第85話 面倒な話ほど順序が大事じゃ
「あなた方の旅の目的なら」
ゼノスは机に指を置き、わしらを見渡した。
「武器を携えての帝国への入国は、ほぼ必須でしょう」
「まぁ、そうじゃろうな」
丸腰で行く理由もない。
「となると、問題は許可証じゃ」
わしが言うと、ゼノスは頷いた。
「正式な入出国許可証。その発行方法は、大きく分けて三つあります」
指を一本立てる。
「ひとつ。ラグナール領主に、私から頼む」
ふむ。
「ふたつ。レーベン領主──エルンスト殿に直接頼む」
アリアとドランが軽く反応する。
「そして三つ」
ゼノスは少しだけ間を置いた。
「レオポルト公爵。法務大臣であるあの方なら、より強力な許可証の発行が可能です」
「ほぉ」
ドランが小さく唸る。
「なんか一気に大物出てきたな」
「当然です。帝国を相手取るのですから」
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「ただし」
ゼノスは淡々と続ける。
「ラグナール領主に頼む方法は、あまり期待できません」
「ほう?」
「領主は帝国に対して及び腰です。
仮に発行されたとしても、どこまで通用するかは不明です」
「つまり、頼りないと」
「言い方は任せます」
ゼノスは苦笑した。
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「ではエルンスト殿か、レオポルト殿か、という話になるが……」
わしが言う。
「どちらも既にお会いになられていますよね?」
「うむ」
「なのであなた方はエルンスト殿とレオポルト公爵に面会出来る、という関門は突破しています」
フレインはその事実を聞いて「なるほど」と小声で呟いておる。
それを横にわしら三人は頷いた。
「二人で言えば最も確実なのはレオポルト公爵になるでしょう」
ゼノスは即答した。
「ですが王都までの往復には、かなりの時間がかかります。
それに発行の手続きもそれなりに時間を要するでしょう」
「王都は遠いからの」
「えぇ。急ぐ旅に向けて──という意味で言えば現実的ではありません」
フレインが静かに口を開く。
「では……レーベン領主に頼むのが最適、ということでしょうか」
「その通りです」
ゼノスは頷いた。
「先の闇ギルドの事件。
交渉も比較的スムーズに進むでしょう」
「まぁ、話は通るじゃろうな」
わしも同意する。
「で、どうする?」
ドランが三人を見る。
「選択肢としてはレーベン一択じゃろう」
わしは即答した。
「異論はないかの」
「ありません」
フレインが静かに頷く。
「私もそれがいいと思います」
アリアも続く。
「決まりだな」
ドランが笑った。
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「では──」
ゼノスはにこりと笑った。
ほんの僅かに、嫌な予感がする笑みじゃ。
「ちょうど良い依頼があります」
「ほう?」
「レーベン行きの乗合馬車の護衛依頼です」
「常設依頼ですので、いつでも受けられます」
「ついでに行け、ということか」
ドランが呆れたように言う。
「えぇ、ついでに」
ゼノスは悪びれもせず頷いた。
「報酬も出ますし、道中の安全も確保できます」
「合理的ではあるの」
わしは顎をさする。
フレインが小さく頷いた。
「効率的です」
「お前らほんとそういうの好きだな」
ドランが笑う。
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「では、その依頼を受けるということで」
「うむ」
わしは頷いた。
「手配は済ませておきます」
ゼノスは書類に手を伸ばす。
「出発はいつでもどうぞ。
ミレイに話を通しておきます」
「エルマではないんじゃな」
わしは、含みを持たせずに聞いた。
「彼女を評価していないわけではありませんよ?
冒険者ギルドにはあのような方も必要です」
「エルマにはいつも助けられてますよ?」
アリアは明るく言うと、ゼノスはそれを聞いて頷いた。
「まぁ今回はミレイの方が適切だと判断したまでです」
「適材適所、というやつじゃな」
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「では決まりじゃな」
わしは立ち上がる。
「まずはレーベンへ向かう」
三人もそれに続いた。
ゼノスは軽く頭を下げる。
「お気をつけて」
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