第90話 効率と常識は相容れぬのぅ
「で、今日からどうするよ?」
レーベンで公爵からの許可証を待つ事になった。
わしらは宿の食堂で朝食を食べ、これからの予定を話し合っておった。
「この街でも旅に必要な物資を買いましょう。
もしかしたらラグナールの街にないものもあるかもしれません」
「うむ、それは必要じゃろうな」
「俺は美味い飯が食いたいな。
腸詰めもそうだが、昨日街中で美味いボアの肉が食える飯屋があるってのを耳にしたぜ」
「それは楽しみじゃのう」
フレインやドランの提案に、わしも同意した。
「あのー……」
アリアが口を開き、わしらは顔をアリアの方に向けた。
「お金は大丈夫なんですか?」
「ふむ」
わしは金の入った袋を確認した。
「猫探しの報酬の金はまだ残っとるの。
まぁ確かに今後の長旅には心許ないが──」
ふむ、とわしは思案した。
「まぁわしの家の素材を売れば問題ないじゃろ」
「いやいやいやいや、それはボニフさんのものですし、パーティーの資金ではないですよ!」
「いや、しかし効率的に考えるとじゃな……」
そこまでわしは言ったが
「まぁ、確かになんでもかんでもボニフに頼りっきりってのは、あまり性分にあわねぇな」
ドランが同意した。
「いや、しかしのぅ……」
と、言いかけると今度はフレインから待ったがかかる。
「以前ドラン殿から仲間とは、恐縮せず頼るものだ……と言っていました。
ボニフ殿はもう少し私たちを頼ってもいい、と思います。
一緒に行動した時間はお二人より短い期間ですが……」
「私もアリア殿、ドラン殿と同意見です」
フレインはまっすぐな目で、わしを見てそう言った。
「仕方ないのう」
非効率じゃ……とは思ったが、妙に胸の中に温かいものを感じた。
(仲間とは、こういうものかの)
わしは宿の中から外の景色に視線を移した。
「ボニフさん、なんだかおじいさんみたいですね」
「いや、実際に年はじじいだろ」
「見た目はお若いですが」
「いや、エルフのおぬしに言われてもな」
わしらはお互いに笑ったのじゃった。
****
わしらはギルドへ行き依頼を受ける事にした。
ギルドへ入り受付へと行くと以前見た受付嬢がおった。
「本日はー。どのようなご用件でー?」
カウンターに頬杖を突きながら、受付嬢であるリサが対応する。
相変わらずやる気のない受付嬢じゃのう。
「Cランク相当でパーティー依頼をしたい。
何か良い依頼はないかの。
出来れば一日か二日以内に完了出来そうなものが良いのじゃが」
わしがそう伝えると、リサが面倒そうに掲示板に指を向けた。
「あそこの掲示板にあるやつから選んで持ってきてー」
どうやら見繕う気まではないらしい。
「よくそれで受付嬢やってるな……」
ドランが呆れた声で小さく呟いた。
「……ちゃんと処理はしますよー」
呟きが聞こえたのか、リサがそう返答した。
わしらは仕方なく、掲示板の方へ向かう。
「あのような人もいるのですね。
勉強になります」
「いや、あそこまでやる気なく仕事している人はそこまでいませんよ」
フレインの真面目な言葉に、アリアが付け足した。
わしはそれを横で聞きつつ掲示板に目をやる。
《依頼名:街道の魔物討伐》
《依頼名:荷馬車の捜索》
《依頼名:盗賊の目撃情報調査》
「この辺りが丁度よさそうじゃな」
「盗賊の調査依頼は場合によっては日数がかかるんじゃねぇか?」
ドランが腕を組んで唸った。
「では魔物討伐か荷馬車の捜索ですかね」
「どれも困っている方がいそうなので、選ぶのが難しいですね。
ボニフさんならどれを受けますか?」
フレインとアリアが二つで悩みながら、わしへと聞く。
いや、そもそもじゃ。
「全部同時には無理かの……?」
「「「え?」」」
わしは人差し指を立てて続ける。
「街で盗賊の目撃情報の聞き込みをする」
「聞き込みの情報を整理して根城を推測または断定」
フレインが「なるほど」と呟いた。
わしは続いて二本目と指を立てた。
「街道を移動して魔物を討伐しつつ荷馬車を捜索」
さらに、わしは三本目の指を立てた。
「場所にもよるじゃろうが、捜索と同時に根城の確認……
二日もあれば出来るじゃろ?」
わしがそう言うと三人は黙った。
「なんというかボニフに言われると出来そうな気がするが……」
「えぇ非常に理にかなっているようには感じますね……」
「いや、でもそんなに上手く行きますかね?
と、いうかそんな依頼の受注、普通しませんよ」
ドランが空を仰ぎ、フレインが目をつぶって頷き、アリアは呆れたような顔をした。
「まぁものは試しじゃ。
仮に失敗しても、失敗から学ぶこともあるぞ」
「なんかボニフさんの言葉に歴史を感じますね」
アリアが言った言葉に「そりゃぁの」と呟きながら、わしは三枚の依頼書を受付に持って行った。
****
「いやー……無理ですよー、それ」
リサの気の抜けた声が飛んできた。
「同時受注って、ギルド規約で禁止なんですよー。
個人ならまだしもー……パーティー依頼は責任が重いのでー……」
「なるほどの。確かに責任の所在は曖昧になるの」
「でしょー? だから一個ずつ受けてくださーい」
「……まぁ、規約なら仕方ないの」
「さっそく失敗からの学びがありましたね」
アリアからそんな皮肉が飛ばされた。
まさか、アリアに皮肉を言われる日が来るとはのう……
「どれでもいいならこれでいいですよねー」
リサがそう言いながら一番上にあった《街道の魔物討伐》の受注登録を勝手にすすめた。
「「「「え?」」」」
わしらは目を丸くしてリサを見た。
「はーい、どうぞー。頑張ってくださーい。
討伐証明と依頼の完了報告はギルドまでお願いしまーす」
そこまで言うと、リサはわしらから視線を外して本を読み始めた。
「まさか、わしらの意見を聞かずに登録するとは」
「確かにどれにするか迷ってはいましたが」
「でも、ギルドとして大丈夫なんでしょうか……」
「まぁ決まっちまったもんは、それやっちまおうぜ」
わしらは四人で困惑しつつも登録した依頼のために移動をした。
それにしても……
(意見を聞かずに仕事を早く終わらす、という点ではわしより効率的……なのかのう)
「いや、多分それ絶対違いますからね?」
アリアがわしの心を読んだように、そう言った。
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