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第十一話 ショッピングモールデート

無断転載・複製・商業利用禁止。

本作品の著作権は作者個人のものとする。

本作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは関係御座いません。

商品を良く見せるため、相当な光量で店内を烱然と照らしている店々が並んでいるからか、晴れ空の外光と大差のない明るさに感じるショッピングモール内は、駅近という最高の立地とさらには日曜日ということで、たくさんの人がいた。移動に不自由があるほどではないが、人混みが慣れない六葉さんにとっては疲れやすい環境かもしれない。

(六葉さんが疲れたらすぐに気がつけるように、気を配っておこう。まぁ、俺も体力があるほうではないから先にバテる可能性もあるけど⋯)

「わぁっ⋯なんだか明るい場所ですね!キラキラしていて綺麗です」

子供の頃に家族と来たことはあるが、ショッピングモールに美女と二人で来るなんて人生で初めての経験だ。

俺に笑いかけてくれる六葉さんの笑顔のほうが、余程、輝いていて綺麗だ。

「喜んでもらえたなら良かった」

「あっ⋯大半の男性の方にとっては、ここはあまり楽しくない場所だとネットで見たのですが⋯もし退屈に感じたら直ぐに仰られてくださいね。そのときは、時間や体力に余裕があれば一緒に外に出て、雄二さんの好きな場所に行ってリフレッシュしましょう?もちろん、そもそも退屈させてしまわないように私も工夫しながらショッピングを楽しみますね」

(凄く気遣ってくれているな⋯それにしても、変なネット情報を鵜呑みにしているな⋯いや、事実なのかもしれないけれど。どちらにしても、情報リテラシーの授業は必要そうだな)

「ありがとう。でも、俺も六葉さんとショッピング⋯まだ一つもお店は見ていないけど、それでもすでに楽しいくらいだから大丈夫だよ。人混みにはお互い疲れそうだけど」

そう言って俺が笑うと、六葉さんも「ふふ」と可愛い声で小さく笑った。

「私もすでに楽しいです。でも、そろそろお店も見に行ってみましょうか」

「そうだね。服屋を中心に、それ以外にも六葉さんが気になるお店があったらどんどん入って見てみよう」

「雄二さんも、もし気になるお店があれば仰られてくださいね」

「うん。じゃあ、行こうか」

相変わらずワクワクとした可愛らしい表情でコクン、と頷いた六葉さんと並んでショッピングモール内を歩き始めた。

「一階のお店は⋯化粧品や雑貨のお店などですね。化粧品は、メイクをしない雄二さんにとっては流石にご興味が無いかと思いますので⋯あっ、香水のお店⋯!」

(化粧品店の近くも匂いが凄かったけど、香水専門店はもっと凄いな⋯香りが強くて、長い時間いると気分が悪くなりそうだ。でも、少しなら大丈夫そうだし何より六葉さんが気になっているみたいだから入ってみよう。彼女にとっては全部が初めての体験で、どれもこれもが目新しいのだから、色々見せてあげないとな)

香水専門店に入りたくないと俺が思っているだろうと思っているのであろう六葉さんは、ハッとした表情をした後、遠慮がちに別のお店に視線を移した。

「香水店、行こう。気になるんでしょう?俺も気になるものがあるかもしれないし」

「ほ、本当ですか?ありがとうございます」

六葉さんがそう言って二人で香水店に足を向けた瞬間、俺達よりも少々早歩き気味の若いカップルが話しながら六葉さんの横を通り、すれ違いざまに男性の肩が六葉さんの肩にぶつかった。

「きゃっ⋯」

六葉さんが小さな悲鳴をあげてよろけた。

俺は支えようと手を伸ばしたが、六葉さんは自力で踏みとどまったので、その手は行き場を失って空中で固まった。

「うわ、邪魔」

「チッ」

「す、すみません⋯」

舌打ちをした男性に、六葉さんが怯えた表情で俯き、縮こまって謝罪した。

六葉さんにぶつかってきた感じの悪いカップルは謝罪を無視し、歩いてその場を去っていった。

「大丈夫ですか?六葉さん」

俺は行き場を失っていた手を引っ込めて姿勢を正し、まだ怯えた様子の六葉さんに声を掛けた。

「大丈夫です⋯少し驚いただけですから」

そう言いながらすぐに俺を見上げ、いつものように明るい表情でニコリと微笑んだ。

(⋯でも、いつもより表情が明るくないというか、元気が無い感じだ。俺がもっと、さっきのカップルに対して果敢に言い返したりしていた方が良かったのかな⋯そうしたら、六葉さんをこんなに落ち込ませずに済んだかもしれなかったのに)

「⋯ごめん、俺がもっとあの人達に言い返したりしていれば⋯」

ブラック企業の社畜にとっては、理不尽に怒鳴ってくる上司に言い返さないのが普通だ。言い返すと、その内容が正論であったとしても、相手はより逆上するだけだからだ。

「そんな!怖い方々でしたし、穏便に済んで良かったですよ。それに、雄二さんが、よろけた私を支えようとしてくださったのに気がついていました。ありがとうございます」

「⋯!いやっ、実際に支えたわけではないし⋯と、とにかく、怪我が無いなら良かった。気分転換に、香水⋯見てみよう」

「はい」

(あー!デートプランをあんなに頑張って考えたのに、こんなアクシデントが起こったら台無しじゃないか⋯!なんとかして、ここから盛り返して六葉さんに楽しんでもらわないと!)

「わぁ、この容器の色と形、可愛い!」

いかにも大人の女性好みらしい店の内装と商品達は、男の自分からすると、綺麗だな、くらいの感想しか出ないが、それを見て喜んでいる六葉さんを見るのは、なんだか凄く嬉しい。

(香水専門店さん、ありがとう)

胸中、謎の感謝をしながら商品と六葉さんを眺めた。

「いい香り⋯!」

テスターがあるらしく、六葉さんはいくつかの商品の香りを試しに嗅いでみているようだ。

気に入るものが多いらしく、いくつかのテスターを試しては、うっとりとした表情をしている。

そんな大人っぽさを感じる表情も、可愛らしく愛おしい。

(意外だな〜、なんとなくムスクとかは“葉女”として苦手そうだと思ったけど、むしろ気に入っているみたいだ)

「雄二さんも良ければ嗅いでみませんか?男性にも人気があるらしいですよ」

六葉さんが自分の手に持っているテスター⋯商品の香水を染み込ませた(ムエット)を遠慮がちに俺に差し出した。

「是非!」

夏に男同士で集まったり、満員電車の中にいると自分自身や周りの匂いが気になることもあるし、気分転換にもなるらしいので、香水を買ってみるのは良いかもしれない。今日は六葉さんのために買い物に来たが、ついでに自分のものを買うのも悪くないだろう。

(六葉さんも、二人で一緒に楽しむことを望んでいるみたいだしな。俺も何か自分に買った方が、気を遣わせずに済むかも)

「森林をテーマに、オーガニック素材で作られているらしいですよ。どうですか?」

「おぉ〜、こんな香水もあるんだ!思っていたよりも全くキツくないし、爽やかでいいな」

(店内に実際に充満している甘ったるい香水の香りと同様のものばかりかと思っていたけど、偏見だったんだな)

「甘くないので男性や社会人でも使いやすいとポップに書かれていますね。⋯あっ、でも高いですね!う〜、いつか買おう」

(六葉さんはいくつか気に入った商品があったみたいだけど、これが特に気に入っていたんだな⋯俺と香りの好みが近いのかな)

ドキっと心臓が脈打った。

「っ⋯」

(⋯誰かと好みが同じって、嬉しいものなんだな。いや、六葉さんだからなのかな)

「雄二さんは、甘い香りは苦手ですか?」

値段を見た後に慌てて商品を棚に戻した六葉さんが、自然と俺を上目遣いで見上げた。

(可愛いっ)

「あー、甘い物は割と食べるけど香水はどうかな⋯甘すぎるのは苦手かも」

「そうなんですね。私は、人工的な香り以外は結構好みでした。違うところもありますが、森林の香水の好みは雄二さんと同じみたいで嬉しいです」

「⋯!」

(俺と、同じことを思ってくれたんだ。⋯まぁ、やっぱりそうだよな。同居人と香りの好みが同じの方がトイレの芳香剤選びでもめないからな。)

「良かったら、この香水、俺が買うからシェアしない?抵抗が無ければだけど⋯買うか悩んでいたけど、二人とも気に入っているなら買わないともったいない気がするし。どうかな?」

「えっ⋯で、でも⋯お金を出していないのに使うなんて⋯香水なんて、私にはまだ贅沢ですし⋯」

「気にしなくていいよ。六葉さんが勧めてくれなかったら、そもそもこの香水に出会えなかったし、そのお礼だと思って」

「うぅっ⋯!そこまで仰られるのなら⋯!あ、ありがとうございます!大切に使います!」

「じゃあ、六葉さんが他に見たいものとか買いたいものが無ければ会計に行こうか」

「はい!大丈夫です」

レジで香水を店員に手渡すと、会計はスムーズに進んだ。

(一万六千円か〜⋯結構高いけど、今まで趣味とかにお金を使うこともなかったし、今日はその分の貯金から出そう。それに、大人の買い物だし、このくらいはするよな。知らんけど)

会計を終えて退店し、再びショッピングモール内を二人で歩いていると、あっさり人混みの波に飲み込まれた。

「六葉さん、はぐれないように傍にいてね」

「はい!⋯あ、あの⋯良ければ、はぐれないように手を繋ぎませんか?⋯い、嫌でしたら服の裾を掴むとかっ⋯あっでも、そこまでしなくても大丈夫ですかね!?」

(初心だっ⋯!積極的なのに恥ずかしそうにしているのが可愛い)

「じゃあ、繋ごうか」

幸いにも手汗はかいていなかったが、何となく自分のズボンで軽く手を拭いて六葉さんの手を握った。

もちろん、いわゆる、恋人繋ぎではないが、美女とのスキンシップに必然的に心臓は密かに荒々しいロック系のライブの如く脈打ち始めた。

(落ち着け俺!冷静になれ!デートプラン通りにしっかりエスコートするんだろ!!)

デートプランと言っても、内容は細かいものではない。デート経験の少ない己の身の丈にあった無理のない程度のプランである。

纏めると⋯

一、六葉さんが人混み等に疲れていそうだったらカフェやフードコートで休憩を挟む!

二、六葉さん主導で、本人に好きな店を回ってもらう!

三、昼食はショッピングモール内のレストランで!

実は、昼食はついでに外食をしよう、と前日に六葉さんに伝えてある。その際、彼女は初めての外食を楽しみにしている様子で、ネットで調べてフードコートについて知り、「色々なお食事のお店が集まっているなんて凄いですね!選び放題で、気分に合わせて決められますね」と感動していたが、このショッピングモールにはフードコートの他にもレストランなどが集まっているスペースがある。事前に六葉さんは和食が好きだとリサーチ済みで、すでに和食のお店を予約している。

(サプライズ、喜んでくれるかな⋯?ネットで見るフードコートの情報に、まさかあんなに熱心になるとは思っていなかったからな⋯フードコートが良かったって言われたらどうしよう⋯俺的には良かれと思って贅沢したつもりなんだけどなぁ)

願わくば、行き違わないことを!

「どのお店も可愛いお洋服がたくさんでしたね⋯!でも、個人的にはこのお店が特に凄く好みです⋯!さり気ないフリルがヒラヒラしていて大人可愛い感じ⋯こんなお洋服に以前から憧れていたんです!」

(以前から?⋯もしかして、元々、洋服に興味があったのかな。もしそうなら、もっと早く気がついて連れてきてあげれば良かったなぁ)

「六千円⋯買えない値段ではありませんね」

(あっ自分で買おうとしている!会計の時、サッと横から出せばいいよな⋯!?スマートに!!)

六葉さんは袖口に大人っぽくさり気ない程度のフリルがあしらわれた、綺麗な水色のトップスが気に入ったようで、値札と睨めっこをしながら悩んでいる。

(俺の我儘のせいで、バイトもたくさんできているわけではないもんな⋯少ない財布の中身との相談が必須になるのも当然だ。もう、俺がお金を出すって言ってあげた方が良いのかな?でも、そうすると六葉さんは気を遣うだろうから、断られそうだし⋯とりあえず、買う方向に誘導してみよう)

「その服______」

「お客様、お悩みですか?よろしければ、あちらでご試着もできますよ〜」

俺の陰キャボイスは、明るい女性店員さんハキハキとした声に掻き消された。

「試着⋯でも、その間、お待たせさせてしまうのは⋯」

六葉さんはオドオドしながら服から手を離した。

「いいよ!待つのも好きだし、悩んでいるなら試着してみるのがいいと思うな!」

六葉さんがせっかく気に入った服を諦めてしまう前にどうにかしなければ、と焦って脳内で考えが纏まらないまま喋ったが、こうするほか無かったと思うので後悔はしていない。

「そ、そうですか?なら、お言葉に甘えて⋯えっと、なるべく急ぎますから!」

「いや、ゆっくり着替えてきて。スマホでも見て待ってるから」

「ありがとうございます。では、いってきますね」

俺に申し訳ないと思っているのだろう⋯遠慮がちに微笑み、店員の案内を受け、例の服と共に店内の試着室へと消えていった。

「ふぅ⋯」

(なんとかなったかな)


五分後、「雄二さん」と六葉さんの声が聞こえて反射的にスマホから顔を上げた。

シャーッ音を立ててとカーテンが開き、着替え終えて嬉しそうに微笑む六葉さんが姿を表した。

(可愛いっ!!)

試着してみると、ただハンガーに掛けられた服を見た時とは、まるで印象が異なった。

肩あきのデザインで、袖口と裾にさり気ないフリル。すっきりとした首元。六葉さんに良く似合う、綺麗な水色。春夏らしい生地。

涼しげで、綺麗で、可愛くて⋯こんなにもたくさんの魅力的な要素を詰め込めるものなのか、と心の底から感動した。

「ど、どうでしょうか⋯?」

嬉しそうな明るい表情から一転、自信なさげな様子で恥ずかしそうに頬を赤く染めて俺を見た。

「す、凄く似合っているよ!か、可愛い⋯と思う」

(せ、セクハラかな!?本心をそのまま言ってしまったけど、良くなかったかも!こんな美女が、おじさんなんかに可愛いとか言われたいわけがないし、気持ち悪がられたり______!)

「本当ですか!?嬉しいですっ⋯!」

(あっ⋯)

六葉さんは、美人で優しくて、物覚えも良く、頭が良い。

俺とは釣り合わないし、いつか俺なんかとは離れるに決まっているし、彼女はそれを望んでいる。今はただ、臨時でシェアハウスをしているだけ。

なんて、自虐的なことを思っていた。

しかし、もしかするとそれは六葉さんに対する侮辱だったのかもしれない。

いつも俺を気遣ってくれて、とても優しくしてくれて、大したことでなくても褒めてくれて、何かしてあげたら凄く喜んでくれる。

そんな、温かい人が俺を気持ち悪がったりなんか、そう簡単にするわけがなかったのだ。

(今さらすぎるな⋯六葉さんは、こんなにも優しいのに)

「⋯俺が、その服を着ている六葉さんを見たいからさ、俺に買わさせてもらえないかな?ネクタイをプレゼントしてくれたのが凄く嬉しかったから、そのお礼もしたいんだ」

「えっえっ⋯そ、そんな」

六葉さんは、何故か顔を真っ赤にして慌て始めた。

(えっ、俺、変なこととか言った!?直球で本心を言葉にしても六葉さんなら受け入れてくれると思って勇気を出して伝えたのにっ!早まったのか!?)

六葉さんは、目をギュッと瞑り、「ありがとうございます⋯」と、とても恥ずかしそうに、か細い声を絞り出した。

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