第六話 真剣!神経衰弱 (後編)
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神経衰弱を初めて約十五分後、俺達はお互いに自分の勝ち取ったカードを数え終え、ゲームの結果が出た。
「ギリギリ勝ったー!」
ちょっとしたゲームだったはずが、壮大で色々とあったような感覚で、俺は少し疲れた声で勝鬨をあげた。
疲れたが、その分、さらに楽しめた気がする。
疲れというのも仕事帰りに味わうようなぐったりとしたものではなく清々しいもので、不思議と嫌な気分ではない。
勝利を切望していたこともあってか、今の自分の喜びようが先ほどのババ抜きで勝利した時の六葉さんや、子供のころにゲームで勝利して無邪気にはしゃいでいた自分を思い出させた。
ブラック企業に勤める毎日で、もう笑うことなんて無いと思っていた。
死んだように日々を過ごし、思い出すのは子供のころの楽しかった思い出ばかりで、今後は楽しいことなんか一つも無い人生を送るのだろうと悲観していた。
(それなのに…楽しい思い出をまた増やすことができるなんてな)
「ありがとう、六葉さん」
六葉さんの、お陰だ。
何度、感謝したって足りないくらいの幸せを、すでに彼女からはたくさんもらった。
それだけではない。
実は、六葉さんと同居生活を始めて三日目の朝にふと気がついたことがあった。
以前は余裕が無いせいで乱雑に脱ぎ捨てていた靴が、朝家を出る時にはすでに、いつの間にか綺麗に向きを揃えて並べられていたことや、六葉さんがこまめに部屋の換気や掃除をしてくれているお陰か、家の中の空気が以前のように澱んでおらず、綺麗なこと。
そんな一つ一つの些細なことにすら、少しずつ救われた。心が、以前よりも軽くなった。
朝、朝食を作る為に六葉さんは俺よりも少し早起きをしていて、七時のスマホのアラームが鳴ると、必ず俺を起こしてくれる為、寝坊をしないという安心感。
夕飯に冷たいコンビニ弁当ではなく、温かいご飯が食べられて、ホッとすること。さらには美味しさで、疲れが癒されること。
些細なんかじゃないことまで、たくさん…たくさん、助けてもらっている。自分ではできなかったことをこんなにもしてくれて、きっと、俺が気がついていないこともしてくれている。
その感謝の気持ちを、急に伝えたくなったのだった。
「急にどうしたんですか?私、八百長なんてしていませんからね?」
ドキッ
(!や、八百長…落ち着け、ババ抜きでの俺の八百長がバレたわけじゃないんだから!)
「ハハッ…そんなことは思っていないよ!ギリギリの勝負だったし、六葉さん、初めてなのにかなり強かったから驚いたよ」
「そうですか?結構、私は運で当てられていた気もしますが…でも、褒めてくださってありがとうございます!」
(バレてない…)
胸中で安堵の溜息をついたところで、ハッと気がついた。
「それじゃあ、罰ゲームの時間かな?」
そう、このために苦悩しながらも勝利を勝ち取ったのだ。
(さぁ、やっと葉女について知れるぞ!)
「言える範囲の秘密で構わないから。無理なら無理で大丈夫だし」
本音を言えば葉女の核心について触れてしまいたいくらいだが、無理強いはしたくない。
些細な秘密でさえも、まだ関係の浅い俺に教えるのは六葉さんにとって耐え難いことかもしれない。
そのため、自分勝手な欲望は胸の奥にしまって、相手を尊重するのだ。
「秘密…でしたね。大丈夫です、少し恥ずかしいですが…い、言いますね」
六葉さんが、頬を赤らめて俯いた。窓から夕陽が差し込み、さらに赤く見えた気がした。
(えっ?思っていたよりも深刻そうな雰囲気だな…まさか、そんなに凄い秘密を教えてくれるのか!?)
好奇心で心臓がいつもより早く鼓動するのを感じる。
葉女の正体。秘密…一体、彼女はどんな存在なのか!
六葉さんがそっと口を開いた。
(くるっ!)
なんとなく正座をし、前のめりで六葉さんの言葉を聞き逃さまいと耳を傾けた。
「私、実は――」
ドキドキ――。
「――さっきババ抜きでカードを取る時、こう…腕を雄二さんの方に伸ばして私から近づいていく感じが、慣れない感じでなんとなく恥ずかしくて…少し、ドキドキ…しました」
「――!!」
二人きりの部屋で、頬を染めた六葉さんは、俯いていた顔を少し上げ、揺れた瞳で俺を見た。
(ドキドキしたって、それって、つまり…俺に気があるということなのでは――!)
「初めてのゲームだったのも相まってか、本当に緊張でドキドキしました…人間さんとあんなに近付くのも初めてでしたし…!こ、これが私の秘密です…えっと、こんな感じで良かったですか?」
「えっ、あっ、はい!ありがとう…!」
羞恥で顔が熱くなるのを感じた。
少しでも、俺を異性として好きで、それで距離感にドキドキしたのではなどと自意識過剰なことを考えた自分が心底、恥ずかしい。
「あっ、お夕飯の時間ですね!ゲーム、楽しかったです。色々と教えてくださってありがとうございました!では、今日は…ピーマンの肉詰めですね!美味しく食べていただけるように頑張って作ってきますね!」
六葉さんはそう言うと、まだ少し紅潮した頬をそのままに、いつもの癒される笑顔を残して台所に向かった。
「はい…」
俺はやや無気力な返事をし、一人でトランプを片付けながら己の頭を冷やすのだった。




