秋の剣術大会。
【貴族学校・闘技場】
貴族学校では秋になると、運動会の代わりに、全生徒参加の剣術大会が開催される。
「いよいよね! ああもう、この日を待ちに待っていたのよ!」
最終日にはジェフ国王も観戦に訪れ、入賞者には金一封が贈られる。
文武両道を掲げる、この学校の名物行事だ。
「もう、上級生から『脳筋姫』って呼ばれてますよ」
「まぁ、いいじゃない。アイラ、私、脳筋だし」
剣術大会を前に、サラは居ても立ってもいられない、まるで遠足を待ちきれない子供のように、目を輝かせていた。
一方、ステイシー(アイラ)は、浮かない顔をしている。
「魔法が使えないのが残念なの」
アイラは剣術よりも魔法を得意としており、サラとは正反対のタイプだ。
むしろ、剣術大会の後に行われる魔法競技大会のほうを楽しみにしている。
「ティータとエッタは頑張るの」
「うんうん」
存在感の薄いパルエッタとパルティータは、持ち前の暗殺技術を駆使すれば、上位に食い込む可能性が高い。
前回の練習試合でも、パルエッタはA、パルティータはB判定を獲得している。
しかし――。
そもそも、二人の存在を認識している生徒が少ない。
そのため、実力の割には話題にすら上がっていなかった。
「さあさあ、行きましょう!」
待ちきれないサラに急かされ、五人は闘技場へ向かうのだった――。
※※※※※※
【予選会】
千人近い生徒が参加する大会ともなれば、全員を一度に戦わせるわけにはいかない。
そこで予選会では、闘技場をいくつかに区切り、複数の試合会場で同時進行していくことになっていた。
「それでは……始め!」
そして――。
C判定の生徒が集められた試合会場だけは、異様な空気に包まれていた。
殺気が溢れる原因はもちろん――サラである。
「死ねぇぇぇ! 狂剣!」
開始の合図と同時に、大剣を振りかぶった男子生徒。
殺気全開でサラへ突っ込んでいく――。
「うりゃ!」
サラは紙一重で大剣をかわすと、そのまま懐へ潜り込む。
そして――。
ゴンッ!
「ギャッ!」
剣の柄を、相手の後頭部へ叩き込んだ。
「はい、一本! それまで!」
試合時間――わずか五秒。
「…………」
観客も、選手も皆、拍手を忘れ、呆然としている――。
「試合になってない……ここ……死のグループだよ」
Cグループの生徒たちの間に、絶望的な空気が広がっていく。
そもそも一合すら打ち合っていない――。
「バーチャルで動きを研究したのに……無駄だったか」
サラ対策として、事前に多目的端末で、動きを研究してきた生徒までいた。
だがバーチャルのパラメータなど、サラの身体能力の前には役に立たず、地道な努力すら一瞬で粉砕された。
※※※※※※
そして次のサラの試合――。
「両者位置に、構えて!」
「お手柔らかにネ!」
「ひぃぃぃ!」
もう始まる前から勝負がついていた。
数秒後には審判の「勝者サラ」の声が響く――
「うわぁぁ、圧勝じゃねーか」
隣のBグループの生徒たちも、勝敗を聞くたびに顔が引きつっていく。
「次、誰だっけ?早く殺ろ」
「………」
当のサラだけは、嬉しそうに剣を握りながら、次の相手を待っていた――。
※※※※※※
【予選会・終盤】
サラの活躍?によって、Cグループの殆どの女子は試合を放棄してしまい、どのグループよりも早く予選を終えることになった。
「勝者パルエッタ!」
Aグループのパルエッタは、大本命と言われていたガルーダからの編入生、ヴァレリアと言う女騎士に土を付ける。
「あのウサギ、全く気配が無かった」
悔しがるヴァレリアの実力は、近衛騎士の娘で実力は折り紙付きだった――。
だが、完全にノーマークだったステルスウサギに惨敗した。
「彼女に勝つにはコツがいるのよ」
幼少期の頃より遊んでいる仲だ。
当然、バグウサギの対策も済んでいる。
――もっとも、その秘密を教えるつもりはない。
「うるさい、脳筋姫!」
「おまえもなー」
「なっ!」
サラの呟きが聞こえたのか、ヴァレリアは顔を真っ赤にすると、サラへ剣の切っ先を向ける。
「エッタに負けるなんて、まだまだね。じゃ!」
「待てぇぇぇ!」
こうして、サラの煽りを受けたヴァレリアの怒号が、闘技場に響き渡るのだった――。
※※※※※※
そして――。
二日間にわたる予選会は、ついに幕を下ろした――。
いよいよ、翌日からは本戦が始まる。
予選を勝ち抜いたクーン勢は、サラ、パルエッタ、ダービッドの三名。
そして、ウルフとグレイスも、それぞれ二位で予選を通過していた。
「それでは明日の本戦に備えて、各自休息を取るように」
予選を勝ち抜いた一年生は、十二名。
翌日は総当たり戦で勝敗を決め、その上位三名だけが、最終日の王座決定戦へと駒を進める。
「さて、明日に備えてカーボパーティーに出なきゃ!」
Cグループをトップで通過したにもかかわらず、ほとんど疲労を感じていないサラ。
だが、明日は今日とは違う。強者同士が潰し合う、本当の戦いが待っている。
ならば――。
「いっぱい食べて、明日は大暴れするんだ!」
明日に向けてスタミナを蓄えるべく、サラは意気揚々とカーボパーティーへ繰り出すのだった――。
※※※※※※
【本戦・総当たり戦】
そして――いよいよ本戦が始まった。
予選を勝ち抜いた十二名による総当たり戦。
その初戦から、いきなり番狂わせが起こる。
上位入賞確実と言われたウルフが剣を構えた。
しかし――。
「勝者――グレイス!」
「なっ……!」
観客席から、どよめきが巻き起こる。
なんと――ウルフが敗れたのだ。
息を切らしながらも、勝利したグレイスは剣を掲げる。
「俺は勝ち上がって――サラをぶっ殺す!」
その視線の先には、闘技場へ向かうサラの姿があった。
おそらく、これまでサラに散々やられてきた女子生徒たちの恨みを晴らすつもりなのだろう。
――サラにしてみれば、完全な八つ当たりである。
「恨まれる覚えはないんだけどね~。もう、あんたストーカーじゃない?」
「うるさい、うるさい! 俺のプライドを傷つけた奴は、絶対に許さない!」
「はいはい」
もはや完全な逆恨みだ。
サラは相手にするだけ無駄だと判断し、そのまま闘技場へ向かう。
そして、すれ違いざま――サラは一瞥することもなく通り過ぎていく――。
「ぐぬぬぬぬ……!」
その背後では、グレイスの頭から湯気が出そうなほど、怒りが沸騰していた――。
「それでは構えて」
「エッタは降参しますのです!」
「はっ?パルエッタ戦いなさいよ!」
サラの次の相手はパルエッタだった――。
(姫姉様が勝つと、他の人に攻略されるのです)
パルエッタの行動は戦略的撤退だった。
弱点を知るサラの前で戦えば、次の相手が同じ手を売ってくるのは見えている。
負けるのがわかっているからこそ、降参したのだ。
「ちょっとぉぉぉ!」
「サラは頑張ればいいのです!」
こうしてパルエッタは、己の手の内を守るため、あっさりと戦いを放棄した――。




