第四話 レトロ?ゲーム!
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(確か、実家で子供のころに使っていたトランプが引越しの時に紛れ込んでいたんだよな…押し入れの中に入れたはずだ)
俺は押し入れの扉を開けて奥のダンボールから、ケースに入ったトランプを取り出した。
特別な柄が描かれたりはしていない、オーソドックスなデザインのトランプだ。
「懐かしいな〜、子供の頃は友達とか親と遊んでいたんだ」
「楽しそうですね!」
長い間、使用していなかったトランプは何枚かの橋が少し傷んでいたものの、意外と色褪せたりはしていなかった。
昔を思い出しながら山札をシャッフルして、その後は手順通りに自分と六葉さんに手札を配ったりし、ゲームの準備を済ませた。
「六葉さんからどうぞ。好きなのを一枚、引いてみて」
「は、はい!」
六葉さんは目を輝かせてワクワクとした様子から一転、真剣な表情で俺が持つカードをジッと見始めた。
トランプに真剣になっている姿が子供のように無邪気で可愛らしい。
純粋なんだな、と心から感じた。
さらに、世知辛い世の中では希少かもしれないと思うと、切ないような六葉さんが貴いような複雑な気持ちになった。
「失礼しますっ」
意を決した六葉さんが腕を伸ばし、俺のカードを一枚取った。
自分の手札を持つ俺の指先と、カードを取る六葉さんの互いの指先が、微かに触れた。一瞬だったが、柔らかくて、スベスベな肌だと確かに脳が認識した。
(!…って、俺は中学生か!?)
たった指先が触れた…それだけのことで心臓がドキッと激しく反応したのが恥ずかしくて、慌てて口を開いた。
「丁寧だな〜もっと気楽に取ってくれても大丈夫なのに」
「そ、そうですよね。つい緊張して、力が入ってしまったみたいです」
六葉さんは自分に呆れたように笑い、同時に肩の力を抜いたようで、先ほど、指先が触れたことはまったく気にしていないようだ。
「そう言えば今更だけど、ババ抜きは二人だけでやるのには不向きだと言われているのも知ってる?」
「いえ…あっ、もしかして、どちらがジョーカーを持っているのかが解ってしまうからですか?」
「うん」
「えっあっ、で、では、私がジョーカーを持っているのも当然…」
六葉さんはあたふたとしながら自分の手札を握りしめた。
「ごめん、知っているんだ」
「そ、そうですよね!…でも、負けませんよ!さぁ、雄二さんも引いて下さい!」
「どれがジョーカーかな〜」
こうして、俺と六葉さんは明るい空気のままゲームを進めた。
その約十分弱後、早くも決着が着こうとしていた。
「さ、さぁ!残り二枚ですよ!」
緊張した様子で六葉さんは自分の手札をジッと見ている。
約十分間、ジョーカーは移動することなく、最初と変わらず六葉さんが持っている。
…というのも、俺は初ターンからジョーカーの位置を知っていたからだ。
決して不正をして知ったのではない。偶然、不可抗力で知ってしまったのだ。
初ターン、ババ抜きは二人で楽しむには不向きだと話した際、『そ、そうですよね!…でも、負けませんよ!さぁ、雄二さんも引いて下さい!』と言った後、六葉さんは焦燥感で揺れた瞳で、チラリと自分のカードの右端、俺から見て左端を見ていた。その後も、何となく彼女はその際と同じカードをチラチラと見ている回数が多かった気がしたので、念のため、引かないようにしていたのだが…手札が減って確信した。六葉さんは俺から見て手札の左端にジョーカーを持っている。
(う〜ん、不正ではないんだけど、最初から知った状態でゲームを進めてしまって、少し申し訳ないな。あえてジョーカーを引くのもわざとらしいかと思って引けなかったけど、ジョーカーが人の間を移動したほうがゲームが盛り上がるし、わざとかなんて解らないだろうから引けば良かったな…俺の阿呆!)
今時のテレビゲーム等のほうが六葉さんにとっても面白かっただろう。それなのに、他者からは『たかがババ抜き』だと言われてしまいそうなトランプゲームに純粋に熱中している彼女の姿が、本当に愛らしかった。自分が好きなことを一緒に楽しんでもらえて安心したし、同じ喜びの感情を共有できて嬉しかった。
ほんの数分のゲームで、本当に少しだけでも仲良くなれた気がした。
(そう言えば、俺が子供の頃は親にババ抜きで勝ったくらいで凄く喜んでいたな…大人になった今でも、ゲームで勝てたら嬉しいのかな)
ブラック企業で働く毎日の中では、精神的に追い詰められていたため、仕事や最低限の生活のことばかりを考えていて、他の何かを考える余裕は無かった。ゆえに、今、自分の考えていたことが拍子抜けするくらいに平和で、少し子供っぽいけれど、そんなことを考えている時の自分は心に温かさを感じていて、その感覚が荒んだ精神を癒してくれているのも感じた。
六葉さんと同居するようになってからというもの、自分が家事をする時間が減ったからか、単純に美女との生活が楽しいからか、心に余裕が生まれ、仕事のこと以外についても考えられるようになった。
それだけで、ブラック企業のパワハラ上司による社畜洗脳から、かなり逃れられた気がする。
毎日暗い気持ちで過ごしていた時とは、もう違う。
もちろん、仕事は心身ともに相変わらず辛いし、完全に明るくなれたわけではない。
それでも確かに、六葉さんに救われたと感じている。
「六葉さん、引くね」
「はい!」
六葉さんが、緊張と期待の入り交じった表情で、俺を見て微笑んだ。
俺は、六葉さんの手札からそっと――右のカードを取った。
「…!」
「あちゃ〜、ジョーカーを引いちゃった」
俺は少し悔しそうに笑ってそう言った。
(八百長なんて六葉さんに対して失礼かもしれないけど…)
「…やったー!私、勝ったんですね!わぁ、ゲームって楽しいんですね!途中、ドキドキしながらカードを引き合うのもワクワクしましたし、負けてしまってもきっと楽しそうですね」
「――!…初ゲームで初勝利、凄いね。おめでとう!」
(この笑顔が見られたなら、八百長して良かったな。次からは六葉さんの視線の先は見ないようにしよう…もしくは、そのうちさりげなく視線に気を付けるように教えてあげよう)
昔、子供のころ、何人かの友達とババ抜きをした際に、ゲームで負けて不機嫌になる子が、少し苦手だった。その場の空気が悪くなるし、他の皆がその子の機嫌を取ったり、気を遣うようになる。
人それぞれ価値観は違うし、負けず嫌いな人はいる。人生を通して感じたのは、負けず嫌いな人は負けないために人一倍努力していて、向上心がある。
そのため、一概に悪いことだとは思わなかった。
ただ…皆で仲良く楽しくゲームをするのが大好きだから、空気が悪くなると少し残念だった。
言葉だけでは解らないけれど、六葉さんは穏やかな性格だし、実際にゲームで負けても笑ってくれそうな気がした。
勝利を無邪気に喜んで、大切そうにトランプを眺めている今の六葉さんも可愛いけれど、ゲームに負けて悔しがる六葉さんも可愛いだろうから見てみたいかも…と俺はまた下らなく邪なことを考えた。




