第86話 戦力強化じゃ
預かってもらっておった馬車を引き取り、わしの家へ。
翌朝。
わしらはレーベンへ向かう前に、準備を済ませることにした。
恐らくじゃが、許可証の発行と受理というには時間がかかるじゃろう。
「ボニフさん、その荷物はなんですか?」
アリアはわしが担いだ荷物を指差して、そう聞いた。
「これはな、おぬしらの武器の素材じゃな」
「お? 俺の槍もか?」
ドランの言葉にわしは頷いた。
「その素材をどうするのでしょうか?」
「ボルジャーに頼むのがよかろう」
ラグナール、レーベン、王都と旅をしたが、
恐らくボルジャーの腕は確かじゃろうな。
「ボニフ殿とアリア殿の短剣、ドラン殿の槍ですか」
「おぬしの弓も、じゃな」
(まぁわしのは不要じゃがな)
フレインはしばし何かを言おうとしておったが、静かに礼をした。
「この先、何があるか分からぬ。
念には念を。
しすぎてしすぎることはないじゃろう」
家を出て馬車に乗りラグナールへ向かう。
****
門を抜け、いつもの宿ではなく馬車工房へ向かう。
「ボルジャーのとこへ行くんじゃねぇのか?」
「うむ。武器もそうじゃが長旅には馬車も補強した方が良かろう。
移動は恐らく馬車に頼り切りになるじゃろうし」
「馬の飼い葉も必要ですね」
アリアが馬を見ながら言う。
「うむ。馬車工房であれば馬も見てくれるじゃろう」
****
広々とした作業場にたどり着くと一人の職人がこちらへとやって来た。
「なんだい?交換かい?それとも修理かい?」
日焼けした肌に、いかにも職人らしい作業着を着た女性じゃ。
「修理というよりは補強じゃな」
「ふーん」
女性はわしらが馬車から降りる前から、客車をじっくりと見回した。
「そんな補強する部分があるとは思えないけど?」
「まぁやってもらいたいことがあっての」
わしはそう言いながら御者台から降りると、他の三人も客車から降りた。
「まぁなんだい。ここじゃなんだから中へ入りな」
そう言って女性は作業場に併設された事務所の建物を指差した。
「おーい!この馬車、中入れて馬は厩舎へ連れていって!」
「へい!姉御!」
そう女性が言うと作業場の中から職人達がキビキビと動き出した。
「じゃ、こっちへ」
(この女性が馬車工房のトップなんじゃろうな)
わしはそう考えながら女性の後をついていった。
****
「で、あの馬車をどう補強したいって?」
事務所へついたわしらは女性の対面に座る。
「うむ。補強したい点は主に五点じゃ」
"車軸の強化"
"車輪の補強"
"懸架装置の改善"
"屋根の防水・断熱"
"重心の安定"
それを伝えると女性は目を丸くした。
「あんた、喋り方は変だけど馬車のことをよく分かってるね」
女性はニヤリと笑った。
「最近の作業は内装を豪華にして欲しい、無駄に装飾をして欲しい、なんてのが多いからね」
女性は肩をすくめて、そう言った。
「最高の補強をしてあげるよ」
その目には職人の矜持が宿っておった。
こう言った目をした職人は熱意のある最高の仕事をするもんじゃ。
「わしはボニファティウス。
ボニフと呼んでくれてかまわぬぞ」
「あたいはベルタ。
期待してな、ボニフ」
そう言って、わしらは握手を交わした。
****
馬車工房を出てボルジャーの元へ行く道中。
「ボニフさん、あんな補強のこと考えてたんですか?」
「うむ。あの馬車は作りは良いが次の長旅に耐えられるかは分からんかったからの」
歩きながらそう答える。
「それにしても、補強したい点が正確だったようですね。
あの職人の女性もそのような反応でしたし」
フレインが、わしに向かって言う。
「まぁ、さすがボニフってことだな!」
そんな話をしながらボルジャーの元へ辿り着いた。
****
「おう!あんたらか!」
ボルジャーが出迎える。
「なんだ?新顔か?」
ボルジャーがフレインの元へ歩いてくる。
そんなフレインの肩や腰を触りながら「ふむ」とボルジャーは呟いた。
触られたフレインは少し驚いておったが
「なんというか、華奢だが弦を引くのに必要な筋肉だけは強靭だな」
「ありがとうございます。
触っただけで分かるのですか?」
「そりゃ長年この仕事をしてりゃな」
ボルジャーは少しだけ誇ったような顔をした。
「んで? 今日はどうした?」
「これから長旅に出るのでな。
皆の武器を強化したい」
「いや、嬢ちゃんの短剣は相変わらずだし、そっちの槍はこの間強化したばっかりだろう」
ボルジャーがそう言ったと同時にわしは家から運び出した素材達をドンッと机の上に置いた。
「んだ、こりゃ」
ボルジャーがその荷物の皮袋の紐を解く。
「おいおいおいおい……」
ボルジャーが絶句し、アリアやドラン、フレインも袋の中を覗いた。
「おい、これなんて隕鉄じゃねぇか。
しかも魔力を帯びてやがる……
こっちは骨か? なんの骨か分からねぇが、得体のしれん圧を感じるぞ、こっちは──」
わしの袋の中から素材を取り出しながら、ボルジャーはぶつぶつと呟き始めた。
しばらく、素材達を確認したボルジャーがわしの方に振り返る。
「おい、こんなすげぇ素材どこから持って来た?
売れば一生、いや人生何周も出来るくらいの素材だぞ?」
ボルジャーの言葉を聞いて、アリア、ドラン、フレインが固まった。
「ボニフさん……一生遊べるって……」
「いくらなんでもそのような貴重なものを……」
「さすがの俺も少し引いたぞ……」
それぞれの反応にわしは苦笑した。
「家にあったのを持って来ただけじゃ」
そう言うと、ボルジャーがワナワナと肩を震わせた。
「ふざけんなよ! こんな素材が一人の家にそう、あってたまるか!」
「やかましいのぅ」
やれやれ。
****
騒ぎが収まって、ようやくボルジャーは冷静さを取り戻した。
たぶんじゃが。
「で? こいつらを素材にして嬢ちゃん達の武器を作りゃぁいいのか?」
わしはまず、アリアの方に視線を送る。
「うむ。そこの隕鉄はアリアの短剣じゃな。
今の短剣の重心を保った上で硬さや鋭さに特化した短剣を鍛えてもらいたい」
ボルジャーはわしの言葉に真剣に耳を傾けた。
わしは続けて視線をドランへ移す。
「水龍の骨の方じゃが、こっちはドランの槍じゃな。
この骨は槍の柄にピッタリのはずじゃ。
しなやかに曲がり、折れず、そして反発力が出る」
最後にフレイン。
「雷雲鳥の腱の方は弓の弦じゃな。
張り方次第じゃが、力の伝わり方が良くなり矢の射程距離も上がるはずじゃろう」
そしてボルジャーを見る。
「どうじゃ? 出来そうかの?」
ボルジャーは震えておる。
怒りではない。
恐らく──
「これだけの素材、方向性。
こんなもん見せられて断っちまったら鍛冶屋は廃業するしかねぇ」
ボルジャーは勢いよく立ち上がる。
「やらせて貰うぜ。
ただ素材がダメになっても知らねぇぞ?」
「おぬしでダメになったら今の時代じゃ恐らく誰がやってもダメじゃろう」
わしがそう言うと一瞬目を丸くしたが、視線を外した。
「やってやる。
ただし、これだけの大仕事だ。
二週間は待って貰う」
「ではその間にわしらはレーベンへ向かうぞ」
わしは頷き、三人を見た。
アリア、ドラン、フレインが同意の意図を持って力強く頷いた。
(妹の件で急ぎたいハズじゃが……)
わしはアリアをもう一度見る。
視線が合う。
わしの考えを読んだのか、アリアは首を振ったあと力強く頷いた。
その目は「大丈夫ですよ」と訴えておるのが分かった。
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