ヴァーチャルワールド。
【デルタ王立貴族学校・バーチャルルーム】
新学期が始まり、クーンの六名は再びデルタ王立貴族学校へ戻って来た。
「二学期から、バーチャルRPGが必修科目になります」
オリエンテーションでは、早速二学期からの授業内容が告げられる。
使用するのは、アーレイが開発したバーチャルシステム。
それを利用したRPGゲームが、二学期からの必修科目になるという。
「参加を促す為に、僅かですが報酬が出ます」
「マジですか、最高じゃ無いですか!」
サラは、とある理由で現金を欲しがっていた――。
アーレイから「生活費を自分で稼ぐなら、成績については多少大目に見る」と言われているからだ。
「ええ、確かに。クエストをこなしたり、魔物を討伐したりすると、報酬が貰えますね」
身分に関係なく参加でき、クエストや魔物討伐で報酬を得られる。
一般生徒にとっては、ちょっとした小遣い稼ぎにもなるよう設計されていた。
「じゃ! ログインしてガンガン稼ぐわ!」
金儲けしたくて仕方のないサラは、早速ログイン用のカプセルに入る。
「もう、姫姉様ったら……」
呆れるアイラとフィグネリアにウインクを送り、そしてログインアイコンをクリック。
勢いよくバーチャル世界へ飛び込んでいくのだった――。
※※※※※
【バーチャル世界】
「チュートリアルを、理解しましたか?」
ログインすると、先ず世界観の説明があった。
時代設定は中世初期。
魔法は存在せず、武器と己の肉体だけを頼りに、獲物を狩り、武術を磨く世界だ。
「やった!肉弾戦特化だ」
ひたすら戦い戦闘スキルを磨くだけなので、当然のようにサラは大喜びしていた。
「アバターを決めてください」
「やっぱ、黒髪だね!」
アーレイに憧れているのか、黒髪を選択。
姿はどうでもいいのか、ものすごく平凡なアバターを選び、プレイヤー名は「姫」にした。
「このシステムには痛覚機能が搭載されています。装備品をバランスよく選んでください」
バーチャルとはいえ、業火級に搭載された人感センサーによって、身体への衝撃まで再現される。
そのため、限りなく実戦に近い感覚を味わえる仕様だ。
「うんうん、このお金で装備を揃えるのね」
初期ボーナスが与えられ、次は装備の品定めだ。
剣、斧、槍、古典的な武器がぞろりと並ぶ。
防具も防御力優先、身体能力優先など多種多様が選べる。
「本当にこの装備でよろしいですか?」
「だから、これでいいの!」
「……再確認します。本当に?」
「しつこい!」
何故かAIは二度も確認してきた。
それほどまでに、サラの装備選択は極端らしい……。
その装備がこれだ――。
布の服、こん棒、ナイフ、回復薬。
布の服は防御力はないが俊敏性が一番。こん棒は無料だから。
買える中でナイフは一番殺傷能力が高い。
そして余ったお金は回復薬と極振りしていた――。
「それではステイタスの確認をお願いします」
「へぇ〜、身体測定そのままの設定なんだ」
ゲーム内のステータスには、身体測定の数値がそのまま反映される。
現れた画面を見ると――。
筋力:S
俊敏性:A
持久力:A
視力:S
反射神経:S
知力:F
「……げっ!脳筋じゃん……」
ともあれ初期設定が終わり、目の前に現れた扉が開く。
そしてサラの冒険が始まりを迎えるのだった……。
※※※※※
【数日後・デルタ作戦司令本部】
バーチャルシステムは軍が監視している。
士官学校は元より、貴族学校もその範疇に入る――。
「これ見てください」
「はっ?誰だこいつ?」
システム監視の一人が、はちゃめちゃな装備で、ガンガンお金を稼ぐ一人のプレイヤーを指さす。
もちろんその人物はサラだ――。
「稼ぐ金額と、装備があまりにもアンバランスで、これじゃ野生児ですよ」
「サラ……貴族学校の生徒か、アーレイ陛下に報告した方が良いかもな」
そしてその情報は、システムを開発したアーレイの元に送られる――。
※※※※※
【数日後・貴族学校のカフェテリア】
昼下がりのカフェテリアには、多くの生徒が集まっている。
大型モニターには、今年から取り入れられたバーチャルRPGのライブ映像が流れていた――。
「布の服一枚でよくもまあ戦えるよな。縛りプレイが好きなのか?」
流れるライブ映像は、戦闘中に限定される。
森を駆け、獲物を見つけると即座に襲いかかる。野生児のような女戦士が映し出されていた――。
「うわぁぁ、ナイフ一本でキラーベアーを倒すって、どんだけなんだよ」
その映像はバーチャルとはいえ衝撃的だ。
キラーベアーは速さもさる事ながら、攻撃力が半端ない。
通常ならパーティーを組むか、重装備で臨む相手だった――。
しかもナイフ一本で懐に飛び込み、首を刈るその速さは、もはや人外と言っても良いレベルだった。
「士官学校は休み時間に使わないから、うちの学校だよな」
休憩時間になると必ずバーチャルに潜る一人の女戦士「姫」に、全生徒から注目を浴びていた。
朝礼前、昼休み、放課後に必ず現れ、ガシガシ強敵を倒す女戦士――。
そいつはもちろん――サラだ!
「あいつ誰だかわかったぞ」
「おお、それで誰なんだよ」
毎日欠かさずログインすれば、バーチャルルーム周辺を見張ればいい。
そうすれば誰かしら見当はつく――。
「Fクラスの狂剣サラだよ」
「あはは、あの脳筋女か」
前回の練習試合で、一年生には名前が通っている。
そしてこのバーチャルによって、全生徒にサラの名前が広まるのだった――。
「……貧乏人はこれだから嫌われるんだよ……」
噂を耳にしたグレイスは、軽蔑の眼差しで画面に映るサラを睨んでいた……。
※※※※※
【クーン城・アーレイの寝室】
「……確かに、生活費を稼げとは言ったが……」
ベッドの上では、アーレイとフローレンスが並んで寛いでいる。
その頭上には、空中モニターが浮かび、バーチャル世界で戦うサラの姿が映し出されていた。
「ふふっ、彼女らしいですわね」
「うーん……そうなのだが……」
フローレンスは、楽しそうに笑い、アーレイはジト目で、サラのステータス画面を眺める。
「本来は、単独戦闘のスキルを磨くためのシステムなんだがな……」
このバーチャルRPGは、戦場で部隊から孤立した場合に、生き延びられるようにするための訓練システムだ。
そのため、実戦を想定して痛覚まで再現されている。
「もう、バイト感覚ですよね」
「参加を促すために、少しばかり報酬を出したのが裏目に出たな……」
真面目な生徒たちはクエストをこなし、レベルを上げに取り組んでいる。
だが――。
サラはひたすら報酬の高い魔物を狙い、物語もクエストも、ほとんど眼中にない。
要するに、お金を稼ぐことに夢中なのだ――。
「……本来の目的を、完全に無視しているな」
アーレイは呆れながらも、どこか楽しそうに笑った。
「それならクエストを単位制にすれば、いやでも進めますよ、手抜きも減るでしょう」
フローレンスは、サラの性格を思い浮かべながら、改善点を出してゆく。
「なるほど……盛り上げる意味で、条件を見直したほうがよさそうだな」
「ふふっ。ステイがいるだけで、随分と改善案が出てきますわね」
「そうですねー」
二人が苦笑する中、空中モニターには――。
「おお、高いね、次はこいつだ!」
サラが、またしても巨大な魔物へ突撃していた。
「……」
「……」
アーレイとフローレンスは、無言で画面を見つめる。
「まあ……本人が楽しそうだからいいか」
「そうですわね」
今日もサラは、訓練そっちのけで金を稼いでいた――。




