第五話 真剣!神経衰弱 (前編)
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「トランプって、他にも色々な種類のゲームがありますよね」
「やってみたいの?折角、押し入れからトランプを引っ張り出したし、夕飯までまだ時間があるからもうワンゲームやろうか。何かやりたいやつはある?」
「神経衰弱をやってみたいです!」
「おっ、良いね!結構自信あるし、今度は負けないよ」
「私だって!連勝を狙ってしまいますよ!」
「もちろん!遠慮せずどうぞ」
俺達は喋りながら二人で神経衰弱の準備を始めた。
シャッフルしたカードをカーペットの上に裏返しで並べていると、六葉さんがふと口を開いた。
「そう言えば、人間さんはゲームで負けた人は罰ゲームというものをするんですよね?」
「あ〜、必ずしもではないかな。事前に皆で決めてやる感じだね」
「罰ゲームの内容は結構、怖いですか?」
「それは人によるけど、俺は過激な罰ゲームはやったことないな〜。一発ギャグは恥ずかしかったけど…あとは普通に、デコピンとかスクワットとか…あっ!」
最後のカードを並び終えたと同時に、丁度、名案が浮かんだ。
「六葉さん、もし良ければ俺達も罰ゲームありで神経衰弱をやってみない?六葉さんは初めてだから不利だけど…軽い内容の罰ゲームならどうかな」
「楽しそうですね、やってみましょう!それで、罰ゲームの内容は…?」
「負けたら罰ゲームで自分の秘密を一つ暴露!なんてどうかな?本当は趣味を発表とかでもいいんだけど罰ゲームっぽくないし。秘密と言っても、ちょっとしたことでいいしさ、そもそも仲良くなるためにゲームを始めたでしょう?それにはお互いのことを知るのも必要だから」
「確かにそうですね。秘密…をお話するのは少し恥ずかしいですが、それくらいなら嫌ではありませんし、勝てば良いだけですからね!」
やる気を出してメラメラと燃えている六葉さんは、ガッツポーズで自分を奮い立たせているようだ。
(そのガッツポーズはどこで覚えたんだ…)
――実は、俺には企みがあった。先ほどの仲良くなるために秘密を暴露する罰ゲームをする、というのも嘘ではないが大方は建前で、本当の狙いは謎に包まれた六葉さん…“葉女”について少しでも知るためだ!
雪女的な妖怪なのか、どういった存在なのか、何か能力はあるのか、人に関する知識の偏りがあるのはなぜか、日本語が話せるのはなぜか…疑問は尽きない。
俺が質問しても優しい六葉さんは笑って許してるだろうが、明らかに踏み込んだ質問は、デリカシーに欠ける。支え合う同居人として彼女を尊重しているつもりなので、そんな失礼なことはしたくない。もしかしたら、彼女に不快な思いだってさせてしまうかもしれない。
だからこそ、罰ゲームで彼女自ら教えても良いレベルの、無理のない範囲での秘密を聞き出す!
(だって気になり過ぎるから!ずっと葉女について謎だから!!社畜として鍛えられた記憶力で、絶対に勝って少しでも何かを知りたい!)
六葉さんと同様、俺もメラメラと闘志を燃やし、ついに互いの秘密を賭けた神経衰弱の一戦が幕を開けた!
数分後
「グゥゥゥゥゥッ」
「わっ!?ど、どうされましたか?大丈夫ですか?」
耐えきれず口から出た苦悶の唸り声に一瞬、ギョッとした六葉さんはすぐに心配してくれていそうな表情に変わり、俺を綺麗な瞳で見た。
(そんな純粋な目で今の俺を見ないでくれー!!)
二人で向かい合って床に座り、普通に神経衰弱を開始したまでは良かった。
しかし、問題は六葉さんがカードを捲る時だ。
屈んだ時に、巨乳が揺れるのだ!!
六葉さんは、特別、露出度が高い服を着ているわけではないが、今日は薄ピンク色のVネックのブラウスで、谷間が少し見える。女性に免疫の無い男性からすれば、充分に素晴らし…いや攻撃力が高い!
このような不純な考えが純粋無垢な六葉さんにバレるのは避けたい。
「俺のことは気にせず、続けてください!」
平静を装うとしたが、完全に動揺しており、唐突に敬語になってしまった。
「は、はい」
しかし、六葉さんは気がつかなかったのか、もしくは単に俺がまだタメ口に慣れていないと思ったからか、スルーしてくれた。
(セーフ!!)
もし興奮して鼻息が荒くなったりしたらキモすぎる。今度こそ冷静に、落ち着いてゲームに臨もうと自分に言い聞かせた。
「うーん、流石に最初は揃いませんよね。雄二さんの番ですよ」
ニコッと微笑む六葉さん。可愛い。
俺は六葉さんが捲ったカードとは別のカードを二枚捲り、確認した後でまた裏返しの状態に戻した。
(絶対に勝って六葉さんの秘密を聞き出そうと思ったのに…このままだと不味いな。焦りでいつもより頭が回らない!)
まだ初ターンのため、捲ったカードは二人合わせても四枚だけなので流石に覚えているが、この先、巨乳という大きく輝かしいロマンに目が眩んで冷静さを失えばどうなるか解らない。
「六葉さん…負けませんよ」
俺は不純な欲望を噛み殺しながら、無意識に勝ちたい気持ちも言葉に滲ませたせいで、無駄に渋い声と表情になった。
「うふふ、凄いやる気ですね!真剣勝負、燃えますよね!私も負けませんよ〜」
どこまでも純粋な六葉さんは、嬉しそうにカードを捲った。
「あっ!もう揃いました!」
「ッ…!!」
(何だとーーー!?マズい、マズすぎる!!勝てる自信があったのに…いや落ち着け、まだ一組しか揃っていないし始まったばかりだ!冷静に戦えば勝てる!)
燃え上がりすぎた結果、いつの間にか戦いとして考えていた。勝敗のあるゲームなので当然、勝負ではあるが、“戦い”という大袈裟な言葉選びをしてしまうのは、やはり冷静ではないからだろう。後で冷静になったら、自分で自分を恥じるかもしれない。
深呼吸をして、普段通りの表情にするつもりで表情筋を動かした。
「揃ったら連続で引けるよ」
「ではもう一度!」
六葉さんが腕を伸ばし、先ほどよりも前屈みになった。六葉さんからは遠い、俺のすぐ側のカードを取ろうとしたからだ。
(少し近い!)
目の前の揺れる双丘に、無意識に視線が向く。
(不可抗力だっ!!)
すぐに視線を逸らし、平静を装う。
人生で初めての経験に、それも最高のシチュエーションに動揺するなというのは無理がある。
いい歳をした大人なのだから、もちろん、自制心は人並みにある。だからこそ平成を保つ努力をしているし、できるだけ凝視はしないようにしている。
しかし、思春期の子供のように何度も慌てふためいている自分が少し情けない。
そのように、自分に呆れたり慌てたりと忙しない胸中を隠しながら、俺はその後も神経衰弱に興じた。




