第一話 手作りご飯の二つの“温かい”
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本作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは関係御座いません。
なぜ、二人で家に入る前に気が付けなかったのだろうか?
疲れているからか??
アパートの1Kという、狭い我が家に帰ってきた俺と葉女さんは、リビングの入口で絶句していた。
「…」
部屋が汚すぎる。
言い訳をさせてくれ!最近は仕事が本当に忙しくて掃除する時間が無かったんだ!!…と言いたいが、良い大人が言い訳を口にするのも何となく恥ずかしくて…かと言って他に何を言えば良いのかも解らず、気まずい沈黙を流してしまっている。
おっと、布団の上にも値札等のゴミがあるじゃないか…げっ!テーブルの上に昨日の夕飯のコンビニ弁当のゴミがっ!!食品系は流石に臭いとかがヤバい!引かれるっ!
「…あの」
葉女さんは実に気まずそうに、そっと口を開いた。
家主である俺が先に喋るべきだったのに、と今更ながら焦る。
「早速、お掃除をさせて頂いても構いませんか?…えっと、貴方はお疲れでしょうから、座ってお休みしていて頂けますと、嬉しいです」
「えっ…えっ!?掃除なんて、そんな!自分でやりますから!」
「お掃除も疲れてしまうじゃないですか。私は貴方を癒しに来たのに、疲れさせてしてしまっては意味がありません!お世話になるのですから、このくらいはさせてください!」
"このくらい"…?自分で言うのもなんだが、今の我が家はかなり汚いぞ!
(けど、お言葉に甘えた方がいいのかな…正直、本当に疲れているし、彼女も何かやることがあった方が、気持ち的にここにいやすいだろうし)
「では…お願いします」
「ありがとうございます!精一杯、頑張ります!」
「はい…」
彼女の笑顔は本当に、温かい日差しのように癒してくれるし…凄く可愛い。
そんな可愛い葉女さんが再び気まずそうに目を泳がせ、モジモジとし始めた。
「どうしましたか?」
「あっ、はい!あの…!お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「名前…あぁ!すみません名乗りもせずに!会社員をしております、堀田雄二と申します。えっと、仕事に青春を捧げた悲しい独身三十三歳です。葉女さんのお名前は?」
「えっと…無いのでお好きなように呼んで下さい。今の『葉女さん』でも良いですし」
「それだと寂しくないですか?同居…する訳ですし…もし宜しければ、私が葉女さんのお名前を考えてみましょうか?気に入らなければ、正直に仰って頂いて大丈夫ですので…!」
「えっ、逆に宜しいのですか!?名前…欲しいです!」
葉女さんは無邪気な笑顔を咲かせ、嬉しそうに目を輝かせた。こんなことでこんなに喜んでもらえて俺の方こそ嬉しいが、少しプレッシャーだ。子供の頃を含め、一度もペットすら飼ったことがなく、当然、寂しい独身なので子供に名前を付けたこともない。人生初かもしれないな、己のネーミングセンスが問われるのは。
「えっと…漢数字の六に葉っぱの葉で、葉女の六葉さん......なんてどうでしょうか?」
(…あっ、まずい!葉女さんがポカンとしている!駄目だったか!)
「す、すみません!流石に安直過ぎましたよね!?せめて緑とか頭のお花も似合っているので華子とかの方がっ…」
「いえ!六葉…とても気に入りました!可愛い響きですね。ありがとうございます」
(うわ......本当に癒されるな、葉女さん…いや六葉さんの笑顔(と巨乳))
「ほ、本当ですか…?」
「はいっ!」
「それなら良かったです」
「でも、どうして六葉…漢数字の"六"なのですか?」
「それは…六って実は幸運の数字だったりするんですよ。なので、六葉さんが幸せになれるようにと…」
「わあっ、素敵ですね。名付けてくれて本当にありがとうございます」
「いえいえ…!気に入っていただけたなら何よりです!」
「あの、気遣い過ぎて逆にストレスになってしまっても申し訳ないので、気軽に接してください。敬語もなしで、タメ口で大丈夫ですよ!」
「あ、はい…じゃなくて、うん」
うん、少し恥ずかしいな!
…恥ずかしいといえば、俺の部屋に巨乳美女(しかも優しい)と二人きり…!うわ、元々緊張していたけど、今になってさらに緊張してきた!
ブラックで仕事がハードな割に高くない給料の会社の社畜であるため、良い家に住めるほどの金はない。しかし、今のアパートの部屋は一人暮らしの物件だからと言うのもあるが、流石に狭すぎる。六葉さんといつまで同居生活をするのかはわからないが、仮に彼女がいなくなるのだとしても、もう少し広い家に引っ越してもいいかもしれない。
現状、大人が一人増えただけで、家が酷く狭く感じるのは問題だ。
給料が高くないとは言えど、安いわけでもない。今よりもう少し良いアパートやマンションに引っ越すくらいは可能だ。
家賃が上がることよりも、どちらかといえば引っ越しにかかる費用が少しでも抑えたいと思うところだが…幸い、趣味にかける時間すら無かった独身男性は身軽だ。この際、家具も買い換えようか…いや流石に調子に乗りすぎか?でもなぁ…。
それよりも、まず食事はどうしようか?買い出しの量とか単純に二倍になるのかな?いや、頻度が増えるのか…おっと、普段料理をしないのが露呈するな。最近はスーパーの値引きされた弁当ばかりだったからな…。
一人の世界に入って色々と考えていると、唐突に「雄二さん」と声を掛けられ、驚いて勢い良く顔を上げた。
「あっ、ごめんなさい。ボーッとしてた…」
「いえいえ、私こそ急に声を掛けて驚かせてしまってすみません。ところで、お部屋のお掃除が終わったので、少し早いですがお夕飯の準備をさせていただいてもいいですか?」
「えっ、もう?」
確かにそれなに長く熟考していたが、ゴミや服が散乱した部屋が片付くには足りない程度の時間だった筈だ。
部屋の中を見渡してみると、本当に片付けられており、綺麗だ。俺に気を遣ってか、掃除機はかけていないようだが、ゴミは一つも落ちていない。
「早い......手際がいいんだね、凄いです」
尊敬の意がこもり、意図せず敬語が混じったが、初対面の相手に急にタメ口で話せというのも社会人としては難しいものだ。まぁ、自分の適応力が低いだけかもしれないが。
「えへへ、ありがとうございます」
可愛い。しつこいようだが、本当に可愛い!顔立ちは美人系でありながら癒される可愛らしさも兼ね備えた、TVでよく見掛けるとある女優さんを思わせる雰囲気だ。
「それで、お夕飯に召し上がりたいお料理はありますか?」
「えっ、あ…何でもいいと言うと、困らせてしまいますよね…うーん…」
「無理に考えなくても大丈夫ですよ。料理名でなくても、食べたい食材とか、和食か洋食か等でも構いませんし…特に無ければ、何でもいいでも大丈夫です」
(や、優しい…!)
優しさに甘えてばかりではいけない。優しさには優しさを返さなくては!『何でもいい』だなんてとんでもない…!何か答えよう!
人間でない上、話から察するに人間に関してあまり詳しくなさそうな六葉さんが料理をできるのかは疑問なので、比較的に簡単な料理をお願いしてみよう。
「カレーなんてどうかな?もし難しそうなら…その、俺も料理はほとんどした事は無いけど、手伝うし」
「いえいえ、私に任せてください!では、失礼して冷蔵庫の中身を拝見させていただきますね」
「あっはい。どうぞ」
…あれ?冷蔵庫の中身って――。
ガチャッ
「あら」
六葉さんは冷蔵庫を開けた途端、固まってしまった。
冷蔵庫の中身はビールが一本だけ。
あとはマヨネーズやケチャップ等の基本的な調味料はある。一応。
…以上。それだけだ。食材らしい食材なんて皆無だ。第三者にこの事実を話しても嘘だと思われるだろうが、忙しくて本当に料理をする余裕など無かったのだ。
しかし、引かれただろうか?いくら忙しいと言えど、成人男性の家の冷蔵庫の中身があれだけとは――。
「本当にお忙しかったのですね…」
「え?」
「仕事帰りに買い物をするだけでも疲れるといいますし、短くても何十分とキッチンに立って作業をするのって、料理好きでもない限り、多少、億劫ですよね」
「…引かないんですか?」
「?…どうして引くのですか?雄二さんが一生懸命にお仕事を頑張っていた証拠でしょう?…頑張りすぎなので休んでほしいとは思いますが…引いたりなんかしませんよ」
「――、」
後ほど追記するかもしれませんが、現状は作者の時間の都合上、スピンオフを含む一話から二十話まで後書きは一旦お休みさせて頂きます。




