不機嫌な顔をして壇上へと上がる。


「学費もタダだし、娘の為に良い所見せたいだろ。ほれ、さっさと受諾しなさい」

「……狸に磨きがかかって来たな……仕方ない……」


 娘の為になら頑張れるだろ。と言われ渋々役回りを受け入れるのだった――。



※※※※※



【入学式・終了直後】


偽装魔法は完璧、再施工の場合はフィグネリアが受け持つ。


新しい名前、サラは無事に入学式を終え、安堵の表情を浮かべていた。


そんな気が緩みそうな直後——。


「ゲッ、セシリアが来てたんだ……(汗)」


オリエンテーションが行われる間の休憩時間。

ステイシーの親友である、セシリア・モルダー・フォーレストの姿を発見する。


「ヤバいわ~こっち見てるわ~」


セシリアはフォーレスト王族であり、魔法の使い手。もっと言うならアデールの遠い親戚にあたり、その技術は一級品だ。


サラの姿を見た彼女は何か感じたのかジッと見詰めている。


しかし――


一瞥すると、目線を逸らす——。


「あら、ステイは何で化けているのかしら……他に2人も……」


一瞬で偽装を見破ったセシリアだったが、何かわけがあると思ったのかそれ以上の詮索はしてこなかった……。

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