勝敗の行方と逆恨み。
【本戦・総当たり戦】
そして――ついに、サラとグレイスの勝負の時が訪れた。
因縁の対決とあって、試合が始まる前から大勢の野次馬が集まり、闘技場は異様な熱気に包まれていた――。
「狂剣をぶっ殺せ!」
「このクソ女をやっつけて!」
サラが姿を現した瞬間、観客席から一斉に罵声が飛んでくる。
中でも特に激しいのは――以前、サラによってパンツ丸見えの刑にされた女生徒たちだった。
「グレイス、あの屈辱を味わわせて!」
「悔しかったら、私と戦えばいいのに(笑)」
まるで犯罪者を糾弾するかのような罵声を浴びせているが――。
そもそも、嫌がらせを仕掛けてきたのは向こうであって、サラからすれば、むしろ自分が被害者である。
「キー!お前が悪いんだろ!あの恨みは絶対忘れない!」
だが、傲慢な彼女たちに、そんな理屈が通じるはずもなかった。
そして――。
今回の騒動の元凶であるグレイスが、闘技場へ姿を現す。
「おい、バカ姫。お前が負けたら、俺の靴を舐めろや」
「……は?」
あまりにも酷い言いように、サラの眉がピクリと動く。
「聞こえなかったのか」
これまで何を言われても、適当に受け流してきたサラだったが――。
ニッコリと笑い「ふーん」と鼻を鳴らすと、鋭い眼光をむけた。
「では、あなたが負けたら――私の椅子になってくれないかしら(笑)」
「なっ……!」
売り言葉に買い言葉。グレイスの挑発に、サラもついに乗った。
いつもの脳筋娘らしい笑顔だが、グレイスを捉える目だけは、まったく笑っていない――。
「両者構えて!」
「ちょっと遊んであげるネ」
「死ね、脳筋!」
試合は始まったが、グレイスは罵るだけで、突っ込まずにサラの出方を待っていた。
大半の連中がカウンターを喰らって、惨敗しているのを見ていたからだろう。
「あはは、カウンターが怖いんでしょ、けど戦場だったらすでに死んでいるわよ」
「なっ!」
バギィィィン!
全く動きが見えなかった。
気が付いたら打ちこまれていた。
「クッソ!」
初めて一合交えた。
手がじんじんと痺れ、サラはもう既に射程圏外にいる。
遊ばれている――。
(彼女はまだ本気を出していない……)
グレイスはAグループで決して弱くはない、しかし相手が悪すぎた――。
「さぁ、打ち合いを始めましょう」
グレイスの焦りをあざ笑うかのように、サラは構えを変える。
切っ先を下に向け、柄を顔に引き寄せる正統なスタイルだ――。
来る――。
バキャン!バキン!バキィィン!
鋭く踏み込み、突きを放つとすぐさま切り返し、打ち合いに入る。
圧倒的な正確さと速さ。
グレイスは反撃すら出来ない――。
(この速さ、ゲームに怠けている動きじゃない……鍛錬を欠かさない動きだ)
剣を弾かれたら終わる――。
直感がガンガンと警告を鳴らす。
――だが、負けられない。
「うおぉぉぉ!」
バキャーン。
ウルフにも勝った。
なのに――。
グレイスの放った渾身の一撃は、無情にも大きく弾かれた。
「どうしたの?」
サラは追撃すらせず、笑っている。
「――ッ」
「さっきまでの威勢は、どうしたのかしら?」
「しねぇぇぇぇ!」
グレイスは叫び、切り返した。
腰をひねり、全身の力を乗せた横薙ぎを繰り出す。
パンッ!
「なっ?」
――あまりにも軽い音だった。
手応えがない――剣は空を切っている。
だが、グレイスは止まらない。
勢いをそのまま利用して身体を翻し、続けざまに突きを放つ。
「えっ?」
殺すつもりの切っ先が、サラの胸へ吸い込まれる――。
そのつもりだった。
完全に間合いの内側。避けられないはずだった。
「貴方は――お仕舞いよ」
「――ッ!」
その瞬間、グレイスは気づいた。
――剣が、根元から折れている。
そして次の瞬間。ひんやりとした感触が、首元に触れた――。
「一本! それまで! 勝者――サラ!」
完璧だった。
武器破壊からの一本。
非の打ちどころのない、完全な敗北——。
「なんなんだ、おまえは……なんなんだ。いったい、なんなんだ……」
呆然と立ち尽くすグレイスは、悔しさをにじませ呟いた。
だが、その問いに、サラは答えない。
剣を収めると、何事もなかったかのように踵を返す――。
「 」
そして、戦いを終えた剣士は、静かに一礼をする。
サラはグレイスを一瞥することもなく、硬い表情のまま闘技場を去っていった。
※※※※※※
各学年の総当たり戦が終わり、いよいよ選抜された九名による決勝戦が始まった。
三年生は二回戦からの登場となるため、一年生と二年生の代表が先に激突する。
【決勝戦】
一年生代表は、パルエッタ、サラ、そしてウルフ。
グレイスはダービッド、パルエッタ、サラの三名に敗れ、決勝進出を逃していた。
「それじゃ、みんな決勝戦で会おうね」
九名の顔合わせを終えると、サラは嬉しそうに控室へ戻っていく。
「凄いな……勝つ気満々だ。俺も頑張らないと、振り向いてもらえないな」
「王子、決勝までいかないと……」
「……と?」
ウルフの呟きに、パルエッタが反応する。
ニッコリと笑い――。
「筋なし」
「…………」
短い一言が、ウルフの胸に深々と突き刺さった――。
「エッタも勝ってくるのです!」
そう言い残すと、パルエッタはステテテッと走り去っていく。
その後も、彼女は持ち前のステルス能力を駆使し、次々と勝ち上がっていった。
――そして。
いよいよ、サラの決勝戦が始まる。
※※※※※※
【優勝争奪戦】
難なく二年生を撃破したサラは、いよいよ三年生との戦いに挑む。
ここで勝てば、三位以上が確定だ。
「それでは――始め!」
対戦相手は、大楯を構えたパワー型の騎士で、見るからに防御を重視した構えだ。
だが――。
「うりゃぁぁぁ!」
開始と同時に、サラが一気に飛び出す。
「来るか!」
大楯使いは即座に防御姿勢を取った。
――それこそ、サラの狙いだった。
「貰った!」
顔面へ向けて、切っ先を突き出す。
「——ッ!」
当たる寸前、大楯で防ぐと、同時にサラの姿が、視界から消え失せる。
その瞬間――。
サラは大きく跳躍し、そのまま大楯へ片足を掛ける。
「えっ?」
そして――。
「うりゃぁ!」
ゴッ!
「グフォッ!」
大楯を踏み台にして、騎士の顔面を思いっきり膝で蹴り飛ばした。
「はっ?」
「おい……柔術大会じゃないぞ!」
観客席から驚きの声が上がるが、サラは止まらない。
体勢を崩した相手の背後へ回り込むと――。
首筋へ、剣を突きつけた。
「……終わりですよねー」
「参りました」
「勝者――サラ!」
審判が大きく勝敗を宣言するが……。
「……」
何とも言えない空気が流れ、拍手など湧き上がらない。
「さぁ、次に行きましょ」
そんな空気など気にする様子もなく、サラが踵を返した、その時――。
「がははは! 実戦型の剣技、見事だ!」
沈黙を破り、一人の男が豪快に笑った。
その声に、サラが振り返る。
「……?」
そこにいたのは――次にサラと対戦する相手だった。
三年生――『神速のルシアン』
高速剣の使い手として知られる、学園屈指の剣士である。
「サラ、お前との勝負たのしみにしているぞ」
純粋に、強者との戦いを楽しみたいのだろう――。
ルシアンはそう言い残すと、先ほどの大楯の騎士へ向き直った。
「次は俺だな」
そして――。
「始め!」
試合開始から、わずか十数秒。
大楯の男の剣は宙を舞っていた――。
「勝者――ルシアン!」
あまりにも一瞬の出来事に、観客席が静まり返る。
「…………」
ルシアンは何事もなかったかのように剣を収め、闘技場の傍らへ移動した。
そして、サラが来るのを静かに待っていた――。




