第十話 ドライブデートは憧れるけど一緒に電車に乗るのも⋯
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ガヤガヤと騒がしい駅の構内は、大きい駅ということもあり、かなり人が多い。
そんな中、六葉さんに聞こえやすいように、いつもより少しだけ声を張って話し掛けた。
「昨夜も説明したけど、今日は電車に乗るよ。初めての六葉さんにとっては揺れが強く感じるかもしれないから⋯体調が悪くなったりしたら、遠慮せずすぐに言ってね」
「はい!お気遣い、ありがとうございます」
「あと、子供扱いするわけではないけど、お互いに、はぐれないように気をつけよう」
「勿論です!ちゃんと雄二さんのお隣にいますよ」
(可愛いっ!なんかいいなぁ、その台詞!)
ニヤけそうになる頬を固い意思で何とかギリギリ固めながら二人分の切符を購入した。
六葉さんは切符の買い方を覚えるためか、その様子をじっくりと見ていた。
「えっと、あの人達があそこの機械にカードを翳したり、小さい紙を入れたりしているのが見える?」
「はい。改札口、ですよね。あの人達や雄二さんを真似て切符を使えばいいんですよね?任せてください!私にもちゃんとできそうです」
自分が子供のころに初めて改札口を通る時なんかは緊張でドキドキしたものだが、六葉さんは大丈夫そうだ。
ちなみに俺は、六葉さんの可愛さにドキドキして、子供のころとは別の種類のドキドキを味わいながら改札口を通ることになりそうだ。
その後、問題なく改札を通って目的の電車に乗り込んだ。
しかし、少しアタフタとしながら切符を入れて改札を通り、出てきた切符を慌てて取る六葉さんの姿は可愛かった。集中しながらも焦ったような表情や、全身のカチコチとしたぎこちない動きの一つ一つに感情が露呈していて、普段はスマートに家事をこなしている六葉さんとはギャップがあり、魅力的だった。
また、電車に怯えたりする様子はなく、「テレビで見たことはありますが、実際に見ると、改めて人を運ぶ機械とは凄いですね」とむしろ関心を寄せているようだった。俺が子供のころ、電車に喜ぶ男児は周囲にいたし自分もそうだった。そして自身が大人になった今も、電車に乗ってはしゃいでいる子供を見るのは珍しくない。
人間に関することは葉女である六葉さんにとってはどれもが新鮮なことで、無邪気な反応をするのは当然だと思う。
それを子供っぽくて可愛いと思うのが俺の本心だが、それを口に出して言ってしまうと、子供扱いをして馬鹿にしていると勘違いされてしまいそうでなかなか言えない。
ただ、俺は気が付いてしまったのだ。今までは特になんとも思っていなかったが、六葉さんを見ていると、実は大人の“子供っぽい”とは⋯可愛いということに!!
もちろん、限度はあるだろうが、六葉さんは丁寧な話し方や人としてしっかりとした内面と整った容姿の雰囲気がどちらかと言えば大人っぽいのに対し、時折見せる子供のような無邪気さや純粋さが、現代社会の闇から救い出してくれる光のように感じられる!
と言うか可愛い!とにかく可愛い!ギャップ萌え限定の話でもない!なんなら、仮に六葉さんが常に子供っぽくても可愛いと思う!!大人っぽいしっかりした人が好きな人にとっては“常に”となると流石に理解に苦しまれるだろうが、少なくとも俺にとっては、子供っぽいとは実は侮辱的な意味だけではない⋯ということだけは知って欲しい。⋯なんて、一人で脳内で語ったところで何にもならないが。
「わぁ⋯」
俺が一人でひたすら変な思考を巡らせていた間に、六葉さんは外の景色を見て楽しみ、小さく感嘆のため息を吐いているようだった。俺達が住んでいる所は大都会ではないため、電車は運が良ければ座席に座れる程度の混み具合で、今日は二人で並んで座れていた。
いつもにこやかな六葉さんだが、今日はずっとワクワクとした様子で、少し興奮気味で、とても明るい表情だ。
(⋯あ)
散々、六葉さんの顔を可愛いと思いながら見ていたが、彼女が今日は薄っすらと化粧⋯メイクをしていることに、今さら気がついた。
(マズい!俺、何も言ってないじゃん!出掛ける準備が終わって家を出て駅まで歩いて電車に乗った今までずっと、マトモに一言も褒めたりしてない!)
本人は怒ってはいない様子だが、早めに何か言っておかなければ後々、六葉さんを傷付けてしまう気がする。
メイクは女性の義務だのコスメ(化粧道具)は必需品だのなんだのと言うが、俺が気がつかなかっただけで、六葉さんもいつの間にか自分のバイト代で買っていたのだろう。
メイクは全く知らないが、とにかく凄く薄化粧だということは解る。
(どおりでいつもよりドキドキするわけだ⋯よく見ると完全にいつもより可愛い)
薄ピンクのリップ⋯以外は知識が無いので何がなんだかよく解らないし、それにどれだけお金がかかったのかも解らない。
(何か⋯デパコス?とか、化粧道具も値段はピンキリだって言うし⋯六葉さんが俺のネクタイや自分の必需品にバイト代を充てていることを加味すると、あまりメイクにはお金をかけていなさそうだな。最低限⋯みたいな感じかな)
色々な勉強をしているようだが、メイクも勉強していたのか、と感心した。
しかし、もし本当に“最低限”しか化粧品にお金をかけられなかったのならば、六葉さんは満足できていないかもしれない。
(えっ、服をプレゼントしようと思っていたけど変更するべきか⋯?いや、両方?⋯は流石に気を遣わせるしやりすぎだよな⋯いやでも女性へのプレゼントはやりすぎくらいが丁度いいってネットで見たことがあるけど本当かなぁ⋯?ど、どうしよう?化粧品とか解らないのに)
こうして、悶々と一人で考え込み始めてからすぐに目的の隣駅に到着したため、自分の中で答えを出せないまま六葉さんと電車を降りて、駅の目の前のショッピングモールに向かうのだった。




